ガンプラの日

能天気なスパイダーは、ワンと言って答えた。「ピースは、考え過ぎじゃないか。そもそも、人間と動物は違うんだ。特に、人間は、コトバという変な声を発するからな~。その点、亜紀ちゃんは、ワンとかニャ~~とか言わなくても、僕たちの気持ちをちゃんとわかってくれるから、気が楽だよ。あの甲高い声を発するオニママは、何をしでかすかわかっものじゃない。この前なんか、元気に廊下を走っただけで、僕のお尻をピシャッて叩いたんだ。わけわかんないよ。早く、亜紀ちゃん、帰ってこないかな~」

 

スパイダーは、やはりアホだとピースは思った。「分かってないわね~、人間には人間のオキテってものがあるのよ。廊下は、走っちゃいけないの。わたしなんか、足音を立てずに、忍者のように歩いているのよ。見習ったらどう。つまり、人間のオキテに逆らったから、ママにお尻ペンペンされたんでしょ。これからは、もっと、静かに歩きなさい。犬って、ヤッパ、野蛮ってことかしら」

 

バカにされたスパイダーは、ピースをにらみ付けた。「何を言ってるんだ。犬は、動物の中で一番、健全なる精神を持っているんだ。猫と一緒にされちゃ、迷惑だ。人間のオキテかなんだか知らないが、そのオキテが間違ってるんじゃないか。犬ってものは、健康のために走り回っているんだ。健全(けんぜん)なる精神は健全なる身体(しんたい)に宿(やど)る、っていうじゃないか。ゴロゴロ寝ころんでテレビを見てるような人間は、すぐに痴呆症(ちほうしょう)になって、早死にするに決まっている」

ピースは、減らず口を叩くスパイダーに愛想をつかし、いつもの忠告をした。「何回言ってもわかんないのね。郷(ごう)に入(い)りては 郷(ごう)に従(したが)え、っていうでしょ。人間と共同生活するんだから、人間に合わせるのが、スジってものじゃないかしら。あんまり人間に立てついてると、ご飯食べさせてもらえなくなるかもよ。それでも、いいの?」スパイダーは、ピョンと飛び上がり、顔をブルブルと左右に振った。「そんな~~、それって、イジメじゃないか。亜紀ちゃんは、絶対、そんなことはしないさ。僕は、信じてるもん」

 

ピースは、スパイダーの減らず口と付き合っているうちに亜紀ちゃんが現れないかと期待していたが、亜紀の姿はいまだ現れなかった。「それにしても、亜紀ちゃん、どうしたのかしら。ママとケンカして、家を出ていちゃったのかしら。あのママって、ちょっとキモイから」スパイダーもうなずいて答えた。「そうだよな~~。あのオニみたいなママにいじめられたに違いない。あのオニママをやっつけようか」

 

短絡的思考のスパイダーにあきれたピースは、たしなめるように返事した。「ちょっと、そんなに見かけだけで決めつけちゃダメ。あのママは、キモイけど、優しいところもあるじゃない。二人の仲は良くないようだけど、かわいいアキちゃんをイジメたりしないわよ。もうちょっと、待ってみましょう。とにかく、廊下を走り回らずに、お座りして、待っていなさい、分かった」

じっとしているのが苦手なスパイダーは、頭をガクッと垂れた。「分かったよ。でも、早く、散歩に行きたいよ~。アキチャ~~~ン、早く帰ってきて~~」スパイダーは、喉を鳴らして叫んだ。その時、玄関からドアが開く音が響いてきた。亜紀ちゃんが帰ってきたと思ったスパイダーは、一目散に玄関にかけて行った。ところが、玄関に立っていたのは、動物愛護精神に乏しいチンチクリンのさやかだった。なんだ、亜紀ちゃんじゃないのか、と思ったスパイダーは、即座にキッチンに引き返した。

 

引き返したスパイダーは、ウキウキして待っていたピースに報告した。「つまんないの。亜紀ちゃんじゃなかった。例のチンチクリンの子供みたいな大人だった」ピースは、子供みたいな大人と聞いて、即座に、動物をオモチャにするさやかだとピンときた。「アンナ~、ダイジョウブ~~」廊下をかけてくる足音がキッチンに近づいてきた。スパイダーは、ドタドタと響く廊下の音を聞いて、ピースにイヤミを言った。「ほら、人間だって、廊下を走ってるじゃないか。あんな人間にも、お尻ペンペンしてほしいものだ」

 

血相を変えて走り込んできたさやかは、アンナの青くなった顔を見つめて声をかけた。「まだ、帰ってこない。本当に、どうしたのかしら」さやかは、アンナの正面に腰かけ、アンナの落ち込んだ顔を覗き込んだ。「こんなことは、初めて。誘拐されたんじゃないかしら。まさか、殺されたんじゃ」アンナは、両手を顔に当て、ワ~~~と泣き出した。さやかも、誘拐事件かもと思った瞬間、身体が震えだした。

家出

 

「アンナ、警察に届けましょう。万が一、誘拐されていたら、大変なことになるわ。一刻も早く、助け出さないと」オドオドしているばかりでは、なんの解決にもならないと思い、糸島警察署に電話することにした。さやかが電話して30分ほどすると、小太りの刑事とアゴにヒゲを生やした二人の刑事がやってきた。ピンポ~~ン、ピンポ~~ン、とインターホーンが鳴ると、さやかは駆け足で玄関に向かった。さやかは、大きな声でドアに向かって声をかけた。「お待ちしてました。どうぞ、お入りください」

 

小太り刑事とヒゲ刑事は、ゆっくりとドアを開き、神妙な顔で会釈した。二人の刑事の顔を見たとき、さやかは、昨年のクリスマスの出来事を思い出した。「あの時の刑事さんね」小太り刑事は、頭をかきながら返事した。「ハ~~、ところで、アキちゃんが、いなくなったとか?」ピョンと飛び上がったさやかは、甲高い声で返事した。「そうなんです。とにかく、上がってください」

 

さやかに案内された二人の刑事は、気乗りしない表情をして廊下をゆっくり歩いて行った。キッチンにやってくると、小太り刑事は、軽く会釈すると血の気のない表情のアンナに声をかけた。「まだ、誘拐と決まったわけでは、ありません。詳しくお話をお聞かせください」さやかは、「さあどうぞ」と手招きして二人の刑事に椅子をすすめた。アンナは、涙を流すばかりでまったく言葉が出なかった。

 

サーファーヒカル
作家:春日信彦
ガンプラの日
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