また、時間は遡る。23軒目での出来事。霧河は、
「マフラーが欲しい」と言っていた女の子の家に入った。
(〝マフラーが欲しい〟って言ってたけど、どんなのが好きなんだろ?)
とりあえず、そこは勘で選んだ。
女の子の部屋に入り、枕元にそっとマフラーが入った箱を置く。
その時、霧河のスマホにメールが届き、着信音が響いた。
「何だよ!こんな時間に!!」
そういえばだが、さっき、スマホをいじって、間違えて、
着信音が鳴るように設定してしまった。スマホを見てみると、
送られてきたのは、迷惑メールだった。
(何だ~。迷惑メールか~。着信音量はもう一度ゼロにしとこう)
「う、う~ん・・・」
音を立てたせいで女の子が起きてしまった。
「あっ!いっけね!!」
慌てて壁にぶつかった霧河は、誤って蛍光灯のスイッチを
押してしまった。
「ワ~ッ!!」と女の子が叫ぶ。
そこでまた
霧河が女の子の口を霧河自身の手で抑え、
「シ~ッ!!」と言う。
もう、本日3度目だ。
(毎度、子供が叫ぶ度にこれだから、ホント焦るな~)
「ねぇお兄さん、一体誰なの?」
「俺は〝サンタクロースパイ〟さ!!」
「へ~」
今回は、いつも言われる言葉がない。
「ねぇ、ひょっとして君、〝スパイ〟って
言葉を聞いた事がある?」
「知らな~い」
霧河はここでまたズッコケた。
「知らねぇのか~!!」と思わず大声を出してしまった。
今度は女の子が「シ~ッ!!」と言う。
「あ~!悪りぃ!!悪りぃ!!」
で、会話をした。
「お兄ちゃん、サンタさんなんだね!!
サンタさんって、若い人もいるんだ!!!」
「ま、まぁね!!」
「でも、サンタさんって、赤い服を着てるんじゃなかったっけ?」
「あ~、まぁ、本来ならそうだね。でも、まぁ、〝サンタクロースは赤い服を着なきゃいけない〟って決まりはないからね」
「そっか~」
「うん。そうだよ。でも、黒いサンタクロースも悪くないでしょ?!」
「まぁね!!カッコ良いと思うよ!!!」
「ありがとう!!!」
霧河は嬉しそうに笑いながら言った。
「ところで君、マフラーが欲しいんじゃなかったっけ?」
「え!?何で知ってるの!?」
「あ~、ごめん!!言い忘れたけど、俺、たくさんの子に
プレゼントを渡すために、どこのどの子が何を欲しがってるのか、
盗み聞きしてるんだよ。ごめんな」
「そうなんだ~!!」
霧河は、
(この子、怒らないんだな)と思った。
「君は、マフラーを持ってないんだね」
「前まで使ってたのは、もうボロボロになっちゃったの」
「そっか。じゃあ、もう、捨てちゃったんだね」
「いや。まだあるよ」
「え?何で?もう使えないのに」
「だって可愛いし、おばあちゃんがくれた大切なモノだから」
「なるほどな・・・」
「いつまでだって手離さないよ」
そこに、そのボロボロのマフラーはないが、女の子の話から、
どれだけ大切なモノかが良く伝わってきた。
(良い話じゃないか)と霧河は思った。
(く~っ!泣けるぜ~!!良い話だな~!!)と。
「ところでお兄ちゃん、カギはどうやって開けたの?」
霧河は、持っていた金属の棒を取り出し、
「コイツを使って開けたんだよ」と言った。
「そうなんだ~」
「うん。でも、絶対真似しちゃいけないよ。俺の事も、お父さん
お母さん含めて、他の人達には一切秘密だからね!!」
「分かった!!」
「ありがとう!!じゃあ、また君の家に来るから、楽しみに
しててね!!!」
「うん!!!」
「君の名前は何?」
「私は、〝
(まるで可愛いモノを愛しているかのような名前だな)
「良い名前だね!!」
「ありがとう!!お兄ちゃんの名前は?」
「俺は〝
「へ~!カッコ良い名前!!ミステリアス!!!」
「え?君は〝ミステリアス〟の言葉の意味を知ってるの?」
「うん!私が読んだ小説に書いてあったよ!!
私、小説、大好きなんだ!!」
「へ~!その年で小説をいっぱい読むなんて偉いね!!
俺、小説なんて、昔から全然読まったから」
「そうなんだ!でも、お兄ちゃん、私が一番好きな小説の主人公に良く似てる!!」
「そうなの?」
「うん!!ファンタジーが大好き!!!でも、その小説は、
今言ったのじゃないんだけどね」
「そうなのか」
「今言った〝ミステリアス〟って言葉が書いてたのは、タイトル忘れちゃったんだけど、
お兄ちゃんに似てる人が出てくるのは、
〝私の幻想はホントにあった〟だよ!!どう、
お兄ちゃん、普段小説を読まないみたいだけど、読んでみる?
私はもう、何回も読んじゃったし!!」
愛は、その小説を本棚から取り出し、霧河に渡そうとする。
だが、霧河は・・・
「良いよ。君の大切な本なんだろ?それに、
俺はサンタクロースだから、他人からモノをもらわない事にしてるんだ。そうじゃないと、サンタクロースって言えないだろ?」
「そっか~・・・うん・・・」
「でも、気持ちはありがとうね!!だから、
その小説は、今度、本屋で探して、自分で買うよ!!」
「うん!!ぜひ、読んでみてね!!」
「読むよ絶対!!じゃあ、愛ちゃん、これからも頑張ってね!!!」
「うん!!謎留お兄ちゃんも頑張って!!!」
「おう!!!」
そう言って、霧河は去っていった。