愛は、再び寝て、朝起きて、ラッピングされた箱を覗いてみた。
その中には、ちゃんとマフラーが入っていた。そのマフラーには、
黒い服を着たサンタクロースとトナカイが一緒に印刷されていた。そう、コレはオーダーメイド。
愛はとても喜んだ。
「わ~!!とっても可愛いし、とってもカッコ良い!!!」
もちろん、その後、それを見た愛の母もまた、
「なんて事なの!?」と、とても驚いていた。
そう、愛の母はいつも、愛に「サンタさんなんているワケないでしょ」と言っていて、愛にも冷たく、クリスマスプレゼントを愛に
あげた事も一度もなく、それでも、「サンタさんはいて、いつか
ウチにやって来る」と信じ続けていたのだ。だから、
サンタクロースとして霧河が家にやって来た時も、他の子供達
よりも何十倍も喜んでいたし、ましてやその上、その
サンタクロースに会ったり話したり出来るなんて、まさか、夢にも
思っていなかったのだ。
愛の母は、
「不思議な事があるもんだね~」と言った。
それから、少しだけ、〝サンタクロース〟や
〝サンタクロース〟を信じている娘を馬鹿にしなくなり、少しだけ、
(考えを改めた方が良いかな?)と思ったのである。
また時間を遡り、霧河が27軒目に入った家での出来事。
〝ガチャ〟
侵入は、言うまでもなく、いつも通り、何ともなく上手くいった。だが、問題はその先だ。
その家では、プレゼントを渡す相手は親と一緒に寝ていて、ヘマして一人でも起こしてしまうと、それが命取りになってしまう。
なので、失敗は絶対に許されない。唾を呑むほど緊張しながら、
霧河は、「マグカップが欲しい」と言っていた女の子の枕元に、
そっとマグカップを置いた。
その後も何ともなく、
(良し!上手くいった!!)と思った。
その後、家を出て、いつも通り、入る時と同じやり方で、
外からドアのカギをかける。
(フ~ッ!!緊張した!!!)と大きくため息をつく。で、また、引き続き、
色々な家の子供達にプレゼントを渡した。
ついに、最後の30軒目。その家は防犯セキュリティが堅く、入る事は難しかった。
霧河は、ドアの前にプレゼントをラッピングした箱ごと置く。
「フッ、こんな事もあろうかと、〝これは
サンタクロースからの贈り物だ〟って書いた手紙をたくさん
用意してるんだよ」と言いながら笑う。
しかし、
それは手書きだと、字の形や筆圧などで自分だと特定されてしまう可能性があるので、パソコンで書いている。もちろん、
それも手袋をした状態でしか触れた事がないので、
指紋も一切付けていない。
帰る最中、警察に見つかりそうになるが、
とっさに、慌てて、たまたまそこにあった畑に慌てて入って
横になり、何とかやり過ごした。警察は、
「ん?何か今、物音が聞こえた気がしたけど、気のせいか。何ともなかったみたいだな~」と言った。
霧河は、
「フ~ッ!危ねぇ!!危ねぇ!!まさか、ここでまたため息を
つく事になるとは思ってなかった~!!それにちょっと、
チビッちまった~」と言った。
「あ~あ~。服が土まみれになっちまった~。
それにちょっと、今、チビって、ズボンも
汚れちまったし。まぁ、もう、全ての家に
プレゼントを渡し終わったし、どうせこの服も、ほとんど黒だから良いんだけどさ」と、少しがっかりしながらもホッとし、
「しかし、毎年、どれだけ頑張っても、30軒ぐらいにしか
届けられないのが残念なんだよな~」と言いながら家に帰った。
そして、その日のいつもの起床時間まで、
わずか2時間ぐらいだが寝た。
翌朝、霧河の会社「Excitement Story」では・・・・・・
〝チーン〟
「おい!霧河!どうした!?大丈夫か~!?」
「ウ・・・ウ~ン・・・大丈夫デスヨ・・・」
「いや!嘘つけ~っ!お前、ロボット並みに片言じゃねぇか!!
どこが大丈夫なんだよ!!さっさと人間に戻れ!!!おい!!!しっかりしろ~!!!」
「ウ・・・ウ~・・・」
そう、霧河は毎年、クリスマスの深夜、夜通しで
頑張っているため、その翌日には必ずこのように、
いつもの優秀さがまるっきり別人であるかのように、まるで魂が
抜けたかのように、疲労と眠気にとてつもなく襲われてしまうのである。
「ア・・・ア~・・・天使ガ私ヲ迎エニキテイル・・・ヨウナ・・・」
「お~い!何馬鹿な事言ってんだ!!お前、まだ25だろが!!!もっと人生楽しみたくねぇのかよ~~~!!!逝くな~~~!!! お前が死んだら俺達は、いや、この会社は
どうなるんだ~!!この薄情者~!!!恩知らず野郎~!!!」
〝ガクッ〟
「お~い~!!!霧河~~~!!!」
次の瞬間、
霧河の両親が目の前に現れた。霧河は、
「・・・俺は、死んじまったのか」と思った。そこで、
父は謎留に、「立派になったな!!俺は、そんなお前を父として誇りに思うぞ!!!」と言い、母は、「謎留!!頑張ってるわね!!あなたの事を心配してくれる素敵な友達も
出来たじゃない!!!」と言った。
「父さん・・・!!!母さん・・・!!!」
霧河は泣いた。
そして・・・・・・
〝ガバッ〟
ここは、談話室のソファーだ。
(うっ。何だ夢か~)
夢から覚め、とても寂しい気持ちになった。だがそこで、
「父さん、母さん、ありがとう」と夢の中とはいえ、
自分の成長ぶりを誉めてくれた両親にお礼を言った。
そこで、この前、霧河とサンタクロースの話をした女性社員が
お茶を持って歩いてきた。
「あ!霧河君!!気がついた!?」
「うん」
「良かった~!!霧河君、寝ながら泣いてたから、私、とっても
心配しちゃったわよ!!」
「え?僕、泣いてたの!?」
「うん」
「そうか~」
「あのね、霧河君、クリスマスは、ハメを外してパ~ッ!と
遊びたくなる気持ちも分かるけど、自分の身体や睡眠も大事に」してよね!!」
「う、うん。分かったよ」
(夢の中で母さんが言ってた事は、本当にその通りだった。
俺は、あの時からずっと孤独だと思ってたけど、ただの思い込み
だった!!俺はもう、とっくに一人なんかじゃなく
なってたんだ!!!さっきの同僚もちゃんと声かけてくれたし、
この娘も、そして、
クリスマスの日、ドジを踏んで姿を見られちゃった子供達も皆、
喜んでくれてた!!)
そこで思わず、また泣いてしまった。
「ん?霧河君、どうしたの!?また泣いてるじゃない!?」
霧河は涙を拭き、
「いや、何でもないよ。目にゴミが入っちゃっただけ(笑)。
ありがとうね」と言った。
「全然全然。良いわよ。どうって事ないわよ。じゃ、私、そろそろ仕事に戻るから!!霧河君も、そのお茶飲んだら、
仕事に戻ってね。もし、今日、もう仕事をする余裕がないなら、
帰っても良いし」と言って、彼女はその場を去ろうとする。
だが、霧河はもう一度、彼女を呼んだ。
「あ、あのさ、もう一つ、お礼を言いたいんだけど・・・」
「何?」
「僕なんかの事、この部屋まで運んでくれて、心配までしてくれてありがとうね!!!」
「え?何言ってんの?仕事の仲間を心配するのは当たり前でしょ?それと、自分の事、〝なんか〟なんて言うの良くないわよ?」
「でも、嬉しかったんだ!!」
「そう?じゃあ!!」
「あの娘、本当に良い娘だな!!!さっき心配してくれたヤツらもそうだけど」
その後、霧河は、しっかり仕事を頑張った。