ガンプラの日

ピースは、減らず口を叩くスパイダーに愛想をつかし、いつもの忠告をした。「何回言ってもわかんないのね。郷(ごう)に入(い)りては 郷(ごう)に従(したが)え、っていうでしょ。人間と共同生活するんだから、人間に合わせるのが、スジってものじゃないかしら。あんまり人間に立てついてると、ご飯食べさせてもらえなくなるかもよ。それでも、いいの?」スパイダーは、ピョンと飛び上がり、顔をブルブルと左右に振った。「そんな~~、それって、イジメじゃないか。亜紀ちゃんは、絶対、そんなことはしないさ。僕は、信じてるもん」

 

ピースは、スパイダーの減らず口と付き合っているうちに亜紀ちゃんが現れないかと期待していたが、亜紀の姿はいまだ現れなかった。「それにしても、亜紀ちゃん、どうしたのかしら。ママとケンカして、家を出ていちゃったのかしら。あのママって、ちょっとキモイから」スパイダーもうなずいて答えた。「そうだよな~~。あのオニみたいなママにいじめられたに違いない。あのオニママをやっつけようか」

 

短絡的思考のスパイダーにあきれたピースは、たしなめるように返事した。「ちょっと、そんなに見かけだけで決めつけちゃダメ。あのママは、キモイけど、優しいところもあるじゃない。二人の仲は良くないようだけど、かわいいアキちゃんをイジメたりしないわよ。もうちょっと、待ってみましょう。とにかく、廊下を走り回らずに、お座りして、待っていなさい、分かった」

じっとしているのが苦手なスパイダーは、頭をガクッと垂れた。「分かったよ。でも、早く、散歩に行きたいよ~。アキチャ~~~ン、早く帰ってきて~~」スパイダーは、喉を鳴らして叫んだ。その時、玄関からドアが開く音が響いてきた。亜紀ちゃんが帰ってきたと思ったスパイダーは、一目散に玄関にかけて行った。ところが、玄関に立っていたのは、動物愛護精神に乏しいチンチクリンのさやかだった。なんだ、亜紀ちゃんじゃないのか、と思ったスパイダーは、即座にキッチンに引き返した。

 

引き返したスパイダーは、ウキウキして待っていたピースに報告した。「つまんないの。亜紀ちゃんじゃなかった。例のチンチクリンの子供みたいな大人だった」ピースは、子供みたいな大人と聞いて、即座に、動物をオモチャにするさやかだとピンときた。「アンナ~、ダイジョウブ~~」廊下をかけてくる足音がキッチンに近づいてきた。スパイダーは、ドタドタと響く廊下の音を聞いて、ピースにイヤミを言った。「ほら、人間だって、廊下を走ってるじゃないか。あんな人間にも、お尻ペンペンしてほしいものだ」

 

血相を変えて走り込んできたさやかは、アンナの青くなった顔を見つめて声をかけた。「まだ、帰ってこない。本当に、どうしたのかしら」さやかは、アンナの正面に腰かけ、アンナの落ち込んだ顔を覗き込んだ。「こんなことは、初めて。誘拐されたんじゃないかしら。まさか、殺されたんじゃ」アンナは、両手を顔に当て、ワ~~~と泣き出した。さやかも、誘拐事件かもと思った瞬間、身体が震えだした。

家出

 

「アンナ、警察に届けましょう。万が一、誘拐されていたら、大変なことになるわ。一刻も早く、助け出さないと」オドオドしているばかりでは、なんの解決にもならないと思い、糸島警察署に電話することにした。さやかが電話して30分ほどすると、小太りの刑事とアゴにヒゲを生やした二人の刑事がやってきた。ピンポ~~ン、ピンポ~~ン、とインターホーンが鳴ると、さやかは駆け足で玄関に向かった。さやかは、大きな声でドアに向かって声をかけた。「お待ちしてました。どうぞ、お入りください」

 

小太り刑事とヒゲ刑事は、ゆっくりとドアを開き、神妙な顔で会釈した。二人の刑事の顔を見たとき、さやかは、昨年のクリスマスの出来事を思い出した。「あの時の刑事さんね」小太り刑事は、頭をかきながら返事した。「ハ~~、ところで、アキちゃんが、いなくなったとか?」ピョンと飛び上がったさやかは、甲高い声で返事した。「そうなんです。とにかく、上がってください」

 

さやかに案内された二人の刑事は、気乗りしない表情をして廊下をゆっくり歩いて行った。キッチンにやってくると、小太り刑事は、軽く会釈すると血の気のない表情のアンナに声をかけた。「まだ、誘拐と決まったわけでは、ありません。詳しくお話をお聞かせください」さやかは、「さあどうぞ」と手招きして二人の刑事に椅子をすすめた。アンナは、涙を流すばかりでまったく言葉が出なかった。

 

そこで代わりに、さやかが、アンナから聞いた話を自分なりにまとめて説明することにした。「アキちゃんが、今朝から、どこを探してもいないのです。家の中も、家の周りも、公園も探してみたのですが、どこにも見当たらないのです。誘拐ということも考えられましたので、お電話いたしました」二人の刑事は、メモを取っていたが、事件なのかどうかを考えているようだった。

 

小太り刑事が、短い首を傾げ怪訝そうな顔で質問した。「つまり、アキちゃんが、今朝、いなくなったのですね」アンナは、ハンカチで涙を拭きながら、「はい」とか細い声で答えた。小太り刑事は質問を続けた。「昨夜、アキちゃんは、自分の部屋におられたのですか?」アンナは、うなずいた。「昨夜は、キッチンで夕食を済ませ、ちょっとリビングでテレビを見て、2階の自分の部屋に上がっていきました。宿題をして、寝たと思います」

 

左右に首を振った小太り刑事は、ウ~~ッとうなって意見を述べた。「確かに、昨夜は部屋にいたが、今朝、部屋を覗いてみるとアキちゃんの姿が見当たらない。ホ~~、なるほど、それじゃ、誘拐とは考えにくいですね。誰かが夜に忍び込んで誘拐したとなれば、どこから入って、どこから連れ去ったか、ですが・・確か、家の中に番犬がいたような・・」ヒゲ刑事も誘拐でなく、よくある家出ではないかと思った。

サーファーヒカル
作家:春日信彦
ガンプラの日
0
  • 0円
  • ダウンロード

8 / 43

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント