そこで霧河は、前から気になっていた事を
店長のおじさんに聞いた。
「ところで店長さん、なぜ、この喫茶店に
〝窓際族〟なんて名前をつけたんですか?
本来なら、〝窓際族〟って、あまり良い意味で
使われる言葉じゃないのに」
「・・・・・・」
「あ~!すいません!!」
「良いよ良いよ。そういう事はもう、昔っから、言われ慣れてっから」
「そうですか(汗)」
「それはだな・・・」
そして店長は、自らの過去を語り始めた・・・
1976年4月1日(木)。この日、
「
いた。
そう、「
見渡せば、皆、もう既に誰かしら友達が
出来ていて盛り上がっていて、窓河には、
出来ていなかった。
「やっぱりか。俺には、友達なんて、いつも無縁だ・・・何でこうも、どこ行っても誰とも仲良くなれねぇんだよ・・・今日はせっかく晴れて、桜もこんなに綺麗に咲いてるってぇのによ・・・」
窓河は、とても個性的で、かつ、とても頑固なため、小学校でも
中学校でも、いつも、周囲からは、「変なヤツ」、「絡みづらい」、
「仲良くなりたくない」などと言われ、
あまり良い印象を持たれていなかった。
そして、苗字が「
席替えの時でも、たまたま窓際のところに
座る事になる事が多かったため、
「窓際族の窓河」などという蔑称をつけられて呼ばれていた・・・
「チェッ、全然爽やかじゃねぇし、クソつまんねぇ入学式だぜ」
それから月日は経ち・・・
1979年3月1日(木)。
高校も、
全く友達が出来ないまま卒業式を迎え・・・
その卒業式も、全く楽しくなかった。
「結局、なんもねぇまま終わっちまったな~。ホント、
クソつまんねぇ青春時代だったぜ。
いや、全く青春なんてなかったよ・・・
こんな面白くも何ともなかった高校は、
卒業して寂しくも何ともねぇ。むしろ、
せいせいしてざまぁって感じだ」
そう言って、そのまま、窓河は、運送会社
「Wind’s Delivery」に就職した。
コンセプトは、その名の通り、
「風のように速く」である。
しかし、窓河は、
その会社で働いても、
学生時代と同様、なかなか他の人達と上手く打ち解けられず、
手際が悪いため、商品を上手く様々な家に届ける事が出来ず、
同じ職場の人達だけでなく、
お客さんにまでしょっちゅう迷惑をかけて、とにかく、
何かとただただ誰かに謝って、頭を下げるばかりの日々だった。
「すみませんでした!!!」と言い、
自分の机の前のイスに、大きなため息をつきながら座る。
「はぁ。もう、これで、この会社で頭を下げるの何回目だろ?」
窓河は要領が悪く、事務作業も遅いため、しょっちゅうの事だが、
その日も、遅くまで働いていた。
仕事を終えた後、帰ろうとすると、窓河の同期の女性社員が
「お疲れ様!!!」と言って、コップに入った水をくれた。
「あ、ありがとう」
〝ぐぐぐぐぐ〟
「プハ~ッ!!」
窓河は、そのコップの中の水を見つめた。
「アレ?コレ、いつも俺達が飲んでる水道水と変わんねぇよな?」
「そうだけど」
「今、飲むと、何でこんなに美味いんだろ?」
「頑張って働いて疲れた後だからじゃない?」
「そうなのかな~?」
そこで、その同期の女性社員が
「窓河君、今日は良かったら、私ン家に寄ってかない?
自分で言うのも何だけど、ウチは結構良い家だし、
家族も皆、良い人達だから!!!」と言った。
「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」と窓河が答える。
彼女に案内してもらい、彼女の家へ向かった。
「ここが私のおウチよ!!」
「ワ~ッ!!確かに綺麗だな~!!!
そこそこ大きいし!!!」
「さぁ、上がって!!!」
そこには、彼女の家族がいた。両親、祖父母、兄弟、姉妹まで。
兄弟、姉妹はいずれも
幼くて、年齢はかなり離れているが、彼女の弟や彼女の妹がいる。大家族だ。そこで、彼女の弟が
「おかえり~!アレ?姉ちゃん、友達連れて来たんだ!!
こんばんは~!!」と言う。
それに対し、窓河は、「あ~、はい、こんばんは」と答える。妹は、窓河に「へ~!良い人そう!!」と言った。
窓河は、
(この子達、良い子達だな。こんな俺なんかの事を良い人なんて言ってくれるなんて・・・)と思った。
彼女の父や母、
祖父や祖母は、にこやかに「いらっしゃい!いつも、
お世話になってます!!」と挨拶してくれた。そう言われ、
(へ~!なんて良い人達なんだ!!)と思った。
するとその後、
女性社員の彼女は、
「あ~!そうだ!窓河君!!良かったら、
私、料理、作ってあるから食べてかない?」と彼女が言う。
窓河は、「う、うん」と答えた。
そして、電子レンジで料理を温める。
〝チーン〟
「出来たわよ~!!」
彼女の家族は皆、
揃って「ワ~ッ!美味しそう~!!」と言う。
窓河もそれを見て、
(確かに美味そうだな)と思った。
皆で
「いただきます!!!」と言って、食べた。
窓河も一緒に彼女のその料理を食べた。
皆、「美味しい!!」と言っている。
〝パク〟
「うんめぇ~!!確かに美味いな!!
一度冷めて温め直したのに、こんなに美味いとは、スゲ~な~!!」物凄い勢いで食べる。
〝バクバクバクバク〟
あまりがっついて、勢い良く食べるので、
皆、窓河の方を向き、完全に固まった。
皆「・・・・・・」といった感じで、凄く静まった様子である。
窓河は、「ん?何ですか?皆、
どうしたんですか?」と言った。皆、同時に口を揃えて、
「いや・・・、良く食べるな~・・・って」と言った。
「え?(笑)そうですか?」
「うん」と、今度は、皆、同時に首を縦に振って言った。
「そうですか?(笑)あんまり美味しいモンだから・・・アハ・・・アハハハ・・・」
彼女は、「そう(笑)、でも、凄く喜んでくれたみたいで良かった」と言った。そして、皆、夕飯を食べ終わり・・・
「ごちそうさまでした~・・・」
窓河は、
「フ~ッ!!食った食った~っ!!!」と言った。
窓河は、彼女に、「食器洗い、手伝おうか」と言った。
だが・・・
「あ~、良いわよ良いわよ!!窓河君はお客さんだし!!あ!でも、この後、もし興味があったら、コーヒー入れてみない?!」
「コーヒー?こんな時間に?睡眠の妨げにならねぇか?」
「良いのよ!良いのよ!私は明日、仕事、休みだし!!それに、
私ン家は皆、コーヒーが好きなの!!私も、お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも!!」
「へ~!じゃあ、弟君や妹さんは?」
「あ~、あの子達は皆、カフェオレは好きよ!!」
「そうなのか~」
窓河は、その時、窓河にとっては、初めての事だったが、
コーヒーを淹れてみようと思った。
「うん。分かった。俺はやった事はないけど、やってみるよ」
「ホントに!?ありがとう!!」
「いやいや。良いよ良いよ」
「じゃあ、やり方を教えるわね!こうやって、粉の中に〝の〟の字を書くようにお湯を入れるの!!」
そうして、彼女に言われた通りに、窓河は、お湯を入れた。
〝ジャージャー〟
「そうそう!上手上手!!窓河君、ホントに初めてなの!?」
「え?初めてだけど、こんなの、誰でも出来るだろ」
「そんな事ないよ!コレって、簡単そうに見えて、実は、
意外と難しくて、とっても奥が深いのよ!!」
「そうなの?」
「そうよ」
「そっか~。何だか良く分かんねぇけど、
そう言われるとテレるな (笑)。嬉しいよ!ありがとうな!!」
「いえいえ!美味しいコーヒー、出来そうだな~!!♪」その後、窓河は、次の日も仕事があるため飲まず、彼女の兄弟や姉妹も
先に寝たため飲まなかったが、彼女と彼女の家族は、
窓河が淹れたそのコーヒーを飲んだ。
「いただきます!!!」
そして、皆いっせいに「凄く美味しい!!」と言った。
彼女は、「窓河君、凄く美味しいよ!!ホントに初めて淹れたの!?」と言った。
「ありがとう。あ~、初めてだけど」と言った。
「凄い~!!じゃあ、また、いつでもウチに
来てよ!!また窓河君のコーヒーが飲みたい~!!」
「良いけど」
「良いの!?やった~!!!」
「こちらこそ!今日はありがとう!!また来ても良いんだな!!ありがとう!!また来させてもらうよ!!」
「じゃあね~!!」
「うん!じゃあね~!!」と言って、
その日は終わった。