サンタの伝言

 とうとう妄想が爆発したと思った沢富刑事は、ドン引きの顔で返事した。「先輩、電磁波でカラスを誘導できる方法を知っている学者がいたら、とっくにその方法でカラスを除去していますよ。今のところ、鳥類学者でも分からないはずです。もしかしたら、カラステロの首謀者は、鳥類学者じゃないかもしれませんね。カラスを呼び寄せる機械を発明した奇人のいたずらか、カラスと話ができる子供のいたずらじゃないですかね~」

 

伊達刑事は、いまだ、世界中の誰もが報奨金をゲットできていないと言うことは、大人ではできないと言うことだと思った。もし、カラスを除去できるとすれば、カラスと会話できる子供もしかいないと確信した。なんとなく、カラスと会話できる子供が日本にもいるような気がしてきた。無数の札束が天からヒラヒラと目の前に舞い落ちる幻想が現れると、興奮した口調で話しはじめた。「おい、もしかしたら、日本にも、カラスと会話できる子供がいるかもしれないぞ」伊達刑事は、刑事としてまじめであったが、お金に関する妄想が起きると歯止めが利かなかった。

 

沢富刑事は、ちょっとからかうことにした。「なるほど、日本にもいるに決まっています。どこかで、聞いたことがあるんですよ、動物と話ができる人がいるって」ギンギラギンに目を輝かせた伊達刑事は、顔を真っ赤にして話しはじめた。「いる、いる、日本にもきっといる。そいつを探し出せば、億万長者だぞ、ワクワクしてきたな~。でも、どうやって探すんだ?」まったく探し出す手がかりがないことに気づき、伊達刑事は、自分の妄想に愕然とした。「探し出す手がかりがまったくないんじゃ、お手上げだな。酒の勢いで、ちょっとした夢を見たと言うことだな」

 

 がっかりした伊達刑事を気遣って沢富刑事は、夢を膨らませることにした。「先輩、いつもの先輩らしくないですよ。粘りが第一だ。きっと、手がかりはある。足が棒になるまで歩け。そう、いつも言ってるじゃないですか。とにかく、探しましょう。まずは、聞き込みからです」伊達刑事は、ほんの少し笑顔を作り、しぼみかけた妄想が再び膨らみ始めた。「そうだよな、探してみないとな。偶然、そんなやつに出くわすと言うこともあるしな。でも、いったいどんな聞き込みをやるんだ」

 

 一瞬、しかめっ面をした沢富刑事だったが、笑顔を作り、軽やかな声で話しはじめた。「難しく考えなくていいんですよ。カラステロの話題から、カラスが好きな人を知っていないか、聞き出すんですよ。きっと、カラスが好きな人は、カラスと会話できると思うんです。とにかく、カラスが好きな人を探しましょう」伊達刑事は、膳は急げ、と思い、手当たりしだい、カラステロの話題で聞き込みをすることにした。

 

 「そうだ、早速、ウチのに聞いてみるか。オヤジ、御あいそう」伊達刑事は、自宅に帰り細君にカラステロの話をすることにした。「俺んちで、話の続きだ。福岡代表のカラオケ女王、呼べないか?」沢富刑事は、ひろ子に電話した。「グッドタイミングでした。10分もすれば、来てくれるそうです」二人が、春吉橋の袂で震えていると、中州の歓楽街ではちょっと有名なピンクのYESタクシーが二人の前で止まった。

 後部ドアが開くと沢富刑事を先に押し込み小太りの伊達刑事が、笑顔で乗り込んだ。「自宅まで」運転手は、笑顔で返事した。「はい、今日もご機嫌ですね。何かいいことでもありましたか」運転手は、ルームミラーに映った伊達刑事の間抜けな顔をチラッと覗き見た。ほろ酔い気分の伊達刑事は、妄想の話を始めた。「ひろ子さん、俺たち、億万長者になるかも。カラス様様だ」

 

 運転手は、なにを言っているのかまったく理解できず、適当に話をあわせることにした。「え、億万長者ですか?よく当たるという天神の宝くじでも買われたのですか?」沢富刑事は、いい加減なことをしゃべった伊達刑事に代わって返事した。「さっきのは、冗談です。ご存知でしょ、カラステロの報奨金の話。それですよ。伊達さんは、カラスと会話できる子供を探し出して、分け前をもらおうって魂胆なんです。まあ、ちょっとした妄想です。聞き流してください」

 

 ねむり眼だった伊達刑事の目が、きりっとつり上がり、背筋を伸ばし話しはじめた。「ひろ子さん、単なる妄想じゃありません。日本のどこかに、必ずいるはずです。カラスと会話できる子供が。必ず、探し出して見せます、期待して、待っていてください」運転手もカラステロの報奨金のことは、知っていた。また、いまだ、カラスを除去できる人物が現れていないことも知っていた。

 「さすが、伊達さんだわ。私も協力しますわ。お客さんにカラスが好きな人がいるか、それとなく聞いてみます。意外と身近なところにいるかも。カラスと会話できる子供を見つけることができたら、億万長者ですね、ワクワクするわ」沢富刑事は、ひろ子が、こんなにもお調子者だとは思わなかった。「ひろ子さんまで、浮かれないでください。単なる妄想です。カラスと会話できる子供なんているかどうか、雲をつかむような話じゃないですか。先輩、妄想はこの辺にしましょう」

 

 運転手は、ルームミラーを見つめてニコッと笑顔を作った。「あら、沢ちゃんって、夢がないのね。動物とお話できる子供がいるって、聞いたことあるでしょ。きっと、いるわよ。探してみなけりゃ、分からないわよ。思うんだけど、きっと、あれって、いたずらね。カラスを呼び寄せられる機械を発明した天才のいたずらじゃないかしら。でも、大統領が困り果てて泣いていると言えば、カラスも分かってくれると思うのよね。とにかく、カラスと会話できる子供を探しましょう。どこかにいるはずよ」

 

 伊達刑事は、身を乗り出して話し始めた。「そうさ。ひろ子さんの言うとおり。とにかく探してみよう。もしいたら、ウヒウヒじゃないか、な~、沢富」伊達刑事の頭の中は、札束でいっぱいになっていた。妄想もここまでくると調子を合わせる以外、収集がつかなくなってしまった。「まあ~、いいでしょう。宝くじの夢も、報奨金の夢も、似たようなものですからね。探してみますか」やけくそになった沢富刑事は、マジにガッツポーズを作った。

春日信彦
作家:春日信彦
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