サンタの伝言

 運転手がブレーキを踏むとタクシーは大濠公園の東側にあるマンション前に到着した。二人が車から降りると、ひろ子はウィンクをしてドアを閉めた。「カラスの聞き込み、任せてください」二人が手を振ると、ハイブリッドのピンクのタクシーは静かに消えていった。マンションのドアを開いた伊達刑事は、うれしそうな声でナオ子にビールを準備させた。「ナオ子~~~、ビ~~~ル」と夫の発音に上機嫌を感じ取ったナオ子は、何かいいことがあったに違いないと察知し、笑顔でフレッジにかけていった。

 

 「あなた、おでん、あるわよ。熱燗いかが」おでんと聞いた伊達刑事は、笑顔で返事した。「それはいい、熱燗で前祝だ。ナオ子もいっぱいやれ。ナオ子、俺たち、億万長者になれるかも。さあ、こっちに来て、乾杯だ」ナオ子は、宝くじを百枚買ってきたのだと勘違いした。「宝くじ何枚買ってきてくださったの?100枚?」ナオ子は、おでんとビールをテーブルに置いて、熱燗の準備に取り掛かった。

 

 伊達刑事は、ニコニコとするばかりで、ナオ子がやってくるまで何も言わなかった。「まだか、早くこっちに来い。サプライズだ、さあ」ナオ子は、二本のお銚子を載せたお盆を笑顔で運んできた。「熱いから、気をつけてね」伊達刑事は、まず、お酒をナオ子と沢富刑事の杯に、最後に自分の杯に注ぎ、乾杯の音頭をとった。「ついに、我が家にも春がやってきた。億万長者になれる日は、すぐそこだ。さあ、乾杯だ。カンパ~イ」三人は、笑顔で杯を響かせた。

 ナオ子は、もしかしたら、100枚以上買ってきたのではないかとワクワクしていた。「ね~、あなた、何枚買ってきたのよ、もったいぶらないで、何枚よ?」伊達刑事は、笑顔で答えた。「宝くじは、一枚も買ってない。だが、今年は、確実に億万長者になれるぞ。喜べ」ナオ子は、ガクッと肩を落とし、いったい何のことやらわけが分からず、質問した。「あなた、宝くじ以外で、どうやって億万長者になるのよ。さ~早く、教えてちょうだい」

 

 伊達刑事は、胸を張って、ゴホンと一度咳払いすると声たからかに話し始めた。「びっくりするな。俺たちはな、カラスと会話できる子供を探し出すんだ。きっと探し出せる。宝くじよりは、確率は高い。待っていろ、ナオ子」ナオ子は、いったい何のことやらさっぱり分からなかった。「いったいどういうこと。もっと分かりやすく話してよ。さっぱりわかんないわ」ナオ子は、苦虫をつぶした顔で、グイッと杯を空けた。

 

 伊達刑事もキュッと杯を空けると小皿に大根と厚揚げをとった。「まあ、ゆっくり聞くがいい、カラステロの報奨金を知っているだろ。そこでだ、カラスを除去する名案を思いついた。カラスと話ができる子供を探し出して、その子供に除去をさせるってわけだ。巷では、カラスと会話できる子供が日本にいる、と言ううわさだ。そこで、俺たちが、いち早く探し出して、その子供を使って、カラスを除去しようってわけだ。そうすりゃ、報奨金が手に入るってわけだ。そう、ナオ子は、そんな子供、心当たり、ないか?」

あきれ返ったナオ子は、開いた口がふさがらなかった。こんにゃくを顔にぶん投げてやろうかと思ったが、年末にケンカをしては縁起が悪いと思い、ちょっとだけバカにつきやってやることにした。「あなた、カラスと会話できる子供を探すより、宝くじを買ったほうが、億万長者になれるんじゃない。カラスと会話できる子供を探している間に、カラスは皆殺しにされるかもよ」

 

伊達刑事は、ナオ子の夢のない話にがっかりした。厚揚げにからしを塗りながら、夢を膨らませた。「ナオ子、どうして、そんなに悲観的なんだ。探してみなきゃ、わかんないだろ~。奇跡が起きて、カラスと話ができる子供が見つかるかもしれないじゃないか。俺は、日本のどこかにいると思うな。絶対、絶対あきらめないぞ。お前もだよな」伊達刑事は、沢富刑事に同意を求めた。

 

小さくうなずきながら聞いていた沢富刑事は、杯を置くと静かに話し始めた。「奥さんのおっしゃることは、ごもっともです。でも、もしもですよ、誰も、カラスを除去できなければ、カラスは、射殺されるでしょう。すでに、1万羽以上の数に上っているそうです。たとえ、国際鳥獣保護団体が反対しても、射殺されると思います。もはや、カラスを救えるのは、子供しかいないと思うんです。僕は、奇跡を信じます。きっと、カラスと話ができる子供がいると信じます。探し出してみたいのです」

ナオ子は、カラスがマシンガンで射殺される情景を思い浮かべると、大好きなガンモドキがのどを通らなくなった。うつむいてしまったナオ子は、沢富刑事の優しさに涙をこぼした。「そうよね、このままじゃ、皆殺しよね。とにかく、あのカラスたちを救ってあげなきゃ。私も探すわ、きっといるわよ。あなた」伊達刑事は、沢富刑事のやさしさを知り、自分の愚かさに悲しくなった。

 

「そうだよな、お金じゃないよな。カラスを救ってやらなきゃな。俺たちにできることは、やらなきゃ。話が湿っぽくなったな~。さあ、今夜は、飲み明かそう。明日からは、聞き込み開始だ」ナオ子は、涙を拭くとビールを空けた夫のグラスにお酒を注ぎ、グイ~~と一気に飲みほした。「よし、徹底的に、聞き込みね。やるわよ~。一刻の猶予もないのよ。分かっているの、お二人さん。カラスの命は、私たちにかかっているのよ」伊達刑事と沢富刑事は、見詰め合ってうなずいた。

 

夢見る少女

 

 アンナは、授業参観を終え、保健室の東側の並びにある児童相談室に向かった。亜紀の奇行についてイケメン先生に相談する予約を取っていた。中卒のアンナは、専門的な難しい言葉で話されたら、どうしようかとドギマギしていたが、イケメン先生と呼ばれている人工知能コンサルタントは、一般常識的な言葉で話すようにプログラムされていた。カツラコーポレーションが開発した人工知能コンサルタントは、母親に大好評で、相談を終えると彼のホッペにキスをして帰る母親もいた。

春日信彦
作家:春日信彦
サンタの伝言
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