また時間を遡り、霧河が27軒目に入った家での出来事。
〝ガチャ〟
侵入は、言うまでもなく、いつも通り、何ともなく上手くいった。だが、問題はその先だ。
その家では、プレゼントを渡す相手は親と一緒に寝ていて、ヘマして一人でも起こしてしまうと、それが命取りになってしまう。
なので、失敗は絶対に許されない。唾を呑むほど緊張しながら、
霧河は、「マグカップが欲しい」と言っていた女の子の枕元に、
そっとマグカップを置いた。
その後も何ともなく、
(良し!上手くいった!!)と思った。
その後、家を出て、いつも通り、入る時と同じやり方で、
外からドアのカギをかける。
(フ~ッ!!緊張した!!!)と大きくため息をつく。で、また、引き続き、
色々な家の子供達にプレゼントを渡した。
ついに、最後の30軒目。その家は防犯セキュリティが堅く、入る事は難しかった。
霧河は、ドアの前にプレゼントをラッピングした箱ごと置く。
「フッ、こんな事もあろうかと、〝これは
サンタクロースからの贈り物だ〟って書いた手紙をたくさん
用意してるんだよ」と言いながら笑う。
しかし、
それは手書きだと、字の形や筆圧などで自分だと特定されてしまう可能性があるので、パソコンで書いている。もちろん、
それも手袋をした状態でしか触れた事がないので、
指紋も一切付けていない。
帰る最中、警察に見つかりそうになるが、
とっさに、慌てて、たまたまそこにあった畑に慌てて入って
横になり、何とかやり過ごした。警察は、
「ん?何か今、物音が聞こえた気がしたけど、気のせいか。何ともなかったみたいだな~」と言った。
霧河は、
「フ~ッ!危ねぇ!!危ねぇ!!まさか、ここでまたため息を
つく事になるとは思ってなかった~!!それにちょっと、
チビッちまった~」と言った。
「あ~あ~。服が土まみれになっちまった~。
それにちょっと、今、チビって、ズボンも
汚れちまったし。まぁ、もう、全ての家に
プレゼントを渡し終わったし、どうせこの服も、ほとんど黒だから良いんだけどさ」と、少しがっかりしながらもホッとし、
「しかし、毎年、どれだけ頑張っても、30軒ぐらいにしか
届けられないのが残念なんだよな~」と言いながら家に帰った。
そして、その日のいつもの起床時間まで、
わずか2時間ぐらいだが寝た。
翌朝、霧河の会社「Excitement Story」では・・・・・・
〝チーン〟
「おい!霧河!どうした!?大丈夫か~!?」
「ウ・・・ウ~ン・・・大丈夫デスヨ・・・」
「いや!嘘つけ~っ!お前、ロボット並みに片言じゃねぇか!!
どこが大丈夫なんだよ!!さっさと人間に戻れ!!!おい!!!しっかりしろ~!!!」
「ウ・・・ウ~・・・」
そう、霧河は毎年、クリスマスの深夜、夜通しで
頑張っているため、その翌日には必ずこのように、
いつもの優秀さがまるっきり別人であるかのように、まるで魂が
抜けたかのように、疲労と眠気にとてつもなく襲われてしまうのである。
「ア・・・ア~・・・天使ガ私ヲ迎エニキテイル・・・ヨウナ・・・」
「お~い!何馬鹿な事言ってんだ!!お前、まだ25だろが!!!もっと人生楽しみたくねぇのかよ~~~!!!逝くな~~~!!! お前が死んだら俺達は、いや、この会社は
どうなるんだ~!!この薄情者~!!!恩知らず野郎~!!!」
〝ガクッ〟
「お~い~!!!霧河~~~!!!」
次の瞬間、
霧河の両親が目の前に現れた。霧河は、
「・・・俺は、死んじまったのか」と思った。そこで、
父は謎留に、「立派になったな!!俺は、そんなお前を父として誇りに思うぞ!!!」と言い、母は、「謎留!!頑張ってるわね!!あなたの事を心配してくれる素敵な友達も
出来たじゃない!!!」と言った。
「父さん・・・!!!母さん・・・!!!」
霧河は泣いた。
そして・・・・・・
〝ガバッ〟
ここは、談話室のソファーだ。
(うっ。何だ夢か~)
夢から覚め、とても寂しい気持ちになった。だがそこで、
「父さん、母さん、ありがとう」と夢の中とはいえ、
自分の成長ぶりを誉めてくれた両親にお礼を言った。
そこで、この前、霧河とサンタクロースの話をした女性社員が
お茶を持って歩いてきた。
「あ!霧河君!!気がついた!?」
「うん」
「良かった~!!霧河君、寝ながら泣いてたから、私、とっても
心配しちゃったわよ!!」
「え?僕、泣いてたの!?」
「うん」
「そうか~」
「あのね、霧河君、クリスマスは、ハメを外してパ~ッ!と
遊びたくなる気持ちも分かるけど、自分の身体や睡眠も大事に」してよね!!」
「う、うん。分かったよ」
(夢の中で母さんが言ってた事は、本当にその通りだった。
俺は、あの時からずっと孤独だと思ってたけど、ただの思い込み
だった!!俺はもう、とっくに一人なんかじゃなく
なってたんだ!!!さっきの同僚もちゃんと声かけてくれたし、
この娘も、そして、
クリスマスの日、ドジを踏んで姿を見られちゃった子供達も皆、
喜んでくれてた!!)
そこで思わず、また泣いてしまった。
「ん?霧河君、どうしたの!?また泣いてるじゃない!?」
霧河は涙を拭き、
「いや、何でもないよ。目にゴミが入っちゃっただけ(笑)。
ありがとうね」と言った。
「全然全然。良いわよ。どうって事ないわよ。じゃ、私、そろそろ仕事に戻るから!!霧河君も、そのお茶飲んだら、
仕事に戻ってね。もし、今日、もう仕事をする余裕がないなら、
帰っても良いし」と言って、彼女はその場を去ろうとする。
だが、霧河はもう一度、彼女を呼んだ。
「あ、あのさ、もう一つ、お礼を言いたいんだけど・・・」
「何?」
「僕なんかの事、この部屋まで運んでくれて、心配までしてくれてありがとうね!!!」
「え?何言ってんの?仕事の仲間を心配するのは当たり前でしょ?それと、自分の事、〝なんか〟なんて言うの良くないわよ?」
「でも、嬉しかったんだ!!」
「そう?じゃあ!!」
「あの娘、本当に良い娘だな!!!さっき心配してくれたヤツらもそうだけど」
その後、霧河は、しっかり仕事を頑張った。
仕事を終えた後は帰って、昔の、
自分の写真や両親の写真や
自分と両親が一緒に撮った写真がたくさん
入っている家族アルバムを見た。
(懐かしいな~)
そこには、
霧河が生まれたばかりの頃の写真から両親と過ごした最後の
クリスマスの時の写真まで飾ってある。
そこで、写真越しに、
運動会の頃に履いていたシューズやクリスマスの時に両親と
被ったサンタ帽やケーキを見て思った。
「そうだ。コレらは、
ほとんどが安物だった。でも、俺にとっては、どれもこれも、
父さんと母さんが俺のために買ってくれた、凄く大切なモノだったんだ」
そう、霧河の家庭はとても貧しく、
あまり高いモノは買ってもらえた事が少ない。
クリスマスケーキや誕生日ケーキだって安物で、しかも、
いつも、ロウソクがなかった。
そこで、霧河は以前、
「窓際族」の店長が言っていた言葉を思い出した。
「酒に比べて値段が圧倒的に安いコーンスープを酒と同じ感覚で飲めるという事はそれが酒と同じくらいの値打ちがあるっていうのはこういう事なのか!」と言った。
そして、
昨日、マフラーを渡した女の子の事も思い出し・・・
(そうだ。そういえば、愛ちゃんも同じように、ボロボロのマフラーを〝おばあちゃんからもらった大切なモノだから手離さない〟
って言って、凄く大切にしてたな。そうだ。品物の本当の意味での価値っていうのは、値段で決まるモンじゃないんだ。
どれくらいそのモノに強い思いが込められているか。そして、
それがどれくらい、使う人にとって手離したくないほど
何度でも使いたいモノかどうかで決まるんだ。だからあの言葉は、本当に、とても深い言葉だったんだ・・・
簡単な事だけど、なかなか気がつかないんだ)
だが、だからこそ、小学6年生の頃、
アコースティックギターを買ってもらえた時、いつもの何倍も
嬉しかったのだ。アレは、
父と母が霧河のためにとても頑張って
無理をして買ってくれたモノだ。だからこそ、
霧河は、
「一生コレを手離さない」と決めたのだ。