サンタクロースパイ

28.実は、読書家な少女

「君の名前は何?」

「私は、〝河合愛かわいあい〟」



(まるで可愛いモノを愛しているかのような名前だな)



「良い名前だね!!」

「ありがとう!!お兄ちゃんの名前は?」

「俺は〝網田謎留あみだなぞる〟」

「へ~!カッコ良い名前!!ミステリアス!!!」

「え?君は〝ミステリアス〟の言葉の意味を知ってるの?」

「うん!私が読んだ小説に書いてあったよ!!

私、小説、大好きなんだ!!」

「へ~!その年で小説をいっぱい読むなんて偉いね!!

俺、小説なんて、昔から全然読まったから」

「そうなんだ!でも、お兄ちゃん、私が一番好きな小説の主人公に良く似てる!!」

「そうなの?」

「うん!!ファンタジーが大好き!!!でも、その小説は、

今言ったのじゃないんだけどね」

「そうなのか」



「今言った〝ミステリアス〟って言葉が書いてたのは、タイトル忘れちゃったんだけど、

お兄ちゃんに似てる人が出てくるのは、

〝私の幻想はホントにあった〟だよ!!どう、

お兄ちゃん、普段小説を読まないみたいだけど、読んでみる?

私はもう、何回も読んじゃったし!!」



愛は、その小説を本棚から取り出し、霧河に渡そうとする。



だが、霧河は・・・



「良いよ。君の大切な本なんだろ?それに、

俺はサンタクロースだから、他人からモノをもらわない事にしてるんだ。そうじゃないと、サンタクロースって言えないだろ?」

「そっか~・・・うん・・・」

「でも、気持ちはありがとうね!!だから、

その小説は、今度、本屋で探して、自分で買うよ!!」

「うん!!ぜひ、読んでみてね!!」

「読むよ絶対!!じゃあ、愛ちゃん、これからも頑張ってね!!!」

「うん!!謎留お兄ちゃんも頑張って!!!」

「おう!!!」



そう言って、霧河は去っていった。

29.夢のような体験

愛は、再び寝て、朝起きて、ラッピングされた箱を覗いてみた。



その中には、ちゃんとマフラーが入っていた。そのマフラーには、

黒い服を着たサンタクロースとトナカイが一緒に印刷されていた。そう、コレはオーダーメイド。



愛はとても喜んだ。



「わ~!!とっても可愛いし、とってもカッコ良い!!!」



もちろん、その後、それを見た愛の母もまた、

「なんて事なの!?」と、とても驚いていた。

そう、愛の母はいつも、愛に「サンタさんなんているワケないでしょ」と言っていて、愛にも冷たく、クリスマスプレゼントを愛に

あげた事も一度もなく、それでも、「サンタさんはいて、いつか

ウチにやって来る」と信じ続けていたのだ。だから、

サンタクロースとして霧河が家にやって来た時も、他の子供達

よりも何十倍も喜んでいたし、ましてやその上、その

サンタクロースに会ったり話したり出来るなんて、まさか、夢にも

思っていなかったのだ。



愛の母は、

「不思議な事があるもんだね~」と言った。



それから、少しだけ、〝サンタクロース〟や

〝サンタクロース〟を信じている娘を馬鹿にしなくなり、少しだけ、

(考えを改めた方が良いかな?)と思ったのである。

30.今年も、無事、活動終了?

また時間を遡り、霧河が27軒目に入った家での出来事。



〝ガチャ〟



侵入は、言うまでもなく、いつも通り、何ともなく上手くいった。だが、問題はその先だ。

その家では、プレゼントを渡す相手は親と一緒に寝ていて、ヘマして一人でも起こしてしまうと、それが命取りになってしまう。

なので、失敗は絶対に許されない。唾を呑むほど緊張しながら、

霧河は、「マグカップが欲しい」と言っていた女の子の枕元に、

そっとマグカップを置いた。

その後も何ともなく、

(良し!上手くいった!!)と思った。



その後、家を出て、いつも通り、入る時と同じやり方で、

外からドアのカギをかける。



(フ~ッ!!緊張した!!!)と大きくため息をつく。で、また、引き続き、

色々な家の子供達にプレゼントを渡した。



ついに、最後の30軒目。その家は防犯セキュリティが堅く、入る事は難しかった。



霧河は、ドアの前にプレゼントをラッピングした箱ごと置く。



「フッ、こんな事もあろうかと、〝これは

サンタクロースからの贈り物だ〟って書いた手紙をたくさん

用意してるんだよ」と言いながら笑う。



しかし、

それは手書きだと、字の形や筆圧などで自分だと特定されてしまう可能性があるので、パソコンで書いている。もちろん、

それも手袋をした状態でしか触れた事がないので、

指紋も一切付けていない。



帰る最中、警察に見つかりそうになるが、

とっさに、慌てて、たまたまそこにあった畑に慌てて入って

横になり、何とかやり過ごした。警察は、

「ん?何か今、物音が聞こえた気がしたけど、気のせいか。何ともなかったみたいだな~」と言った。



霧河は、

「フ~ッ!危ねぇ!!危ねぇ!!まさか、ここでまたため息を

つく事になるとは思ってなかった~!!それにちょっと、

チビッちまった~」と言った。



「あ~あ~。服が土まみれになっちまった~。

それにちょっと、今、チビって、ズボンも

汚れちまったし。まぁ、もう、全ての家に

プレゼントを渡し終わったし、どうせこの服も、ほとんど黒だから良いんだけどさ」と、少しがっかりしながらもホッとし、

「しかし、毎年、どれだけ頑張っても、30軒ぐらいにしか

届けられないのが残念なんだよな~」と言いながら家に帰った。

そして、その日のいつもの起床時間まで、

わずか2時間ぐらいだが寝た。

31.死んだはずの両親が目の前に!?

翌朝、霧河の会社「Excitement Story」では・・・・・・



〝チーン〟



「おい!霧河!どうした!?大丈夫か~!?」

「ウ・・・ウ~ン・・・大丈夫デスヨ・・・」

「いや!嘘つけ~っ!お前、ロボット並みに片言じゃねぇか!!

どこが大丈夫なんだよ!!さっさと人間に戻れ!!!おい!!!しっかりしろ~!!!」

「ウ・・・ウ~・・・」



そう、霧河は毎年、クリスマスの深夜、夜通しで

頑張っているため、その翌日には必ずこのように、

いつもの優秀さがまるっきり別人であるかのように、まるで魂が

抜けたかのように、疲労と眠気にとてつもなく襲われてしまうのである。



「ア・・・ア~・・・天使ガ私ヲ迎エニキテイル・・・ヨウナ・・・」

「お~い!何馬鹿な事言ってんだ!!お前、まだ25だろが!!!もっと人生楽しみたくねぇのかよ~~~!!!逝くな~~~!!! お前が死んだら俺達は、いや、この会社は

どうなるんだ~!!この薄情者~!!!恩知らず野郎~!!!」

〝ガクッ〟

「お~い~!!!霧河~~~!!!」



次の瞬間、

霧河の両親が目の前に現れた。霧河は、

「・・・俺は、死んじまったのか」と思った。そこで、

父は謎留に、「立派になったな!!俺は、そんなお前を父として誇りに思うぞ!!!」と言い、母は、「謎留!!頑張ってるわね!!あなたの事を心配してくれる素敵な友達も

出来たじゃない!!!」と言った。

「父さん・・・!!!母さん・・・!!!」

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