サンタの伝言

いつもの妄想が始まったと沢富刑事は思い、つぶやいた。「先輩、テロと決めつけるのは、勇み足になりませんかね。アメリカも日本も何か事件が起きるとテロだ、テロだ、と騒ぎますけど、偶然の出来事だってこともありますよ。あれだって、カラスの気まぐれかもしれませんよ。カラスのちょっとしたいたずらと考えてもいいんじゃないですか。ホワイトハウスがカラスのフンで臭くなったら、笑えるじゃないですか」

 

 あまりにも能天気な沢富刑事の話にゆで卵の黄身がのどにつかえ、ゴホ~、ゴホ~と大きなせきをした。「先輩、大丈夫ですか。ちょっと、冷えますからね」伊達刑事は、口に含んだお酒を喉にグイッと流し込み、卵の黄身を胃の中に流し込んだ。窒息死するかと冷や汗をかいた伊達刑事は、大きく深呼吸してあきれた顔で話しはじめた。「おい、お前は、どうしてそんなに気楽なんだ。今、アメリカは、テロ攻撃を食らってるんだぞ」

 

 沢富刑事は、タイショー、と声をかけてとグラスを差し出し、憮然とした顔で答えた。「あれがテロって言う証拠でもあるんですか?どんな方法でカラスを呼び寄せているって言うんですか?何かあるとテロって言いますが、ほとんどの場合、確かな証拠はないんですよ。マスコミは、事件を大きくして、金儲けしているだけじゃないですか。あんなのは、マスコミが仕組んだいたずらですよ。でも、カラスを呼び寄せる方法を知っている者がいるってことですよね」

 

 伊達刑事は、グラスを置くと大きくうなずいた。「そこなんだ。カラスは、気まぐれでホワイトハウスに群がっているんじゃない。誰かが、何らかの方法でカラスを呼び寄せているに違いない。いったいどうやって、呼び寄せているんだ。いたずらだとしても、カラスを呼び寄せるなんて、天才じゃないか?カラスと会話できるやつでもいるのか?」沢富刑事は、とぼけた顔でチクワを一口かじり、ムシャムシャと口を動かし、お湯割を一口含んだ。

 

 ほんの少し顔をしかめた沢富刑事は、伊達刑事の横顔に向かって返事した。「ちょっと思いついたことなんですが、カラスは電磁波に反応して集まっているんじゃないでしょうか?誰かが、遠隔操作で電磁波をホワイトハウスから発信しているんじゃないかと思うんです」伊達刑事は、さすが秀才は考えることが違う、と言う顔でうなずいた。ムウ~~~、と大きな唸り声を上げ、質問した。

 

 「おい、それは、本当か?カラスは、電磁波で誘導できるのか?どんな電磁波だ?」ちょっと困った顔をした沢富刑事は答えた。「いや、渡り鳥をヒントに、ちょっと思いついた方法です。鳥類学者じゃないので、カラスと電磁波の関係はまったく分かりませんよ」伊達刑事の頭の中に大金持ちになった自分が現れた。「なになに、そう言うことか。もし、電磁波でカラスを誘導できるならば、カラスを除去できると言うことだ。つまり、俺たちは、億万長者になれるってことじゃないか」

 

 とうとう妄想が爆発したと思った沢富刑事は、ドン引きの顔で返事した。「先輩、電磁波でカラスを誘導できる方法を知っている学者がいたら、とっくにその方法でカラスを除去していますよ。今のところ、鳥類学者でも分からないはずです。もしかしたら、カラステロの首謀者は、鳥類学者じゃないかもしれませんね。カラスを呼び寄せる機械を発明した奇人のいたずらか、カラスと話ができる子供のいたずらじゃないですかね~」

 

伊達刑事は、いまだ、世界中の誰もが報奨金をゲットできていないと言うことは、大人ではできないと言うことだと思った。もし、カラスを除去できるとすれば、カラスと会話できる子供もしかいないと確信した。なんとなく、カラスと会話できる子供が日本にもいるような気がしてきた。無数の札束が天からヒラヒラと目の前に舞い落ちる幻想が現れると、興奮した口調で話しはじめた。「おい、もしかしたら、日本にも、カラスと会話できる子供がいるかもしれないぞ」伊達刑事は、刑事としてまじめであったが、お金に関する妄想が起きると歯止めが利かなかった。

 

沢富刑事は、ちょっとからかうことにした。「なるほど、日本にもいるに決まっています。どこかで、聞いたことがあるんですよ、動物と話ができる人がいるって」ギンギラギンに目を輝かせた伊達刑事は、顔を真っ赤にして話しはじめた。「いる、いる、日本にもきっといる。そいつを探し出せば、億万長者だぞ、ワクワクしてきたな~。でも、どうやって探すんだ?」まったく探し出す手がかりがないことに気づき、伊達刑事は、自分の妄想に愕然とした。「探し出す手がかりがまったくないんじゃ、お手上げだな。酒の勢いで、ちょっとした夢を見たと言うことだな」

 

 がっかりした伊達刑事を気遣って沢富刑事は、夢を膨らませることにした。「先輩、いつもの先輩らしくないですよ。粘りが第一だ。きっと、手がかりはある。足が棒になるまで歩け。そう、いつも言ってるじゃないですか。とにかく、探しましょう。まずは、聞き込みからです」伊達刑事は、ほんの少し笑顔を作り、しぼみかけた妄想が再び膨らみ始めた。「そうだよな、探してみないとな。偶然、そんなやつに出くわすと言うこともあるしな。でも、いったいどんな聞き込みをやるんだ」

 

 一瞬、しかめっ面をした沢富刑事だったが、笑顔を作り、軽やかな声で話しはじめた。「難しく考えなくていいんですよ。カラステロの話題から、カラスが好きな人を知っていないか、聞き出すんですよ。きっと、カラスが好きな人は、カラスと会話できると思うんです。とにかく、カラスが好きな人を探しましょう」伊達刑事は、膳は急げ、と思い、手当たりしだい、カラステロの話題で聞き込みをすることにした。

 

 「そうだ、早速、ウチのに聞いてみるか。オヤジ、御あいそう」伊達刑事は、自宅に帰り細君にカラステロの話をすることにした。「俺んちで、話の続きだ。福岡代表のカラオケ女王、呼べないか?」沢富刑事は、ひろ子に電話した。「グッドタイミングでした。10分もすれば、来てくれるそうです」二人が、春吉橋の袂で震えていると、中州の歓楽街ではちょっと有名なピンクのYESタクシーが二人の前で止まった。

春日信彦
作家:春日信彦
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