サンタの伝言

 福岡県警テロ対策プロジェクトメンバーに指名された伊達刑事と沢富刑事は、いつもの春吉橋近くの屋台でぼやき漫才をやっていた。「寒いときの熱燗は、最高だな~。でもな~、俺たちは、どうして、こんなについてないんだ。テロ対策に追いやられるとは。お前と組まされて、俺の出世が遠のいていくような気がする。貧乏神に取り付かれたというのか・・・」沢富刑事は、いつものぼやきが始まったと思い、うつむいてお湯割のグラスに口をつけた。

 

 伊達刑事は、いつものぼやきをつぶやいてしまったとほんの少し反省したのか、ポンと手をたたいてカラスの話題を持ち出した。「そう、ホワイトハウスのカラス、今では、世界的スターじゃないか。テロにカラスを使うとは、恐れ入った」沢富刑事もカラスの異常行動がまったく分からなかった。もし、テロだとすれば、何者かが電磁波を使ってカラスを呼び寄せているのではないかと思った。沢富刑事は、コンニャクを一口かじって、口をモグモグさせながら返事した。

 

 「まったく、不思議なカラスです。いったい、どうして、ホワイトハウスに群がったのですかね。いたずらにしては、大事件ですよ」テロと思っている伊達刑事は、グイッと熱燗の日本酒をのどに流し込み、叫んだ。「おい、あれを単なるいたずらと言うのか。あれは、間違いなくテロだ。きっと、民主党攻撃のテロに決まってる。戦争大好きの共和党の仕業だと俺はにらんでいる」

いつもの妄想が始まったと沢富刑事は思い、つぶやいた。「先輩、テロと決めつけるのは、勇み足になりませんかね。アメリカも日本も何か事件が起きるとテロだ、テロだ、と騒ぎますけど、偶然の出来事だってこともありますよ。あれだって、カラスの気まぐれかもしれませんよ。カラスのちょっとしたいたずらと考えてもいいんじゃないですか。ホワイトハウスがカラスのフンで臭くなったら、笑えるじゃないですか」

 

 あまりにも能天気な沢富刑事の話にゆで卵の黄身がのどにつかえ、ゴホ~、ゴホ~と大きなせきをした。「先輩、大丈夫ですか。ちょっと、冷えますからね」伊達刑事は、口に含んだお酒を喉にグイッと流し込み、卵の黄身を胃の中に流し込んだ。窒息死するかと冷や汗をかいた伊達刑事は、大きく深呼吸してあきれた顔で話しはじめた。「おい、お前は、どうしてそんなに気楽なんだ。今、アメリカは、テロ攻撃を食らってるんだぞ」

 

 沢富刑事は、タイショー、と声をかけてとグラスを差し出し、憮然とした顔で答えた。「あれがテロって言う証拠でもあるんですか?どんな方法でカラスを呼び寄せているって言うんですか?何かあるとテロって言いますが、ほとんどの場合、確かな証拠はないんですよ。マスコミは、事件を大きくして、金儲けしているだけじゃないですか。あんなのは、マスコミが仕組んだいたずらですよ。でも、カラスを呼び寄せる方法を知っている者がいるってことですよね」

 

 伊達刑事は、グラスを置くと大きくうなずいた。「そこなんだ。カラスは、気まぐれでホワイトハウスに群がっているんじゃない。誰かが、何らかの方法でカラスを呼び寄せているに違いない。いったいどうやって、呼び寄せているんだ。いたずらだとしても、カラスを呼び寄せるなんて、天才じゃないか?カラスと会話できるやつでもいるのか?」沢富刑事は、とぼけた顔でチクワを一口かじり、ムシャムシャと口を動かし、お湯割を一口含んだ。

 

 ほんの少し顔をしかめた沢富刑事は、伊達刑事の横顔に向かって返事した。「ちょっと思いついたことなんですが、カラスは電磁波に反応して集まっているんじゃないでしょうか?誰かが、遠隔操作で電磁波をホワイトハウスから発信しているんじゃないかと思うんです」伊達刑事は、さすが秀才は考えることが違う、と言う顔でうなずいた。ムウ~~~、と大きな唸り声を上げ、質問した。

 

 「おい、それは、本当か?カラスは、電磁波で誘導できるのか?どんな電磁波だ?」ちょっと困った顔をした沢富刑事は答えた。「いや、渡り鳥をヒントに、ちょっと思いついた方法です。鳥類学者じゃないので、カラスと電磁波の関係はまったく分かりませんよ」伊達刑事の頭の中に大金持ちになった自分が現れた。「なになに、そう言うことか。もし、電磁波でカラスを誘導できるならば、カラスを除去できると言うことだ。つまり、俺たちは、億万長者になれるってことじゃないか」

 

 とうとう妄想が爆発したと思った沢富刑事は、ドン引きの顔で返事した。「先輩、電磁波でカラスを誘導できる方法を知っている学者がいたら、とっくにその方法でカラスを除去していますよ。今のところ、鳥類学者でも分からないはずです。もしかしたら、カラステロの首謀者は、鳥類学者じゃないかもしれませんね。カラスを呼び寄せる機械を発明した奇人のいたずらか、カラスと話ができる子供のいたずらじゃないですかね~」

 

伊達刑事は、いまだ、世界中の誰もが報奨金をゲットできていないと言うことは、大人ではできないと言うことだと思った。もし、カラスを除去できるとすれば、カラスと会話できる子供もしかいないと確信した。なんとなく、カラスと会話できる子供が日本にもいるような気がしてきた。無数の札束が天からヒラヒラと目の前に舞い落ちる幻想が現れると、興奮した口調で話しはじめた。「おい、もしかしたら、日本にも、カラスと会話できる子供がいるかもしれないぞ」伊達刑事は、刑事としてまじめであったが、お金に関する妄想が起きると歯止めが利かなかった。

 

沢富刑事は、ちょっとからかうことにした。「なるほど、日本にもいるに決まっています。どこかで、聞いたことがあるんですよ、動物と話ができる人がいるって」ギンギラギンに目を輝かせた伊達刑事は、顔を真っ赤にして話しはじめた。「いる、いる、日本にもきっといる。そいつを探し出せば、億万長者だぞ、ワクワクしてきたな~。でも、どうやって探すんだ?」まったく探し出す手がかりがないことに気づき、伊達刑事は、自分の妄想に愕然とした。「探し出す手がかりがまったくないんじゃ、お手上げだな。酒の勢いで、ちょっとした夢を見たと言うことだな」

 

春日信彦
作家:春日信彦
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