メンタルジェットコースター

始まりの声( 1 / 2 )

そんな事、急に言われても…

 
平成13年の冬。深夜、居間でくつろいでいた私は、突然誰かに「死ね!」と言われた。深夜だし、酔っ払いでも外を歩いているのか、と思ったが違う。「声」は男で、何度も私に「死ね!」と言ってくる。そんな事、急に言われても…よくよく聞くと、「声」は、頭の中でだけ響いている。実際に聞こえるのとは少し違う。「声」は調子に乗ったようにどんどん私を責めてきた。何度も何度も「死ね!」と言われるので、本当に死なないといけないような気さえした。深夜にも関わらず、私は親を叩き起こし、誰かが自分に死ねと言っている、と泣きついた。親は呆然としていた。

 それが、初めての幻聴だった。
 

始まりの声( 2 / 2 )

病院にて

 私は元々、パニック障害と鬱を併発していて、16歳の時から精神科に通っていた。「声」の聞こえた日から数日後、私は病院に居た。名前を呼ばれ、診察室に入る。担当の医師から

「変わりはない?」

と訊かれたので「声」の話をした。医師の顔色がさっと変わるのが解った。私は病院に来るまでの数日間も、「声」を聞き、頭の中がざわざわとし、心落ち着かず、ぐったりしながら過ごしていた。あまりにもぐったりとしていたので、病院に来る事が出来なかったのだ。「声」はたまに女になり、「自殺しろ」と囁いた。全てを医師に話し終え、医師が次に何を言うかだいたいは見当がついたが、医師は至って淡々と、

「統合失調症の疑いがあります。これからケースワーカーの所へ行って、専門病院を紹介してもらって下さい。うちには入院施設が無いので」

診察室を出て、ケースワーカーの待機所に向かう途中で親と合流した。私は基本的に、一人で診察を受けるようにしていたからだ。それは、親が極端に精神科医嫌いなのと、第三者が入ると面倒な事になりそうだったからだ。

「どうだった?」

と言う親に、私は、

「統合失調症の疑いだって。ケースワーカーの人に専門病院、紹介してもらうように、って」

と、普通のトーンで答えた。医師の見解に、凄くほっとしていたのだ。なんだか解らない頭の中のざわつきも、「声」も、ちゃんと理由があったからだ。

 そして、親と共にケースワーカーのもとへ行き、入院施設のある専門病院を幾つか紹介してもらった。それから父の車に乗って、病院を見て回り、閉鎖病棟のある、とある病院で改めて診察を受ける事になった。

 そこで、その病院の医師から意外な事を言われた。

「うーん。統合失調症じゃないと思うんだけど」

私は思わず、

「はい?」

と間抜けな返事をしてしまった。医師は、とりあえず療養は必要なようだから2週間くらい入院していくといい、と言い、私は産まれて初めて閉鎖病棟に入院する事になった。
あずみけい
作家:あずみけい
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