「俺、色々考えた。やっぱり、あの喫茶店、
もらっても良いかな?」
「え!?どうしたの!?前に話した時と言ってる事が真逆じゃない!?」
「いや、実は、昨日、言いそびれたんだけど、
俺、会社、クビになっちまったんだ」
「え!?何で!?」
「ハメられちまったんだ。俺の事を嫌ってるヤツが勝手にお客さんに届ける品を入れてる箱の中に一緒にクモを入れて、それを
〝コイツがやりました〟って言われてさ」
「大変じゃない!?窓河君だけじゃなくて、お客さんも凄く困ったでしょ!?ちゃんともう1回、話した方が良いんじゃない!?」
「いや、皆、誰も、俺の事を信じてくれないんだ。
いくら話したってムダだろ」
「そんな・・・・・・」
「でも、これで良い。俺、前から思ってたけど、あの会社で
働いてても、幸せにはなれなさそうだから。それに、
今だって、コンビニのお菓子で全く笑いさえしなかった
おばあちゃんがとても喜んでくれたろ!?今、それが
かなり嬉しかったんだよ!!!」
「そう?分かった。じゃあ、祖父の遺言通り、あのお店、
窓河君に譲るわ」
「うん!本当にありがとうね!!」
「いえいえ!じゃあ、名前はどうする?もう、これからは、
窓河君のお店だから、窓河君の好きな名前にして良いのよ」
「そっか。じゃあ・・・・・・〝窓際族〟!
〝喫茶窓際族〟で!!」
「え?ホントにそんな名前で良いの!?」
「あ~!良いさ~!!だって、君が〝窓際族〟って俺の蔑称を〝孤独のヒーローみたいでカッコ良い〟って言ってくれたんじゃねぇか!!それに、喫茶店って、窓から景色を見るのも楽しみの一つ
だから、そういう意味でも喫茶店には合う名前だろ?」
「そう・・・・・・?」
「じゃあ、この名前は、ありがたくもらうぜ!!これからバリバリ働くからよ!!そんで、稼いだ金の一部は、
君や君の家族に渡す!!
そしたら、家計も支えられて、一石二鳥だろ!?」
「そこまでしてくれるの!?なんて優しいの!?
ありがとう!!!」
「いやいや!!どうって事ないよ!!お礼なら、むしろ、
こっちが言いたいよ!!!」
「でも、言い忘れてたけど、
問題が一つだけあるけど、どうする?」
「ん?問題って?」
「誰かの建物を別の誰かに譲ろうと思ったら、
そこそこ税金がかかるでしょ?」
「あ、そっか~。でも、俺、実はギャンブルが好きで、
どのギャンブルでも、思いっきり当てた事はねぇけど、宝くじで
ちょっと、競馬でちょっと、株取引でちょっと儲けて、
これまでの仕事でのささやかな貯金もあるし、全部合わせれば、160万ぐらいはあると思うし、それで払うよ。
「そんな大事なお金を・・・ごめんね・・・ありがとうね・・・」
「良いよ良いよ!!」
「私も、たまに手伝うから!!」
こうして、窓河は、
彼女の祖父母が営んでいた喫茶店を譲り受け、店の名前を変えて、〝喫茶窓際族〟を開業した。
それから時間は流れ、彼女は、
とある洋菓子店で知り合ったという、日本語も堪能なフランス人と結婚し、フランスへ移り住んだのだ。
そして、彼女の祖母も、
今はもう、亡くなってしまっている。
―ここでまた、現在の〝喫茶窓際族〟に情景は戻る―
霧河が店長・窓河に「へ~!そうだったんですね!!
とっても良いお話ですね!!」と言った。
「そうか?(笑)」
「はい!!」
「〝窓河さん〟なんですね。何か、僕と苗字が似てますね」
「そうなの?お客さんは、なんて名前なんだい?」
「〝
「へ~!!確かに、苗字の方は俺と似てるな~!!」
「はい(笑)。何か親近感沸きます(笑)」
「苗字が似てるってだけでか?(笑)」
「いや、それだけじゃなくて、店長さん、いや、
窓河さんと僕が少し似ていると思って」
「そうか?どんなところが?」
「〝一人ぼっちだった〟ってところです」
「へ~。お客さん、いや、霧河さんも、一人ぼっちだったの?」
「はい。というより、今も、一人でいる事は多いし、
相変わらず一人が好きです」
「そうか~。そういや、さっき、〝幼い頃に両親を亡くした〟って言ってたな」
「はい。正直言うと、あの時から僕は、ずっと一人だと
思ってました。けど、最近、会社で突然、
倒れちゃって、その時、夢の中に両親が出てきて、
母が〝心配してくれる良い友達が出来た〟って言ってくれて、
目が覚めたら、お茶を持ってきてくれた仕事仲間に
〝自分の身体を大事にして〟って言ってもらえて、
〝僕はもう孤独じゃない〟って思ったんです」
「そうか」
「はい。何か夢を見る時は、〝これでもか〟ってぐらい、
両親が出てくる事が多いんです」
「そっか。それはきっと、霧河さんにとってそれぐらい、
〝思い入れのある大事な両親だった〟って事じゃないのかい?」
「そうなんでしょうかね?」
「ああ。そうに違いないさ!」
「確かにそうかもしれませんね。そういえば、それと、クリスマスだった昨日、帰った後、家族との思い出のアルバムを見て、
その後、両親から最後にもらったクリスマスプレゼントのギターで作った両親への感謝の気持ちを綴った曲を弾いたんです」
「へ~。凄いね!でも、そこまでするって事は、やっぱり絶対、
その両親が大好きなんだよ!!!」
「そうですね!!!」
「うん!!!てか、お客さん、ギター弾けるの?じゃあ、今度、元日に〝年明けパーティ〟ってのをやるんだけど、大事なモノなのに
悪いけど、もし、その日、仕事が休みなら、そのアコースティックギター、ウチで弾いてくれねぇか?エレキギターはさすがに
使える環境じゃないけど」
「え?はい。僕は良いですけど・・・」
「そうか!!!休みなんだな!!!ありがとな!!!」
「いえいえ。でも、個人経営のお店なのに、元日も開店するんですか?あと喫茶店で大きな音を出して大丈夫ですか?」
「うん。まぁ、元日にどっかに遊びに行って、ウチに寄る人も
多いんでね。それに、毎年、〝年明けパーティ〟をする時は、
〝今日はパーティなので、ライブをします。その音が苦手な人は、テイクアウトするか、また後日お越しください〟って看板を
店の前の看板の横に置くし、ウチの店の壁、映画館の壁みてぇに
大きな音も良く吸収するようになってるから、
あんま近所迷惑の事、考えなくて良いし」
「そうなんですね(笑)」
「ああ、掃除や手入れも、いつもしっかりやってるし、
小さな店で、別にゴージャスでも何でもねぇけど、さっき話した
ように、俺は、昔からギャンブル好きだけど、あの話のあと、
色々競馬の事とか勉強して、それが自分でも驚くくらい良く当たるようになったからな。定期的に工事してるから、
防音加工と頑丈さだけはあるぜ!!!」
「へ~!!!それは凄いですね!!!」
「だろ~?!」
「はい!!!〝年明けパーティ〟、とても楽しみです!!!」
「おう!!!サンキューな!!!」
その後、霧河はお勘定し、
「ごちそうさま」と言って、店を出ようとした。
だが・・・・・・
「あ~、そういえば、聞き忘れてたんですけど、このお店、
窓河さんが継ぐ前は、一体、なんてお名前だったんですか?」
「あ、あ~・・・そういや、それは、俺も覚えてねぇや(笑)。
ずっと昔の事だし、年のせいもある。悪いな」
「そうですか」
〝バタン〟
そして、霧河は店を出た。その後、街を歩きながら、
考え事をしていた。
(にしても、あの店の前の名前、何だったんだろう?気になるな。それと、まさか、コーンスープの時のあの言葉も、元々は、
あの人が別の人から言われた言葉だったとは。
あと、〝あの人が実は頑固で、しかも昔はぶっきらぼうだった〟
って事にも驚いた。今でも、喋り方こそ男らしいものの・・・
やっぱ、人って、変わるんだな。いや、というより、
人が人に変えられるんだ。
俺が、俺を育ててくれた親戚、それから、
実は意外と仲が良い事に自分でも気づかなかった同じ会社の社員、
プレゼントをあげて喜んでくれた子供達、それから、窓河さんも。皆、俺を変えてくれたんだ。大切な存在なんだ)
そうして歩いていると、偶然、会社の同僚達に会った。
そう、以前、霧河に居酒屋に誘った事がある男性社員達だった。
彼らは、全員で5人だった。
「ア、アレ?」
「ん、ん~?」
「霧河じゃねぇか~!!」
「お~!!君達こそ、どうしたの!?」
「いや、俺達、忘年会しようと思ってたんで、今日は、
皆で有休取ったんだ」
霧河は、あ然とし、固まった。
(良く5人も一斉に有休取れたな・・・・・・)と。
「なぁ霧河、今からゲーセンで遊ばねぇ?」
「ゲーセン?また?大人なのに。パチンコじゃなくて?」
「いや、童心に返りてぇ事だってあるだろ?」
「う、う~ん・・・まぁ、良いけど」
「よっしゃ~!!決まり~!!皆~!!霧河が一緒にゲーセンに行ってくれるってよ!!!」
すると一同が
「イェ~イ!!最高~!!!」と言った。
「そんなに喜ぶ事かな?(笑)僕一人が一緒に行く事になった
ぐらいで」
「何言ってんだよ!?お前だから嬉しいんじゃねぇか!!」
「そう?」
「ああ!!お前は俺達と一緒に遊んでくれる事、少ねぇだろ?特に、ゲーセンやパチンコみてぇなとこは1回も一緒に行った事ねぇし!!!」
「そうだけど・・・あの・・・」
「というワケで、行っきましょ~う!!!」
「しゃ~~~!!!」
「おい!皆、話、聞けよ!!ったく・・・強引だな~・・・」
だが、この時、霧河は、少し嬉しそうに笑い、
「まぁ、いっか!!!」と言った。