窓河は、彼女に、「食器洗い、手伝おうか」と言った。
だが・・・
「あ~、良いわよ良いわよ!!窓河君はお客さんだし!!あ!でも、この後、もし興味があったら、コーヒー入れてみない?!」
「コーヒー?こんな時間に?睡眠の妨げにならねぇか?」
「良いのよ!良いのよ!私は明日、仕事、休みだし!!それに、
私ン家は皆、コーヒーが好きなの!!私も、お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも!!」
「へ~!じゃあ、弟君や妹さんは?」
「あ~、あの子達は皆、カフェオレは好きよ!!」
「そうなのか~」
窓河は、その時、窓河にとっては、初めての事だったが、
コーヒーを淹れてみようと思った。
「うん。分かった。俺はやった事はないけど、やってみるよ」
「ホントに!?ありがとう!!」
「いやいや。良いよ良いよ」
「じゃあ、やり方を教えるわね!こうやって、粉の中に〝の〟の字を書くようにお湯を入れるの!!」
そうして、彼女に言われた通りに、窓河は、お湯を入れた。
〝ジャージャー〟
「そうそう!上手上手!!窓河君、ホントに初めてなの!?」
「え?初めてだけど、こんなの、誰でも出来るだろ」
「そんな事ないよ!コレって、簡単そうに見えて、実は、
意外と難しくて、とっても奥が深いのよ!!」
「そうなの?」
「そうよ」
「そっか~。何だか良く分かんねぇけど、
そう言われるとテレるな (笑)。嬉しいよ!ありがとうな!!」
「いえいえ!美味しいコーヒー、出来そうだな~!!♪」その後、窓河は、次の日も仕事があるため飲まず、彼女の兄弟や姉妹も
先に寝たため飲まなかったが、彼女と彼女の家族は、
窓河が淹れたそのコーヒーを飲んだ。
「いただきます!!!」
そして、皆いっせいに「凄く美味しい!!」と言った。
彼女は、「窓河君、凄く美味しいよ!!ホントに初めて淹れたの!?」と言った。
「ありがとう。あ~、初めてだけど」と言った。
「凄い~!!じゃあ、また、いつでもウチに
来てよ!!また窓河君のコーヒーが飲みたい~!!」
「良いけど」
「良いの!?やった~!!!」
「こちらこそ!今日はありがとう!!また来ても良いんだな!!ありがとう!!また来させてもらうよ!!」
「じゃあね~!!」
「うん!じゃあね~!!」と言って、
その日は終わった。
そして、次の日、彼女は会社にはいないが、
窓河は、いつも通り働いている。しかし、やっぱり、
仕事は冴えない。
「は~。やっぱ俺、仕事はダメだな~・・・」
それは、相変わらずだった。しかし、そんな中、昨日、
彼女が言っていた言葉を思い出した。「いつでも来てね」と。
「いつでも来てね・・・か」
その日、夜になり、仕事が終わった後、窓河は、そのまま、
昨日のお言葉に甘えて、彼女の家へ向かった。
〝ピーンポーン〟
「は~い」彼女が出た。
「ハァハァハァ」窓河は、息を荒げている。
「アレ?窓河君?どうしたの!?」
「ごめん!ちょっと、すぐ聞いて欲しい話があって、走って来たんだよ!!突然ごめん!!!」
「良いわよ!窓河君、息が切れてるから、
とりあえず、中に入って落ち着いて!!」
「うん・・・ハァハァハァ・・・」
「で、何があったの?」
「俺、もう、この仕事、辛いんだよ・・・限界なんだよ・・・」
「どうして?窓河君、いつも、仕事、一生懸命頑張ってるのに」
「いや、頑張るとか頑張らないとかじゃなくて、俺、この仕事、
上手くこなせてないし、いつも、
君や職場の皆やお客さんには迷惑かけてばかりだし、
周りの皆とは上手く打ち解けられねぇし・・・」
「そうなの?」
「〝そうなの?〟って、そりゃ、見てりゃ分かるでしょ」
「あ~、ごめん!私は、そう思った事が全くないから。」
「そうか・・・でも、俺、昔から、いつも一人で、
名前が〝窓河〟で、そんで、席替えの時も、たまたま〝窓際〟に
なる事が多かったから、〝窓際族の窓河〟なんて、昔から
呼ばれてたんだ。でも、〝窓際族〟なのは、
今も変わってないんだけど・・・その上、
俺を採用した上司にだって、〝何でお前みたいなヤツを採用したんだろ?〟って言われる始末だし・・・・・・」
「そうなんだ」
「もう、嫌なんだよ!!この忌々しい蔑称も!!!自分も!!!」
「そうかしら?私はその呼び名、好きだけどな」
「え!?〝窓際族〟だよ!!こんな名前のどこが良いの!?」
「いや、そりゃ、確かに、窓河君は、個性的で、色々とモノ好きだし、頑固なところもあるから、〝気難しい〟って感じる人も
いるかもしれないけど、だから同時に、しっかり信念もあって、
何事も途中で投げ出さないで常に一生懸命だし、そして、
何より優しいし。〝理解してくれる人が少ない〟っていうのは、
それだけ、窓河君の良さは、たとえるなら、かつての
〝ゴッホの絵〟みたいに、誰にでも解るワケじゃないくらい
〝魅力が強い〟って事じゃないかしら?」
「そう・・・なのかな・・・?」
「うん!きっとそうよ!!いや、絶対そうよ!!そうに違いない!!だから、物解りの悪い上司の人達の言う事なんて、
気にしなくて良いでしょ!!」
そう言われて、
嬉しさのあまり、窓河は泣きだし・・・
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」と叫んだ。
たくさん泣いた。
数十分後・・・
「窓河君、ノド、乾いたでしょ?」
「う、うん・・・」
彼女は、
コップに水道水を入れて飲ませてくれた。
「はい」
「ありがとう」
〝ジュー〟
コレがまた、ただの水道水なのに、とても、
そうとは思えないほど、かなり美味しい。
「ア、アレ?コレ、悪いけど、ただの水道水だよな?」
「そうだけど・・・」
「何でこんなに美味いんだろ?この前、君が会社で夜遅くにくれた水と同じくらい美味い。何でだろ?」
「う~ん・・・疲れてて、凄く苦しいぐらいにノドが渇いてたからじゃない?でも、良く分かんないけど、この前の水も、今飲んでる
その水も、窓河君にとって物凄く美味しいなら、何でもないただの水道水でも、窓河君にとっては凄く高価なモノなんだと思う」
「そうか~・・・」
「窓際族・・・か」
「うん?」
「あ、いや~、さっき言ってた〝窓際族〟って、窓河君は、嫌ってる言葉だけど、私は、
「ワケあって周りの人達から受け入れられなくて孤立してるけど、
〝渋い孤独のヒーロー〟みたいでカッコ良いと思うんだけどな~」
「そうか。君は、とても前向きで真っ直ぐなんだね!!」
「そんな事ないよ!!(笑)」この時、
窓河は、「この娘はなんて純粋な娘なんだ・・・・・・!!」と
思った。そして、彼女は言った。