サンタの伝言

あきれ返ったナオ子は、開いた口がふさがらなかった。こんにゃくを顔にぶん投げてやろうかと思ったが、年末にケンカをしては縁起が悪いと思い、ちょっとだけバカにつきやってやることにした。「あなた、カラスと会話できる子供を探すより、宝くじを買ったほうが、億万長者になれるんじゃない。カラスと会話できる子供を探している間に、カラスは皆殺しにされるかもよ」

 

伊達刑事は、ナオ子の夢のない話にがっかりした。厚揚げにからしを塗りながら、夢を膨らませた。「ナオ子、どうして、そんなに悲観的なんだ。探してみなきゃ、わかんないだろ~。奇跡が起きて、カラスと話ができる子供が見つかるかもしれないじゃないか。俺は、日本のどこかにいると思うな。絶対、絶対あきらめないぞ。お前もだよな」伊達刑事は、沢富刑事に同意を求めた。

 

小さくうなずきながら聞いていた沢富刑事は、杯を置くと静かに話し始めた。「奥さんのおっしゃることは、ごもっともです。でも、もしもですよ、誰も、カラスを除去できなければ、カラスは、射殺されるでしょう。すでに、1万羽以上の数に上っているそうです。たとえ、国際鳥獣保護団体が反対しても、射殺されると思います。もはや、カラスを救えるのは、子供しかいないと思うんです。僕は、奇跡を信じます。きっと、カラスと話ができる子供がいると信じます。探し出してみたいのです」

ナオ子は、カラスがマシンガンで射殺される情景を思い浮かべると、大好きなガンモドキがのどを通らなくなった。うつむいてしまったナオ子は、沢富刑事の優しさに涙をこぼした。「そうよね、このままじゃ、皆殺しよね。とにかく、あのカラスたちを救ってあげなきゃ。私も探すわ、きっといるわよ。あなた」伊達刑事は、沢富刑事のやさしさを知り、自分の愚かさに悲しくなった。

 

「そうだよな、お金じゃないよな。カラスを救ってやらなきゃな。俺たちにできることは、やらなきゃ。話が湿っぽくなったな~。さあ、今夜は、飲み明かそう。明日からは、聞き込み開始だ」ナオ子は、涙を拭くとビールを空けた夫のグラスにお酒を注ぎ、グイ~~と一気に飲みほした。「よし、徹底的に、聞き込みね。やるわよ~。一刻の猶予もないのよ。分かっているの、お二人さん。カラスの命は、私たちにかかっているのよ」伊達刑事と沢富刑事は、見詰め合ってうなずいた。

 

夢見る少女

 

 アンナは、授業参観を終え、保健室の東側の並びにある児童相談室に向かった。亜紀の奇行についてイケメン先生に相談する予約を取っていた。中卒のアンナは、専門的な難しい言葉で話されたら、どうしようかとドギマギしていたが、イケメン先生と呼ばれている人工知能コンサルタントは、一般常識的な言葉で話すようにプログラムされていた。カツラコーポレーションが開発した人工知能コンサルタントは、母親に大好評で、相談を終えると彼のホッペにキスをして帰る母親もいた。

アンナが、恐る恐る相談室のドアを開くと、イケメン先生がオレンジの小さな丸テーブルに腰掛けていた。アンナが、先生の正面に腰掛け、挨拶した。「亜紀の母親です。よろしくお願いします」先生は、グリーンの目をピッカ、ピッカと輝かせ、挨拶した。「ようこそいらっしゃいました。どんな、質問にもお答えします。遠慮されずに、ガンガン質問してください」アンナは、イケメン先生の甘い声を聞いて、緊張がほぐれた。

 

早速、アンナは、胸の奥でくすぶっていた悩みを打ち明けた。「先生、ますます、ひとり言が増えているんです。このままで、大丈夫でしょうか?」先生は、マニュアルに従った返事をした。「日本国民は、憲法で表現の自由が認められています。まったく、問題はありません」アンナは、質問の趣旨が通じてないようで、もう一度、言い方を変えて質問した。「それはわかっています、子供が動物に向かって、なにやらしゃべっているんです。とにかく、気味が悪いんです」

 

 先生は、心理学のプログラムを採用した。「人が動物と話をすることは、決して体や精神に害を与えるものではありません。これは、ストレス発散の方法で、むしろ、そのことによって、健全な心と体になるでしょう」アンナは、かわいい犬や猫と会話するのはなんとなく許せたが、気味の悪いカラスと話をするのは、納得がいかなかった。いったいなぜ、カラスと話をするのか知りたかった。 

「先生、かわいい犬とネコと話をするのは、許せるんですが、気味の悪いカラスとも話しをするんです。どこか、心の病でもあるんでしょうか?」先生は、大人の先入観について指摘した。「お母様、カラスを気味が悪いとおっしゃいましたね。確かに、ゴミをあさったりして、人間に迷惑をかけることはあるでしょう。だからと言って、カラスは、悪い鳥だと決めつけてはいけません。亜紀さんは、カラスのやさしさや賢さを理解しているのです。だから、カラスと仲良くお話ができるのです」

 

アンナは、少しずつムカつき始めていた。先生は、母親の気持がまったくわかっていないと思った。犬、猫、カラスたちと楽しそうに話している姿を見れば、どんな親だって気味が悪いと思うと言いたかった。「先生、亜紀は、動物の言葉が分かるのでしょうか?人と話をするように会話しているんです。これって、病気じゃないですか?」先生は、特殊性について話をすることにした。

 

「動物と話をする人は、少ないでしょう。少ないからと言って、彼らを病人扱いしてはいけません。彼らは、動物の表情を言葉に変換する能力を持っているのです。だから、人間相手と同様に動物とも会話ができるのです。亜紀さんは、その能力が特に秀でていると言えます。決して、病気ではありません。お母様、ご心配ありません」アンナは、何か、先生に言いくるめられているようで、ますます、ムカついてきた。

 

春日信彦
作家:春日信彦
サンタの伝言
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