久しぶりに、ギターで何か一曲弾いてみる事にした。
「もう遅いから、アコースティックギターは音が大き過ぎるから
ダメだけど、お隣さん家とは意外とちょっと距離あるし、
今ぐらいの時間、エレキギターをアンプに繋げずに
生音で弾くなら良いか」
そう、時間は22時。ここは田舎で人が少なく、
一番近くのお隣さんとは10メートルほどの
距離がある。ちなみに、昔、霧河と霧河の両親が
一緒に住んでいて、両親が死んで、長らく経ってから戻ってきて、現在は一人で暮らしている家である。
エレキギターは、就職してから自分のお金で買ったモノだ。
「あ~!よし、あの曲を歌おう」
それは、
霧河が映画などから言葉の美学を追求して、
作曲の勉強をして、高校生になった頃のある日、
両親に今までの感謝の気持ちを込めて作った哀悼の曲だった。
「ごめんな、父さん母さん。せっかくくれた
あのギターを使えなくて。でも俺、一生懸命心を込めて歌うよ。
聴いててくれよ」
霧河は、エレキギターを弾きながら歌う。
曲名は、「いつか僕の心は…」
「あの日からずっと絶望していた 心に穴が開いてしまった
大きな大きな穴 考えれば苦しい 忘れようとすれば寂しい
どうすれば良いの?でも思った ねぇ いつかきっと変わって
みせるよ 強くなってみせるよ
あなたは大切な僕の一部だから♪?」
コレがその曲だ。本当は2番や3番もあるが、
あんまり長くなるのも良くないので、とりあえず、
ここまでにしておく。
「フ~ッ。この曲、久しぶりに歌ったな~。てか、長くギター
弾いてなかったせいで、かなり下手になってるよ。
父さん、母さん、こんな演奏で申し訳ない。頑張ったけど」
そうやって一人で思いにふけった。
次の日は
仕事が休みだった。その日、昼から
「窓際族」に向かった。
〝カランコロン〟
「はい。いらっしゃい」
店長が声をかけてくる
「お~!この頃、良く来てくれるね!!
ウチが気に入ってくれたようで、俺は、凄く嬉しいよ~!!」
「あ~、いや、店長さんが凄く面白いお方で、
いつも話していて凄く楽しいんですよ!!」
「そうか~!そりゃ良かった~!!」
「はい!!」
「面白い・・・か。そんな事言ってくれる人は、
今までほんの2、3人しかいなかったな・・・」
「そうなんですか?」
「ああ」
「・・・・・・」
霧河は、昨夜考えて、やっと分かった事について店長に話した。
「あの~、以前、店長さんが教えてくださった〝僕にとっての
コーンスープが酒と同じくらい高価だ〟という事の意味が、最近、やっと良くわかりました」
「あ~、アレか~。あれからずっと考えてたんだな~」
「はい。まぁ。あの、この前、ある女の子が、ボロボロになって
使えなくなったマフラーを〝大切な人からもらった大切なモノ
だから〟って言って、ずっと大事に持ち続けていたんです」
「ほうほう」
「それから僕も、最近、亡くなってしまった両親がくれた色んな
モノが、全て、自分にとっては凄く大切なモノだったと、今、
改めて実感したんです」
「なるほどね~。ところで君、聞いてすまないけど、両親が
亡くなってるのかい?」
「はい。僕が小学6年生だった頃に」
「そうか~。そりゃ可哀想に。あともうちょっとってとこで、小学校を卒業するところも、両親に見てもらえなかったんだな・・・」
「はい」
「哀しいな~。両親も、さぞ見たかっただろうよ」
「ありがとうございます。いたわってくれて」
「いやいや、そんなに大した事じゃねぇって。口で何か言うぐらい、誰にだって出来るだろ」
「でも、嬉しいんですよ!!」
「そうか。お客さん、とても素直だねぇ~」
「ありがとうございます!!」
そこで霧河は、前から気になっていた事を
店長のおじさんに聞いた。
「ところで店長さん、なぜ、この喫茶店に
〝窓際族〟なんて名前をつけたんですか?
本来なら、〝窓際族〟って、あまり良い意味で
使われる言葉じゃないのに」
「・・・・・・」
「あ~!すいません!!」
「良いよ良いよ。そういう事はもう、昔っから、言われ慣れてっから」
「そうですか(汗)」
「それはだな・・・」
そして店長は、自らの過去を語り始めた・・・
1976年4月1日(木)。この日、
「
いた。
そう、「
見渡せば、皆、もう既に誰かしら友達が
出来ていて盛り上がっていて、窓河には、
出来ていなかった。
「やっぱりか。俺には、友達なんて、いつも無縁だ・・・何でこうも、どこ行っても誰とも仲良くなれねぇんだよ・・・今日はせっかく晴れて、桜もこんなに綺麗に咲いてるってぇのによ・・・」
窓河は、とても個性的で、かつ、とても頑固なため、小学校でも
中学校でも、いつも、周囲からは、「変なヤツ」、「絡みづらい」、
「仲良くなりたくない」などと言われ、
あまり良い印象を持たれていなかった。
そして、苗字が「
席替えの時でも、たまたま窓際のところに
座る事になる事が多かったため、
「窓際族の窓河」などという蔑称をつけられて呼ばれていた・・・
「チェッ、全然爽やかじゃねぇし、クソつまんねぇ入学式だぜ」
それから月日は経ち・・・
1979年3月1日(木)。
高校も、
全く友達が出来ないまま卒業式を迎え・・・
その卒業式も、全く楽しくなかった。
「結局、なんもねぇまま終わっちまったな~。ホント、
クソつまんねぇ青春時代だったぜ。
いや、全く青春なんてなかったよ・・・
こんな面白くも何ともなかった高校は、
卒業して寂しくも何ともねぇ。むしろ、
せいせいしてざまぁって感じだ」
そう言って、そのまま、窓河は、運送会社
「Wind’s Delivery」に就職した。
コンセプトは、その名の通り、
「風のように速く」である。
しかし、窓河は、
その会社で働いても、
学生時代と同様、なかなか他の人達と上手く打ち解けられず、
手際が悪いため、商品を上手く様々な家に届ける事が出来ず、
同じ職場の人達だけでなく、
お客さんにまでしょっちゅう迷惑をかけて、とにかく、
何かとただただ誰かに謝って、頭を下げるばかりの日々だった。
「すみませんでした!!!」と言い、
自分の机の前のイスに、大きなため息をつきながら座る。
「はぁ。もう、これで、この会社で頭を下げるの何回目だろ?」
窓河は要領が悪く、事務作業も遅いため、しょっちゅうの事だが、
その日も、遅くまで働いていた。
仕事を終えた後、帰ろうとすると、窓河の同期の女性社員が
「お疲れ様!!!」と言って、コップに入った水をくれた。
「あ、ありがとう」
〝ぐぐぐぐぐ〟
「プハ~ッ!!」
窓河は、そのコップの中の水を見つめた。
「アレ?コレ、いつも俺達が飲んでる水道水と変わんねぇよな?」
「そうだけど」
「今、飲むと、何でこんなに美味いんだろ?」
「頑張って働いて疲れた後だからじゃない?」
「そうなのかな~?」