遺伝子分布論 22K

「星」( 34 / 35 )

ゴシの話34

  マルーシャがアミにハネマン振り込んでハコっ
 たのを見たところでもうひとつ隣を覗いてみると、
 タタミの部屋でトム・マーレイ少尉とブラウン・
 ノキア少佐が何か作業をやっている。
 
「タタミじゃなくて、畳、イントネーションが
 おかしいよ!」
 アミの鋭いツッコミを受け流して隣の部屋に入る
 と、トムとブラウンが細かい部品を組み立てて
 いた。プラスティックモデルだ。
 
 トムのはスペースカーマリアリティの機体を
 立体化したものだ。これはアシュラの前機種、
 コウモクテンだ。かなり精巧にできている。
 
 ブラウンが造っているのは、古い型の宇宙戦艦だ。
 おそらく旧世紀の2Dアニメーションに出てくる
 やつだ。
 
「最近のやつはほんとよく出来てるからな」
 ブラウンが呟く。
 
「え、これ、二人とも自分で買って持って来たん
 ですか?」
「え?」
 当たり前だろ、という顔でこっちを見てくる。
 
「あ、いや、二人ともいい歳なんで、買って持って
 帰ってくるのってちょっと恥ずかしかったり
 しないかな、なあんて」
 
 え? 恥ずかしい? なんのこと? という顔で
 こちらを見てくる。フェイクも、そこはまったく
 問題ない、と言ってさっきから手に持っていた
 袋から自分の分を取り出した。
 
 というわけで、勝敗が気になったエマドは最初の
 テルオのところに戻ってくる。
 
 どうやら今日はゴッシー教室をこっちの客船で
 やっていたようで、ゴシとリョーコもいた。
 
「リアン4段、最後の考慮時間に入りました。残り
 時間は1分です」
 リョーコがなぜか時間係をやっている。
 テルオも持ち時間がほとんど無いようだ。
 
 けっきょく、テルオの時間切れで勝負がついた。
 感想戦で、ゴシが入ってくる。
「リアンさん、最後時間切れを狙ったようにも
 見えましたが」
 
「いえいえそんなことはありませんよ」
「戦というものは、あらゆる勝ち筋を見出す必要が
 あります。今回はそれをちょっとお見せした
 かったホホホ」
 白い扇であおぎながら、大量の汗をぬぐうリアン。
 
 長期航行も三回目となると、皆、色々な方法で
 時間を潰す。それぞれそれなりに仕事もあるが、
 それでも時間が余る場合もあるし、
 それ以上に、それほど広くもない船内で、航行中
 に頑張りすぎて煮詰まってしまわないようにと
 いう配慮もあった。
 

「星」( 35 / 35 )

ゴシの話35

  今回使用している客船は、航行期間という意味
 ではかなり小さいと言える。空母が同行していた
 ということもあるが、通常は10日間程度と
 なると、もう少し大きな船を用いる。
 
 今回はアラハントの5人とテルオに、あえて
 小さめの船で旅をしてもらった。その理由は、
 物語のもう少しあとで明確になっていく
 かもしれない。
 
 そして彼らは木星第5エリアへと到着する。
 
 この第5エリアは、第1と異なり、基本的に
 シリンダタイプの都市しかない。そして、同じ
 シリンダタイプであってもデザインが少し古く
 第4エリアよりも、すこしカントリーな雰囲気だ。
 
 彼らが向かうシリンダ都市は、カルルク。
 そしてライブ会場はクラブ・ニーシャープール。
 ここでもサクハリン、アラハント、テルオの
 ライブはうまくいった。
 
 少し驚いたのは、ちらほらとレイバーらしき
 人たちもいたこと。負けてはならじと、
 ゴシ・ゴッシーのダンスが炸裂する。
 シリンダ都市なので重力も問題無かった。
 
 そしてその翌日、交流戦だ。
 
 これは、両国の友好を兼ねて、アラハントの5人
 とクリルタイ国で選ばれたメンバーとでスペース
 カーマリアリティの対戦をするというもの。
 
 3回対戦して先に2勝したほうが勝ちとなる。
 
 ホテル近くのエンターテイメントセンターでこの
 交流戦が行われたが、その対戦相手とまず挨拶。
 
「ああー!」
「このひとたち、知っとうとよ」
 
 なんと、第1エリアのエンターテイメント
 センターで対戦してそのあと昼食を一緒に
 食べた男女5人のグループだった。
 
 まさかの再会に驚きつつも、3戦して辛勝と
 はいえ全勝しているアラハント側が少し余裕
 モードに入る。しかし結果は相手側の2勝1敗
 でアラハントの敗北。しかもチーム構成は
 相手側不利の火力構成だった。
 
 あとで知った話では、彼らはプロを目指して
 練習中で、2部昇格戦を行っている最中だという。
 その名も、ヘブンズゴッドゲーミング。オースの
 時は、サブアカウントで苦手な構成を練習して
 いたとか。
 
 そして、ケイト・レイ、アラハントの5人、
 ゴシ・ゴッシー、そしてテルオは、帰路につく。
 皆、ツアーのわりには充分楽しんだが、この長い
 航行期間をかけて再び太陽系外縁を訪れることは
 あるのだろうか。
 

「転」( 1 / 11 )

ディエゴの話

  アラハントのメンバーが太陽系外縁ツアーから
 帰ってきて数か月が経ったころである。
 剛腕プロデューサー、ゴシ・ゴッシーに、
 新たな話が入ってきた。
 
 国務長官、ケイト・レイから直々にだ。
 
 マッハパンチ、ボッビボッビ、そしてアラハント
 の3バンドでバレンシア共和国でのライブに
 参加してもらいたい、という。
 
 それも、バレンシア共和国で今最も売れている
 かもしれないバンド、ネハンのゲストとしてだ。
 ネハンのプロデューサーにはすでに話が
 通っているという。
 
 ただし、と言う。
 今回は、ゴシ本人とヘンリクは参加できない。
 というのも、わけ合って危険をともなう
 ツアーになるかもしれないからだ。
 
 バレンシア共和国では、極右勢力が台頭し
 はじめてきている。ネハンはデビュー当初から
 業界でも一匹狼な態度で、政権にも批判的だった。
 そういったイベントで、極右勢力の標的となる
 おそれがある。
 
「優秀なプロデューサーが失われれば、そのあとに
 ダイヤモンドの原石となるバンドが出てこなく
 なる」
 
 ちなみに、ボッビボッビには直接掛け合って、
 だいぶ前からハントジムで護身術を習って
 もらっているらしい。残りの2バンドは皆武術の
 心得があるので問題ないとか。
 
 今回のツアーには、私も民間人として参加し、
 ライブ開催の裏で、バレンシア共和国の政府高官
 と、非公式会合を行う、とケイト・レイは最後に
 付け加えた。
 
 すぐに承知して、3バンドのメンバーに連絡する。
 早速その日の夜、対策会議を行う。私が一声
 掛ければ、すぐみんな集まる、ゴシは気合を
 入れた。
 
 そして夜、たまたまゲルググで3バンドのライブ
 があったので、打ち上げでその話になる。
 まず、ネハンの話になった。
 
 太陽系外縁では、思ったより音楽が盛んだった。
 内縁は、おそらく活動の規模では我々がいる第3
 エリアが最も活発だ。いいメジャーバンドも
 たくさんいる。
 
 しかし、総合的な実力という意味では、第2
 エリア、バレンシア共和国のネハンが一番だ
 ろう、ということで3バンドのメンバー皆
 一致した。
 
 音楽シーンという意味では、第2エリアは見る
 人によってあまり面白くない。ありきたりなのだ。
 それほどでもないアーティストが、メディアの
 売り込みによって、売上を上げてしまう。
 

「転」( 2 / 11 )

ディエゴの話2

  そんな音楽シーンにあって、それでもやはり
 ネハンが実力的には飛びぬけていた。
 
「だがな」
 マッハパンチのキングは言う、
「おれが思うに、いや、他にもそう思う人が
 必ずいるはずだ、ネハンはもっとやれる」
 
 商用的に成功してしまって、挑戦する気持ち、
 開拓する気持ちを忘れてしまっているのでは
 ないか、とそう言うのだ。
 
「おれは、彼らに会って、ひとこと言ってやりたい
 んだ」
 さすがにライブの中で呼んでもらった相手を批判
 しはじめても困るので、ライブ終わりにそういう
 話を直接する時間を作ってもらうことにした。
 
「しかしなあ、おまえら本当に大丈夫か?
 ケイト国務長官も危険を伴うって言ってたぞ」
 みんなの中心で、ゴシが国務長官の部分を強調
 する。
 
「その点は一応大丈夫と言っておこうかしら」
 さっきから打ち上げに参加していた女性、
 ケイト・レイに似た雰囲気をもつ。
 
「あ、知らないひともいるかしら、サキ・キムラ
 です」
 ケイト・レイの姪だ。たまにライブにも顔を
 出していたが、こんなに逞しかったっけ?
 
 3バンドのメンバーは、ここ最近ハントジムで
 いっしょにトレーニングやスパーリングを
 こなすのでよく知っている。
 
「コウエンジ連邦の諜報部によると、当日ライブ
 終わりの時間帯で偽装アンドロイドによる襲撃が
 予想されているわ」
 
「でも、数と質で前回よりだいぶ劣ることが
 分かっています」
 サキがコウエンジ連邦のことを我が国と言わない
 のは、複数の国籍をもっているからだ。もともと
 持っていた個人国家の国籍もまだアクティブだ。
 
 何体? という問いに、たったの100体、と
 答える。前回というのが何のことかわからな
 かったが、次元の違う話に、ゴシはドリンクを
 とりにいくふりをして、戻ってきて末席に座る。
 
「じゃあ、一か月後、みんな、しっかり準備しよう
 ぜ!」
 マッハパンチのキングが気合を入れる。
 
 すっかり主役が交替して、旧主役のヘンリクと
 盃をかわすゴシ・ゴッシー。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水に
 あらず、か」
 ヘンリクがその言葉にゆっくりうなずく。
 
 そうは言ってもな、とヘンリクに語り出す。
 あの、ケイト・レイのスパーリングを見たあと
 で、ハントジムで僕も護身術習わせて下さいと
 は、とても言えないよ君。
 
Josui
遺伝子分布論 22K
0
  • 0円
  • ダウンロード

93 / 134