サンタの伝言

 「さすが、伊達さんだわ。私も協力しますわ。お客さんにカラスが好きな人がいるか、それとなく聞いてみます。意外と身近なところにいるかも。カラスと会話できる子供を見つけることができたら、億万長者ですね、ワクワクするわ」沢富刑事は、ひろ子が、こんなにもお調子者だとは思わなかった。「ひろ子さんまで、浮かれないでください。単なる妄想です。カラスと会話できる子供なんているかどうか、雲をつかむような話じゃないですか。先輩、妄想はこの辺にしましょう」

 

 運転手は、ルームミラーを見つめてニコッと笑顔を作った。「あら、沢ちゃんって、夢がないのね。動物とお話できる子供がいるって、聞いたことあるでしょ。きっと、いるわよ。探してみなけりゃ、分からないわよ。思うんだけど、きっと、あれって、いたずらね。カラスを呼び寄せられる機械を発明した天才のいたずらじゃないかしら。でも、大統領が困り果てて泣いていると言えば、カラスも分かってくれると思うのよね。とにかく、カラスと会話できる子供を探しましょう。どこかにいるはずよ」

 

 伊達刑事は、身を乗り出して話し始めた。「そうさ。ひろ子さんの言うとおり。とにかく探してみよう。もしいたら、ウヒウヒじゃないか、な~、沢富」伊達刑事の頭の中は、札束でいっぱいになっていた。妄想もここまでくると調子を合わせる以外、収集がつかなくなってしまった。「まあ~、いいでしょう。宝くじの夢も、報奨金の夢も、似たようなものですからね。探してみますか」やけくそになった沢富刑事は、マジにガッツポーズを作った。

 運転手がブレーキを踏むとタクシーは大濠公園の東側にあるマンション前に到着した。二人が車から降りると、ひろ子はウィンクをしてドアを閉めた。「カラスの聞き込み、任せてください」二人が手を振ると、ハイブリッドのピンクのタクシーは静かに消えていった。マンションのドアを開いた伊達刑事は、うれしそうな声でナオ子にビールを準備させた。「ナオ子~~~、ビ~~~ル」と夫の発音に上機嫌を感じ取ったナオ子は、何かいいことがあったに違いないと察知し、笑顔でフレッジにかけていった。

 

 「あなた、おでん、あるわよ。熱燗いかが」おでんと聞いた伊達刑事は、笑顔で返事した。「それはいい、熱燗で前祝だ。ナオ子もいっぱいやれ。ナオ子、俺たち、億万長者になれるかも。さあ、こっちに来て、乾杯だ」ナオ子は、宝くじを百枚買ってきたのだと勘違いした。「宝くじ何枚買ってきてくださったの?100枚?」ナオ子は、おでんとビールをテーブルに置いて、熱燗の準備に取り掛かった。

 

 伊達刑事は、ニコニコとするばかりで、ナオ子がやってくるまで何も言わなかった。「まだか、早くこっちに来い。サプライズだ、さあ」ナオ子は、二本のお銚子を載せたお盆を笑顔で運んできた。「熱いから、気をつけてね」伊達刑事は、まず、お酒をナオ子と沢富刑事の杯に、最後に自分の杯に注ぎ、乾杯の音頭をとった。「ついに、我が家にも春がやってきた。億万長者になれる日は、すぐそこだ。さあ、乾杯だ。カンパ~イ」三人は、笑顔で杯を響かせた。

 ナオ子は、もしかしたら、100枚以上買ってきたのではないかとワクワクしていた。「ね~、あなた、何枚買ってきたのよ、もったいぶらないで、何枚よ?」伊達刑事は、笑顔で答えた。「宝くじは、一枚も買ってない。だが、今年は、確実に億万長者になれるぞ。喜べ」ナオ子は、ガクッと肩を落とし、いったい何のことやらわけが分からず、質問した。「あなた、宝くじ以外で、どうやって億万長者になるのよ。さ~早く、教えてちょうだい」

 

 伊達刑事は、胸を張って、ゴホンと一度咳払いすると声たからかに話し始めた。「びっくりするな。俺たちはな、カラスと会話できる子供を探し出すんだ。きっと探し出せる。宝くじよりは、確率は高い。待っていろ、ナオ子」ナオ子は、いったい何のことやらさっぱり分からなかった。「いったいどういうこと。もっと分かりやすく話してよ。さっぱりわかんないわ」ナオ子は、苦虫をつぶした顔で、グイッと杯を空けた。

 

 伊達刑事もキュッと杯を空けると小皿に大根と厚揚げをとった。「まあ、ゆっくり聞くがいい、カラステロの報奨金を知っているだろ。そこでだ、カラスを除去する名案を思いついた。カラスと話ができる子供を探し出して、その子供に除去をさせるってわけだ。巷では、カラスと会話できる子供が日本にいる、と言ううわさだ。そこで、俺たちが、いち早く探し出して、その子供を使って、カラスを除去しようってわけだ。そうすりゃ、報奨金が手に入るってわけだ。そう、ナオ子は、そんな子供、心当たり、ないか?」

あきれ返ったナオ子は、開いた口がふさがらなかった。こんにゃくを顔にぶん投げてやろうかと思ったが、年末にケンカをしては縁起が悪いと思い、ちょっとだけバカにつきやってやることにした。「あなた、カラスと会話できる子供を探すより、宝くじを買ったほうが、億万長者になれるんじゃない。カラスと会話できる子供を探している間に、カラスは皆殺しにされるかもよ」

 

伊達刑事は、ナオ子の夢のない話にがっかりした。厚揚げにからしを塗りながら、夢を膨らませた。「ナオ子、どうして、そんなに悲観的なんだ。探してみなきゃ、わかんないだろ~。奇跡が起きて、カラスと話ができる子供が見つかるかもしれないじゃないか。俺は、日本のどこかにいると思うな。絶対、絶対あきらめないぞ。お前もだよな」伊達刑事は、沢富刑事に同意を求めた。

 

小さくうなずきながら聞いていた沢富刑事は、杯を置くと静かに話し始めた。「奥さんのおっしゃることは、ごもっともです。でも、もしもですよ、誰も、カラスを除去できなければ、カラスは、射殺されるでしょう。すでに、1万羽以上の数に上っているそうです。たとえ、国際鳥獣保護団体が反対しても、射殺されると思います。もはや、カラスを救えるのは、子供しかいないと思うんです。僕は、奇跡を信じます。きっと、カラスと話ができる子供がいると信じます。探し出してみたいのです」

春日信彦
作家:春日信彦
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