「そうかしら?私はその呼び名、好きだけどな」
「え!?〝窓際族〟だよ!!こんな名前のどこが良いの!?」
「いや、そりゃ、確かに、窓河君は、個性的で、色々とモノ好きだし、頑固なところもあるから、〝気難しい〟って感じる人も
いるかもしれないけど、だから同時に、しっかり信念もあって、
何事も途中で投げ出さないで常に一生懸命だし、そして、
何より優しいし。〝理解してくれる人が少ない〟っていうのは、
それだけ、窓河君の良さは、たとえるなら、かつての
〝ゴッホの絵〟みたいに、誰にでも解るワケじゃないくらい
〝魅力が強い〟って事じゃないかしら?」
「そう・・・なのかな・・・?」
「うん!きっとそうよ!!いや、絶対そうよ!!そうに違いない!!だから、物解りの悪い上司の人達の言う事なんて、
気にしなくて良いでしょ!!」
そう言われて、
嬉しさのあまり、窓河は泣きだし・・・
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」と叫んだ。
たくさん泣いた。
数十分後・・・
「窓河君、ノド、乾いたでしょ?」
「う、うん・・・」
彼女は、
コップに水道水を入れて飲ませてくれた。
「はい」
「ありがとう」
〝ジュー〟
コレがまた、ただの水道水なのに、とても、
そうとは思えないほど、かなり美味しい。
「ア、アレ?コレ、悪いけど、ただの水道水だよな?」
「そうだけど・・・」
「何でこんなに美味いんだろ?この前、君が会社で夜遅くにくれた水と同じくらい美味い。何でだろ?」
「う~ん・・・疲れてて、凄く苦しいぐらいにノドが渇いてたからじゃない?でも、良く分かんないけど、この前の水も、今飲んでる
その水も、窓河君にとって物凄く美味しいなら、何でもないただの水道水でも、窓河君にとっては凄く高価なモノなんだと思う」
「そうか~・・・」
「窓際族・・・か」
「うん?」
「あ、いや~、さっき言ってた〝窓際族〟って、窓河君は、嫌ってる言葉だけど、私は、
「ワケあって周りの人達から受け入れられなくて孤立してるけど、
〝渋い孤独のヒーロー〟みたいでカッコ良いと思うんだけどな~」
「そうか。君は、とても前向きで真っ直ぐなんだね!!」
「そんな事ないよ!!(笑)」この時、
窓河は、「この娘はなんて純粋な娘なんだ・・・・・・!!」と
思った。そして、彼女は言った。
「そうだ!!私のおじいちゃんとおばあちゃんさ、小さいけど、
喫茶店持ってるの!!
最近は、身体が言う事を聞かないせいで
やってないんだけど。窓河君も、コーヒー淹れるの上手だから、
今度来てよ!!そこで、この前みたいに、
皆で一緒にお茶しようよ!!パーティみたいに!!」
「急に良くそんな事考えるな・・・(笑)」
「良いじゃん!!この前、窓河君が来た時、家族全員、
凄く喜んでたし、〝また気軽に来て欲しい〟って言ってたわよ。
それに、窓河君、いつも一生懸命頑張ってて疲れてて、
大変そうだもん。気分転換も大事だよ!!」
「そうだったんだ!!ありがとう!!」
数日後、彼女の言った通り、そうやって皆で集まって、
パーティのようにお茶会をした。
〝ワイワイガヤガヤ〟
「ねぇ窓河君、このお菓子作るの手伝って~!!」
「は~い」
「はいコレ」
「ウッス」
「はい」
窓河は、見事な手さばきで、綺麗にお菓子作りをこなしていく。
「凄~い!!カッコ良い~っ!!窓河君、
コーヒー淹れるのが上手いのはこの前から
知ってたけど、お菓子を作るのも、凄く上手なんだね!!」
窓河は少し照れて・・・
「そ、そうかな・・・?」
「うん!!!」
「経験あるの?」
「まぁね。昔、俺のばあちゃんが、お菓子作るのが好きで、
良く手伝ってた。料理もだけど」
「へ~!良いね~!!」
その日、その喫茶店は、家族ぐるみで
凄く賑わった・・・・・・
彼女の祖父は、窓河と共同作業をしている
彼女を見て・・・・・・
「大きくなったな。昔はあんなに世話の焼ける子だったのに・・・・・・」
祖母は、「そうね~。とっても優しくて思いやりのある、良い子に育ったわ。もう子じゃなくて大人だけど(笑)」
祖父は、「全くだよ」と言った。
〝ワイワイガヤガヤ〟
その日、凄く盛り上がり、凄く賑わった。
それから、たまに、その日したようなお茶会と同じようなパーティを何度も何度もした。
だが、その後、彼女は「これからは、身体が言う事を聞かない祖父母を含め、家族を大切にしていきたい」という理由で退職した。
それから5年後の1984年。彼女の祖父は、
病気で死んでしまった。胃ガンだった。
祖母はまだ生きているが、〝うつ病〟にかかっており、もうかなり進行していて、もう、他人とまともに話す事すら出来ない。
どちらの病気の事も、彼女は知っていた。
「病気だったのか」
「うん」
「でも、おじいちゃんは、最後まで頑張って生きた。それに、
窓河君の事、凄く気に入ってたわよ!!私に〝あんな良い友達が
いたのか!!〟って。おばあちゃんもだけど」
「そうなんだ」
「あと、前に、何度もウチでお茶会したけど、
窓河君は、いつも、お菓子作るの手伝ってくれて、どれも、
あまりにも美味しかったから、
〝いつか自分が死んだら、もし良ければ、窓河君にあの喫茶店を
営んでくれたら良いな〟って言ってた」
「え!?そんな!?俺に!?いやいや!!
出来ないよ!!そんなの!!」
「そうかな?私は、素質あると思うんだけどな~。でも、窓河君、今、会社の仕事もあるから、夜だけ開店するお店とか?それか、
休日だけ開けるとか?」
「いや、良いよ。遠慮しとく」
窓河は、それからさらに1年後の1985年。
窓河は、ある日、窓河を嫌う上司の策略に
ハメられ、「Wind’s Delivery」を辞めさせられる事に
なってしまった・・・窓河は、絶望した。ただただ、絶望した。
「そ、そんな・・・、やっと、この仕事に
ようやく慣れてきたっていうのに」
イヤミな上司は、ほくそ笑みながら
「悪いな。じゃあ、今までお疲れ様でした」と、
窓河に皮肉を言った。