サンタクロースパイ

26.サンタクロースの色

「う、う~ん・・・」



音を立てたせいで女の子が起きてしまった。



「あっ!いっけね!!」



慌てて壁にぶつかった霧河は、誤って蛍光灯のスイッチを

押してしまった。



「ワ~ッ!!」と女の子が叫ぶ。



そこでまた

霧河が女の子の口を霧河自身の手で抑え、

「シ~ッ!!」と言う。



もう、本日3度目だ。



(毎度、子供が叫ぶ度にこれだから、ホント焦るな~)



「ねぇお兄さん、一体誰なの?」

「俺は〝サンタクロースパイ〟さ!!」

「へ~」



今回は、いつも言われる言葉がない。



「ねぇ、ひょっとして君、〝スパイ〟って

言葉を聞いた事がある?」

「知らな~い」



霧河はここでまたズッコケた。



「知らねぇのか~!!」と思わず大声を出してしまった。

今度は女の子が「シ~ッ!!」と言う。



「あ~!悪りぃ!!悪りぃ!!」

で、会話をした。



「お兄ちゃん、サンタさんなんだね!!

サンタさんって、若い人もいるんだ!!!」

「ま、まぁね!!」

「でも、サンタさんって、赤い服を着てるんじゃなかったっけ?」

「あ~、まぁ、本来ならそうだね。でも、まぁ、〝サンタクロースは赤い服を着なきゃいけない〟って決まりはないからね」

「そっか~」

「うん。そうだよ。でも、黒いサンタクロースも悪くないでしょ?!」

「まぁね!!カッコ良いと思うよ!!!」

「ありがとう!!!」



霧河は嬉しそうに笑いながら言った。

27.ボロボロでも、とても大切なモノ

「ところで君、マフラーが欲しいんじゃなかったっけ?」

「え!?何で知ってるの!?」

「あ~、ごめん!!言い忘れたけど、俺、たくさんの子に

プレゼントを渡すために、どこのどの子が何を欲しがってるのか、

盗み聞きしてるんだよ。ごめんな」

「そうなんだ~!!」



霧河は、

(この子、怒らないんだな)と思った。



「君は、マフラーを持ってないんだね」

「前まで使ってたのは、もうボロボロになっちゃったの」

「そっか。じゃあ、もう、捨てちゃったんだね」

「いや。まだあるよ」

「え?何で?もう使えないのに」

「だって可愛いし、おばあちゃんがくれた大切なモノだから」

「なるほどな・・・」

「いつまでだって手離さないよ」

そこに、そのボロボロのマフラーはないが、女の子の話から、

どれだけ大切なモノかが良く伝わってきた。

(良い話じゃないか)と霧河は思った。

(く~っ!泣けるぜ~!!良い話だな~!!)と。



「ところでお兄ちゃん、カギはどうやって開けたの?」

霧河は、持っていた金属の棒を取り出し、

「コイツを使って開けたんだよ」と言った。

「そうなんだ~」

「うん。でも、絶対真似しちゃいけないよ。俺の事も、お父さん

お母さん含めて、他の人達には一切秘密だからね!!」

「分かった!!」

「ありがとう!!じゃあ、また君の家に来るから、楽しみに

しててね!!!」

「うん!!!」

28.実は、読書家な少女

「君の名前は何?」

「私は、〝河合愛かわいあい〟」



(まるで可愛いモノを愛しているかのような名前だな)



「良い名前だね!!」

「ありがとう!!お兄ちゃんの名前は?」

「俺は〝網田謎留あみだなぞる〟」

「へ~!カッコ良い名前!!ミステリアス!!!」

「え?君は〝ミステリアス〟の言葉の意味を知ってるの?」

「うん!私が読んだ小説に書いてあったよ!!

私、小説、大好きなんだ!!」

「へ~!その年で小説をいっぱい読むなんて偉いね!!

俺、小説なんて、昔から全然読まったから」

「そうなんだ!でも、お兄ちゃん、私が一番好きな小説の主人公に良く似てる!!」

「そうなの?」

「うん!!ファンタジーが大好き!!!でも、その小説は、

今言ったのじゃないんだけどね」

「そうなのか」



「今言った〝ミステリアス〟って言葉が書いてたのは、タイトル忘れちゃったんだけど、

お兄ちゃんに似てる人が出てくるのは、

〝私の幻想はホントにあった〟だよ!!どう、

お兄ちゃん、普段小説を読まないみたいだけど、読んでみる?

私はもう、何回も読んじゃったし!!」



愛は、その小説を本棚から取り出し、霧河に渡そうとする。



だが、霧河は・・・



「良いよ。君の大切な本なんだろ?それに、

俺はサンタクロースだから、他人からモノをもらわない事にしてるんだ。そうじゃないと、サンタクロースって言えないだろ?」

「そっか~・・・うん・・・」

「でも、気持ちはありがとうね!!だから、

その小説は、今度、本屋で探して、自分で買うよ!!」

「うん!!ぜひ、読んでみてね!!」

「読むよ絶対!!じゃあ、愛ちゃん、これからも頑張ってね!!!」

「うん!!謎留お兄ちゃんも頑張って!!!」

「おう!!!」



そう言って、霧河は去っていった。

29.夢のような体験

愛は、再び寝て、朝起きて、ラッピングされた箱を覗いてみた。



その中には、ちゃんとマフラーが入っていた。そのマフラーには、

黒い服を着たサンタクロースとトナカイが一緒に印刷されていた。そう、コレはオーダーメイド。



愛はとても喜んだ。



「わ~!!とっても可愛いし、とってもカッコ良い!!!」



もちろん、その後、それを見た愛の母もまた、

「なんて事なの!?」と、とても驚いていた。

そう、愛の母はいつも、愛に「サンタさんなんているワケないでしょ」と言っていて、愛にも冷たく、クリスマスプレゼントを愛に

あげた事も一度もなく、それでも、「サンタさんはいて、いつか

ウチにやって来る」と信じ続けていたのだ。だから、

サンタクロースとして霧河が家にやって来た時も、他の子供達

よりも何十倍も喜んでいたし、ましてやその上、その

サンタクロースに会ったり話したり出来るなんて、まさか、夢にも

思っていなかったのだ。



愛の母は、

「不思議な事があるもんだね~」と言った。



それから、少しだけ、〝サンタクロース〟や

〝サンタクロース〟を信じている娘を馬鹿にしなくなり、少しだけ、

(考えを改めた方が良いかな?)と思ったのである。

COLK
サンタクロースパイ
0
  • 0円
  • ダウンロード

26 / 64

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント