サンタクロースパイ

36.ついに語られる、〝窓際族〟の名前の秘密

そこで霧河は、前から気になっていた事を

店長のおじさんに聞いた。



「ところで店長さん、なぜ、この喫茶店に

〝窓際族〟なんて名前をつけたんですか?

本来なら、〝窓際族〟って、あまり良い意味で

使われる言葉じゃないのに」

「・・・・・・」

「あ~!すいません!!」

「良いよ良いよ。そういう事はもう、昔っから、言われ慣れてっから」

「そうですか(汗)」



「それはだな・・・」



そして店長は、自らの過去を語り始めた・・・



1976年4月1日(木)。この日、

天野星高等学校そらのほしこうとうがっこう」の入学式だった。そこには、「窓河実爪まどかわみつめ」という名前の生徒が

いた。



そう、「窓河実爪まどかわみつめ」というのは、店長の本名だ。その日、体育館での式が終わって教室に移動し、教室内を

見渡せば、皆、もう既に誰かしら友達が

出来ていて盛り上がっていて、窓河には、

出来ていなかった。



「やっぱりか。俺には、友達なんて、いつも無縁だ・・・何でこうも、どこ行っても誰とも仲良くなれねぇんだよ・・・今日はせっかく晴れて、桜もこんなに綺麗に咲いてるってぇのによ・・・」



窓河は、とても個性的で、かつ、とても頑固なため、小学校でも

中学校でも、いつも、周囲からは、「変なヤツ」、「絡みづらい」、

「仲良くなりたくない」などと言われ、

あまり良い印象を持たれていなかった。



そして、苗字が「窓河まどかわ」であり、

席替えの時でも、たまたま窓際のところに

座る事になる事が多かったため、

「窓際族の窓河」などという蔑称をつけられて呼ばれていた・・・



「チェッ、全然爽やかじゃねぇし、クソつまんねぇ入学式だぜ」



それから月日は経ち・・・



1979年3月1日(木)。



高校も、

全く友達が出来ないまま卒業式を迎え・・・



その卒業式も、全く楽しくなかった。



「結局、なんもねぇまま終わっちまったな~。ホント、

クソつまんねぇ青春時代だったぜ。

いや、全く青春なんてなかったよ・・・

こんな面白くも何ともなかった高校は、

卒業して寂しくも何ともねぇ。むしろ、

せいせいしてざまぁって感じだ」

37.仕事も上手くいかない

そう言って、そのまま、窓河は、運送会社

「Wind’s Delivery」に就職した。


コンセプトは、その名の通り、

「風のように速く」である。



しかし、窓河は、

その会社で働いても、

学生時代と同様、なかなか他の人達と上手く打ち解けられず、

手際が悪いため、商品を上手く様々な家に届ける事が出来ず、

同じ職場の人達だけでなく、

お客さんにまでしょっちゅう迷惑をかけて、とにかく、

何かとただただ誰かに謝って、頭を下げるばかりの日々だった。



「すみませんでした!!!」と言い、

自分の机の前のイスに、大きなため息をつきながら座る。

「はぁ。もう、これで、この会社で頭を下げるの何回目だろ?」



窓河は要領が悪く、事務作業も遅いため、しょっちゅうの事だが、

その日も、遅くまで働いていた。

仕事を終えた後、帰ろうとすると、窓河の同期の女性社員が

「お疲れ様!!!」と言って、コップに入った水をくれた。



「あ、ありがとう」

〝ぐぐぐぐぐ〟

「プハ~ッ!!」



窓河は、そのコップの中の水を見つめた。



「アレ?コレ、いつも俺達が飲んでる水道水と変わんねぇよな?」

「そうだけど」

「今、飲むと、何でこんなに美味いんだろ?」

「頑張って働いて疲れた後だからじゃない?」

「そうなのかな~?」


38.料理上手な彼女

そこで、その同期の女性社員が

「窓河君、今日は良かったら、私ン家に寄ってかない?

自分で言うのも何だけど、ウチは結構良い家だし、

家族も皆、良い人達だから!!!」と言った。

「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」と窓河が答える。



彼女に案内してもらい、彼女の家へ向かった。



「ここが私のおウチよ!!」

「ワ~ッ!!確かに綺麗だな~!!!

そこそこ大きいし!!!」

「さぁ、上がって!!!」



そこには、彼女の家族がいた。両親、祖父母、兄弟、姉妹まで。

兄弟、姉妹はいずれも

幼くて、年齢はかなり離れているが、彼女の弟や彼女の妹がいる。大家族だ。そこで、彼女の弟が

「おかえり~!アレ?姉ちゃん、友達連れて来たんだ!!

こんばんは~!!」と言う。

それに対し、窓河は、「あ~、はい、こんばんは」と答える。妹は、窓河に「へ~!良い人そう!!」と言った。



窓河は、

(この子達、良い子達だな。こんな俺なんかの事を良い人なんて言ってくれるなんて・・・)と思った。



彼女の父や母、

祖父や祖母は、にこやかに「いらっしゃい!いつも、

お世話になってます!!」と挨拶してくれた。そう言われ、

(へ~!なんて良い人達なんだ!!)と思った。



するとその後、

女性社員の彼女は、

「あ~!そうだ!窓河君!!良かったら、

私、料理、作ってあるから食べてかない?」と彼女が言う。

窓河は、「う、うん」と答えた。



そして、電子レンジで料理を温める。



〝チーン〟



「出来たわよ~!!」



彼女の家族は皆、

揃って「ワ~ッ!美味しそう~!!」と言う。

窓河もそれを見て、

(確かに美味そうだな)と思った。



皆で

「いただきます!!!」と言って、食べた。



窓河も一緒に彼女のその料理を食べた。



皆、「美味しい!!」と言っている。



〝パク〟



「うんめぇ~!!確かに美味いな!!

一度冷めて温め直したのに、こんなに美味いとは、スゲ~な~!!」物凄い勢いで食べる。

〝バクバクバクバク〟

あまりがっついて、勢い良く食べるので、

皆、窓河の方を向き、完全に固まった。



皆「・・・・・・」といった感じで、凄く静まった様子である。



窓河は、「ん?何ですか?皆、

どうしたんですか?」と言った。皆、同時に口を揃えて、

「いや・・・、良く食べるな~・・・って」と言った。

「え?(笑)そうですか?」

「うん」と、今度は、皆、同時に首を縦に振って言った。

「そうですか?(笑)あんまり美味しいモンだから・・・アハ・・・アハハハ・・・」

彼女は、「そう(笑)、でも、凄く喜んでくれたみたいで良かった」と言った。そして、皆、夕飯を食べ終わり・・・



「ごちそうさまでした~・・・」



窓河は、

「フ~ッ!!食った食った~っ!!!」と言った。

39.コーヒーを淹れる才能

窓河は、彼女に、「食器洗い、手伝おうか」と言った。



だが・・・



「あ~、良いわよ良いわよ!!窓河君はお客さんだし!!あ!でも、この後、もし興味があったら、コーヒー入れてみない?!」

「コーヒー?こんな時間に?睡眠の妨げにならねぇか?」

「良いのよ!良いのよ!私は明日、仕事、休みだし!!それに、

私ン家は皆、コーヒーが好きなの!!私も、お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも!!」

「へ~!じゃあ、弟君や妹さんは?」

「あ~、あの子達は皆、カフェオレは好きよ!!」

「そうなのか~」



窓河は、その時、窓河にとっては、初めての事だったが、

コーヒーを淹れてみようと思った。



「うん。分かった。俺はやった事はないけど、やってみるよ」

「ホントに!?ありがとう!!」

「いやいや。良いよ良いよ」

「じゃあ、やり方を教えるわね!こうやって、粉の中に〝の〟の字を書くようにお湯を入れるの!!」



そうして、彼女に言われた通りに、窓河は、お湯を入れた。



〝ジャージャー〟



「そうそう!上手上手!!窓河君、ホントに初めてなの!?」

「え?初めてだけど、こんなの、誰でも出来るだろ」

「そんな事ないよ!コレって、簡単そうに見えて、実は、

意外と難しくて、とっても奥が深いのよ!!」

「そうなの?」

「そうよ」

「そっか~。何だか良く分かんねぇけど、

そう言われるとテレるな (笑)。嬉しいよ!ありがとうな!!」

「いえいえ!美味しいコーヒー、出来そうだな~!!♪」その後、窓河は、次の日も仕事があるため飲まず、彼女の兄弟や姉妹も

先に寝たため飲まなかったが、彼女と彼女の家族は、

窓河が淹れたそのコーヒーを飲んだ。

「いただきます!!!」



そして、皆いっせいに「凄く美味しい!!」と言った。

彼女は、「窓河君、凄く美味しいよ!!ホントに初めて淹れたの!?」と言った。

「ありがとう。あ~、初めてだけど」と言った。



「凄い~!!じゃあ、また、いつでもウチに

来てよ!!また窓河君のコーヒーが飲みたい~!!」

「良いけど」

「良いの!?やった~!!!」

「こちらこそ!今日はありがとう!!また来ても良いんだな!!ありがとう!!また来させてもらうよ!!」

「じゃあね~!!」

「うん!じゃあね~!!」と言って、

その日は終わった。


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