その後、また、
彼女の家へ向かった。相談するために。
そして、ドアを開けようとすると・・・
〝ドンッ!!〟
彼女が突然出てきて、窓河は、ビックリする間もなく、
顔を思いっきり打って、同時に鼻血を出した。
〝バン〟
「痛って~!!!」
「あ~!!ごめん!!来てくれたの!?でも、ごめん!!私、
今から、おばあちゃんのいる病院へ行くの!!!」
「え!?」
突然過ぎて、窓河は焦った。
「どういう事だよ」
「話は後!!!」彼女は、道路でタクシーに向かって手を上げ、
「すいませ~ん!!!」と言う。
そのタクシーに乗って、
タクシーの中で話を聞いた。祖母の様子が
おかしいというらしい。病院に着いて、様子を見てみると、本棚に置いてあるお菓子のレシピの、写真が映っているページを破り、それを食べている。
「おばあちゃん!!」そう言って、
祖母のその異食を止めたが、祖母はまだ、
「ケーキ・・・ケーキ・・・」、あるいは、
「プリン・・・プリン・・・」、あるいは、
「クッキー・・・クッキー・・・」と言っている。コレらは、
全て、窓河があの喫茶店のお茶会で作ったモノだ。
窓河は、
「アレ?何かおかしいぞ!!コレは!?」と
言った。
「え!?」
「いや、コレ、全部、俺があの喫茶店で作ったヤツだろ!?」
「あ~!確かに、そう言われてみれば!?じゃあ、私、ちょっと、急いでコンビニで買って来るわね!!」
そう言って、彼女は、
ケーキやプリンやクッキーを買って、祖母に食べさせるが、
あまり美味しそうにしない。
次の日、窓河と彼女は、あの喫茶店で、
久しぶりに色んなお菓子を作った。もちろん、
ケーキもプリンもクッキーも。
それを、
病院へ持って行って食べさせると、
彼女の祖母は嬉しそうに笑い、少しだけ元気を取り戻した。
二人は揃って、「良かった~」と言った。
「あのさ」と窓河が言い、彼女が「ん?」と言った。
「俺、色々考えた。やっぱり、あの喫茶店、
もらっても良いかな?」
「え!?どうしたの!?前に話した時と言ってる事が真逆じゃない!?」
「いや、実は、昨日、言いそびれたんだけど、
俺、会社、クビになっちまったんだ」
「え!?何で!?」
「ハメられちまったんだ。俺の事を嫌ってるヤツが勝手にお客さんに届ける品を入れてる箱の中に一緒にクモを入れて、それを
〝コイツがやりました〟って言われてさ」
「大変じゃない!?窓河君だけじゃなくて、お客さんも凄く困ったでしょ!?ちゃんともう1回、話した方が良いんじゃない!?」
「いや、皆、誰も、俺の事を信じてくれないんだ。
いくら話したってムダだろ」
「そんな・・・・・・」
「でも、これで良い。俺、前から思ってたけど、あの会社で
働いてても、幸せにはなれなさそうだから。それに、
今だって、コンビニのお菓子で全く笑いさえしなかった
おばあちゃんがとても喜んでくれたろ!?今、それが
かなり嬉しかったんだよ!!!」
「そう?分かった。じゃあ、祖父の遺言通り、あのお店、
窓河君に譲るわ」
「うん!本当にありがとうね!!」
「いえいえ!じゃあ、名前はどうする?もう、これからは、
窓河君のお店だから、窓河君の好きな名前にして良いのよ」
「そっか。じゃあ・・・・・・〝窓際族〟!
〝喫茶窓際族〟で!!」
「え?ホントにそんな名前で良いの!?」
「あ~!良いさ~!!だって、君が〝窓際族〟って俺の蔑称を〝孤独のヒーローみたいでカッコ良い〟って言ってくれたんじゃねぇか!!それに、喫茶店って、窓から景色を見るのも楽しみの一つ
だから、そういう意味でも喫茶店には合う名前だろ?」
「そう・・・・・・?」
「じゃあ、この名前は、ありがたくもらうぜ!!これからバリバリ働くからよ!!そんで、稼いだ金の一部は、
君や君の家族に渡す!!
そしたら、家計も支えられて、一石二鳥だろ!?」
「そこまでしてくれるの!?なんて優しいの!?
ありがとう!!!」
「いやいや!!どうって事ないよ!!お礼なら、むしろ、
こっちが言いたいよ!!!」
「でも、言い忘れてたけど、
問題が一つだけあるけど、どうする?」
「ん?問題って?」
「誰かの建物を別の誰かに譲ろうと思ったら、
そこそこ税金がかかるでしょ?」
「あ、そっか~。でも、俺、実はギャンブルが好きで、
どのギャンブルでも、思いっきり当てた事はねぇけど、宝くじで
ちょっと、競馬でちょっと、株取引でちょっと儲けて、
これまでの仕事でのささやかな貯金もあるし、全部合わせれば、160万ぐらいはあると思うし、それで払うよ。
「そんな大事なお金を・・・ごめんね・・・ありがとうね・・・」
「良いよ良いよ!!」
「私も、たまに手伝うから!!」
こうして、窓河は、
彼女の祖父母が営んでいた喫茶店を譲り受け、店の名前を変えて、〝喫茶窓際族〟を開業した。
それから時間は流れ、彼女は、
とある洋菓子店で知り合ったという、日本語も堪能なフランス人と結婚し、フランスへ移り住んだのだ。
そして、彼女の祖母も、
今はもう、亡くなってしまっている。
―ここでまた、現在の〝喫茶窓際族〟に情景は戻る―
霧河が店長・窓河に「へ~!そうだったんですね!!
とっても良いお話ですね!!」と言った。
「そうか?(笑)」
「はい!!」
「〝窓河さん〟なんですね。何か、僕と苗字が似てますね」
「そうなの?お客さんは、なんて名前なんだい?」
「〝
「へ~!!確かに、苗字の方は俺と似てるな~!!」
「はい(笑)。何か親近感沸きます(笑)」
「苗字が似てるってだけでか?(笑)」
「いや、それだけじゃなくて、店長さん、いや、
窓河さんと僕が少し似ていると思って」
「そうか?どんなところが?」
「〝一人ぼっちだった〟ってところです」
「へ~。お客さん、いや、霧河さんも、一人ぼっちだったの?」
「はい。というより、今も、一人でいる事は多いし、
相変わらず一人が好きです」
「そうか~。そういや、さっき、〝幼い頃に両親を亡くした〟って言ってたな」
「はい。正直言うと、あの時から僕は、ずっと一人だと
思ってました。けど、最近、会社で突然、
倒れちゃって、その時、夢の中に両親が出てきて、
母が〝心配してくれる良い友達が出来た〟って言ってくれて、
目が覚めたら、お茶を持ってきてくれた仕事仲間に
〝自分の身体を大事にして〟って言ってもらえて、
〝僕はもう孤独じゃない〟って思ったんです」
「そうか」
「はい。何か夢を見る時は、〝これでもか〟ってぐらい、
両親が出てくる事が多いんです」
「そっか。それはきっと、霧河さんにとってそれぐらい、
〝思い入れのある大事な両親だった〟って事じゃないのかい?」
「そうなんでしょうかね?」
「ああ。そうに違いないさ!」
「確かにそうかもしれませんね。そういえば、それと、クリスマスだった昨日、帰った後、家族との思い出のアルバムを見て、
その後、両親から最後にもらったクリスマスプレゼントのギターで作った両親への感謝の気持ちを綴った曲を弾いたんです」
「へ~。凄いね!でも、そこまでするって事は、やっぱり絶対、
その両親が大好きなんだよ!!!」
「そうですね!!!」
「うん!!!てか、お客さん、ギター弾けるの?じゃあ、今度、元日に〝年明けパーティ〟ってのをやるんだけど、大事なモノなのに
悪いけど、もし、その日、仕事が休みなら、そのアコースティックギター、ウチで弾いてくれねぇか?エレキギターはさすがに
使える環境じゃないけど」
「え?はい。僕は良いですけど・・・」
「そうか!!!休みなんだな!!!ありがとな!!!」
「いえいえ。でも、個人経営のお店なのに、元日も開店するんですか?あと喫茶店で大きな音を出して大丈夫ですか?」
「うん。まぁ、元日にどっかに遊びに行って、ウチに寄る人も
多いんでね。それに、毎年、〝年明けパーティ〟をする時は、
〝今日はパーティなので、ライブをします。その音が苦手な人は、テイクアウトするか、また後日お越しください〟って看板を
店の前の看板の横に置くし、ウチの店の壁、映画館の壁みてぇに
大きな音も良く吸収するようになってるから、
あんま近所迷惑の事、考えなくて良いし」
「そうなんですね(笑)」
「ああ、掃除や手入れも、いつもしっかりやってるし、
小さな店で、別にゴージャスでも何でもねぇけど、さっき話した
ように、俺は、昔からギャンブル好きだけど、あの話のあと、
色々競馬の事とか勉強して、それが自分でも驚くくらい良く当たるようになったからな。定期的に工事してるから、
防音加工と頑丈さだけはあるぜ!!!」
「へ~!!!それは凄いですね!!!」
「だろ~?!」
「はい!!!〝年明けパーティ〟、とても楽しみです!!!」
「おう!!!サンキューな!!!」
その後、霧河はお勘定し、
「ごちそうさま」と言って、店を出ようとした。
だが・・・・・・
「あ~、そういえば、聞き忘れてたんですけど、このお店、
窓河さんが継ぐ前は、一体、なんてお名前だったんですか?」
「あ、あ~・・・そういや、それは、俺も覚えてねぇや(笑)。
ずっと昔の事だし、年のせいもある。悪いな」
「そうですか」
〝バタン〟