サンタクロースパイ

34.高校の頃に作った曲

久しぶりに、ギターで何か一曲弾いてみる事にした。



「もう遅いから、アコースティックギターは音が大き過ぎるから

ダメだけど、お隣さん家とは意外とちょっと距離あるし、

今ぐらいの時間、エレキギターをアンプに繋げずに

生音で弾くなら良いか」



そう、時間は22時。ここは田舎で人が少なく、

一番近くのお隣さんとは10メートルほどの

距離がある。ちなみに、昔、霧河と霧河の両親が

一緒に住んでいて、両親が死んで、長らく経ってから戻ってきて、現在は一人で暮らしている家である。



エレキギターは、就職してから自分のお金で買ったモノだ。



「あ~!よし、あの曲を歌おう」



それは、

霧河が映画などから言葉の美学を追求して、

作曲の勉強をして、高校生になった頃のある日、

両親に今までの感謝の気持ちを込めて作った哀悼の曲だった。



「ごめんな、父さん母さん。せっかくくれた

あのギターを使えなくて。でも俺、一生懸命心を込めて歌うよ。

聴いててくれよ」

霧河は、エレキギターを弾きながら歌う。



曲名は、「いつか僕の心は…」



「あの日からずっと絶望していた 心に穴が開いてしまった 

大きな大きな穴 考えれば苦しい 忘れようとすれば寂しい 

どうすれば良いの?でも思った ねぇ いつかきっと変わって

みせるよ 強くなってみせるよ

あなたは大切な僕の一部だから♪?」

コレがその曲だ。本当は2番や3番もあるが、

あんまり長くなるのも良くないので、とりあえず、

ここまでにしておく。

「フ~ッ。この曲、久しぶりに歌ったな~。てか、長くギター

弾いてなかったせいで、かなり下手になってるよ。

父さん、母さん、こんな演奏で申し訳ない。頑張ったけど」



そうやって一人で思いにふけった。

35.店長に過去を打ち明ける霧河

次の日は

仕事が休みだった。その日、昼から

「窓際族」に向かった。



〝カランコロン〟



「はい。いらっしゃい」



店長が声をかけてくる



「お~!この頃、良く来てくれるね!!

ウチが気に入ってくれたようで、俺は、凄く嬉しいよ~!!」

「あ~、いや、店長さんが凄く面白いお方で、

いつも話していて凄く楽しいんですよ!!」

「そうか~!そりゃ良かった~!!」

「はい!!」



「面白い・・・か。そんな事言ってくれる人は、

今までほんの2、3人しかいなかったな・・・」

「そうなんですか?」

「ああ」

「・・・・・・」



霧河は、昨夜考えて、やっと分かった事について店長に話した。



「あの~、以前、店長さんが教えてくださった〝僕にとっての

コーンスープが酒と同じくらい高価だ〟という事の意味が、最近、やっと良くわかりました」

「あ~、アレか~。あれからずっと考えてたんだな~」

「はい。まぁ。あの、この前、ある女の子が、ボロボロになって

使えなくなったマフラーを〝大切な人からもらった大切なモノ

だから〟って言って、ずっと大事に持ち続けていたんです」

「ほうほう」

「それから僕も、最近、亡くなってしまった両親がくれた色んな

モノが、全て、自分にとっては凄く大切なモノだったと、今、

改めて実感したんです」

「なるほどね~。ところで君、聞いてすまないけど、両親が

亡くなってるのかい?」

「はい。僕が小学6年生だった頃に」

「そうか~。そりゃ可哀想に。あともうちょっとってとこで、小学校を卒業するところも、両親に見てもらえなかったんだな・・・」

「はい」



「哀しいな~。両親も、さぞ見たかっただろうよ」

「ありがとうございます。いたわってくれて」

「いやいや、そんなに大した事じゃねぇって。口で何か言うぐらい、誰にだって出来るだろ」

「でも、嬉しいんですよ!!」

「そうか。お客さん、とても素直だねぇ~」

「ありがとうございます!!」

36.ついに語られる、〝窓際族〟の名前の秘密

そこで霧河は、前から気になっていた事を

店長のおじさんに聞いた。



「ところで店長さん、なぜ、この喫茶店に

〝窓際族〟なんて名前をつけたんですか?

本来なら、〝窓際族〟って、あまり良い意味で

使われる言葉じゃないのに」

「・・・・・・」

「あ~!すいません!!」

「良いよ良いよ。そういう事はもう、昔っから、言われ慣れてっから」

「そうですか(汗)」



「それはだな・・・」



そして店長は、自らの過去を語り始めた・・・



1976年4月1日(木)。この日、

天野星高等学校そらのほしこうとうがっこう」の入学式だった。そこには、「窓河実爪まどかわみつめ」という名前の生徒が

いた。



そう、「窓河実爪まどかわみつめ」というのは、店長の本名だ。その日、体育館での式が終わって教室に移動し、教室内を

見渡せば、皆、もう既に誰かしら友達が

出来ていて盛り上がっていて、窓河には、

出来ていなかった。



「やっぱりか。俺には、友達なんて、いつも無縁だ・・・何でこうも、どこ行っても誰とも仲良くなれねぇんだよ・・・今日はせっかく晴れて、桜もこんなに綺麗に咲いてるってぇのによ・・・」



窓河は、とても個性的で、かつ、とても頑固なため、小学校でも

中学校でも、いつも、周囲からは、「変なヤツ」、「絡みづらい」、

「仲良くなりたくない」などと言われ、

あまり良い印象を持たれていなかった。



そして、苗字が「窓河まどかわ」であり、

席替えの時でも、たまたま窓際のところに

座る事になる事が多かったため、

「窓際族の窓河」などという蔑称をつけられて呼ばれていた・・・



「チェッ、全然爽やかじゃねぇし、クソつまんねぇ入学式だぜ」



それから月日は経ち・・・



1979年3月1日(木)。



高校も、

全く友達が出来ないまま卒業式を迎え・・・



その卒業式も、全く楽しくなかった。



「結局、なんもねぇまま終わっちまったな~。ホント、

クソつまんねぇ青春時代だったぜ。

いや、全く青春なんてなかったよ・・・

こんな面白くも何ともなかった高校は、

卒業して寂しくも何ともねぇ。むしろ、

せいせいしてざまぁって感じだ」

37.仕事も上手くいかない

そう言って、そのまま、窓河は、運送会社

「Wind’s Delivery」に就職した。


コンセプトは、その名の通り、

「風のように速く」である。



しかし、窓河は、

その会社で働いても、

学生時代と同様、なかなか他の人達と上手く打ち解けられず、

手際が悪いため、商品を上手く様々な家に届ける事が出来ず、

同じ職場の人達だけでなく、

お客さんにまでしょっちゅう迷惑をかけて、とにかく、

何かとただただ誰かに謝って、頭を下げるばかりの日々だった。



「すみませんでした!!!」と言い、

自分の机の前のイスに、大きなため息をつきながら座る。

「はぁ。もう、これで、この会社で頭を下げるの何回目だろ?」



窓河は要領が悪く、事務作業も遅いため、しょっちゅうの事だが、

その日も、遅くまで働いていた。

仕事を終えた後、帰ろうとすると、窓河の同期の女性社員が

「お疲れ様!!!」と言って、コップに入った水をくれた。



「あ、ありがとう」

〝ぐぐぐぐぐ〟

「プハ~ッ!!」



窓河は、そのコップの中の水を見つめた。



「アレ?コレ、いつも俺達が飲んでる水道水と変わんねぇよな?」

「そうだけど」

「今、飲むと、何でこんなに美味いんだろ?」

「頑張って働いて疲れた後だからじゃない?」

「そうなのかな~?」


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