サンタの伝言

 がっかりした伊達刑事を気遣って沢富刑事は、夢を膨らませることにした。「先輩、いつもの先輩らしくないですよ。粘りが第一だ。きっと、手がかりはある。足が棒になるまで歩け。そう、いつも言ってるじゃないですか。とにかく、探しましょう。まずは、聞き込みからです」伊達刑事は、ほんの少し笑顔を作り、しぼみかけた妄想が再び膨らみ始めた。「そうだよな、探してみないとな。偶然、そんなやつに出くわすと言うこともあるしな。でも、いったいどんな聞き込みをやるんだ」

 

 一瞬、しかめっ面をした沢富刑事だったが、笑顔を作り、軽やかな声で話しはじめた。「難しく考えなくていいんですよ。カラステロの話題から、カラスが好きな人を知っていないか、聞き出すんですよ。きっと、カラスが好きな人は、カラスと会話できると思うんです。とにかく、カラスが好きな人を探しましょう」伊達刑事は、膳は急げ、と思い、手当たりしだい、カラステロの話題で聞き込みをすることにした。

 

 「そうだ、早速、ウチのに聞いてみるか。オヤジ、御あいそう」伊達刑事は、自宅に帰り細君にカラステロの話をすることにした。「俺んちで、話の続きだ。福岡代表のカラオケ女王、呼べないか?」沢富刑事は、ひろ子に電話した。「グッドタイミングでした。10分もすれば、来てくれるそうです」二人が、春吉橋の袂で震えていると、中州の歓楽街ではちょっと有名なピンクのYESタクシーが二人の前で止まった。

 後部ドアが開くと沢富刑事を先に押し込み小太りの伊達刑事が、笑顔で乗り込んだ。「自宅まで」運転手は、笑顔で返事した。「はい、今日もご機嫌ですね。何かいいことでもありましたか」運転手は、ルームミラーに映った伊達刑事の間抜けな顔をチラッと覗き見た。ほろ酔い気分の伊達刑事は、妄想の話を始めた。「ひろ子さん、俺たち、億万長者になるかも。カラス様様だ」

 

 運転手は、なにを言っているのかまったく理解できず、適当に話をあわせることにした。「え、億万長者ですか?よく当たるという天神の宝くじでも買われたのですか?」沢富刑事は、いい加減なことをしゃべった伊達刑事に代わって返事した。「さっきのは、冗談です。ご存知でしょ、カラステロの報奨金の話。それですよ。伊達さんは、カラスと会話できる子供を探し出して、分け前をもらおうって魂胆なんです。まあ、ちょっとした妄想です。聞き流してください」

 

 ねむり眼だった伊達刑事の目が、きりっとつり上がり、背筋を伸ばし話しはじめた。「ひろ子さん、単なる妄想じゃありません。日本のどこかに、必ずいるはずです。カラスと会話できる子供が。必ず、探し出して見せます、期待して、待っていてください」運転手もカラステロの報奨金のことは、知っていた。また、いまだ、カラスを除去できる人物が現れていないことも知っていた。

 「さすが、伊達さんだわ。私も協力しますわ。お客さんにカラスが好きな人がいるか、それとなく聞いてみます。意外と身近なところにいるかも。カラスと会話できる子供を見つけることができたら、億万長者ですね、ワクワクするわ」沢富刑事は、ひろ子が、こんなにもお調子者だとは思わなかった。「ひろ子さんまで、浮かれないでください。単なる妄想です。カラスと会話できる子供なんているかどうか、雲をつかむような話じゃないですか。先輩、妄想はこの辺にしましょう」

 

 運転手は、ルームミラーを見つめてニコッと笑顔を作った。「あら、沢ちゃんって、夢がないのね。動物とお話できる子供がいるって、聞いたことあるでしょ。きっと、いるわよ。探してみなけりゃ、分からないわよ。思うんだけど、きっと、あれって、いたずらね。カラスを呼び寄せられる機械を発明した天才のいたずらじゃないかしら。でも、大統領が困り果てて泣いていると言えば、カラスも分かってくれると思うのよね。とにかく、カラスと会話できる子供を探しましょう。どこかにいるはずよ」

 

 伊達刑事は、身を乗り出して話し始めた。「そうさ。ひろ子さんの言うとおり。とにかく探してみよう。もしいたら、ウヒウヒじゃないか、な~、沢富」伊達刑事の頭の中は、札束でいっぱいになっていた。妄想もここまでくると調子を合わせる以外、収集がつかなくなってしまった。「まあ~、いいでしょう。宝くじの夢も、報奨金の夢も、似たようなものですからね。探してみますか」やけくそになった沢富刑事は、マジにガッツポーズを作った。

 運転手がブレーキを踏むとタクシーは大濠公園の東側にあるマンション前に到着した。二人が車から降りると、ひろ子はウィンクをしてドアを閉めた。「カラスの聞き込み、任せてください」二人が手を振ると、ハイブリッドのピンクのタクシーは静かに消えていった。マンションのドアを開いた伊達刑事は、うれしそうな声でナオ子にビールを準備させた。「ナオ子~~~、ビ~~~ル」と夫の発音に上機嫌を感じ取ったナオ子は、何かいいことがあったに違いないと察知し、笑顔でフレッジにかけていった。

 

 「あなた、おでん、あるわよ。熱燗いかが」おでんと聞いた伊達刑事は、笑顔で返事した。「それはいい、熱燗で前祝だ。ナオ子もいっぱいやれ。ナオ子、俺たち、億万長者になれるかも。さあ、こっちに来て、乾杯だ」ナオ子は、宝くじを百枚買ってきたのだと勘違いした。「宝くじ何枚買ってきてくださったの?100枚?」ナオ子は、おでんとビールをテーブルに置いて、熱燗の準備に取り掛かった。

 

 伊達刑事は、ニコニコとするばかりで、ナオ子がやってくるまで何も言わなかった。「まだか、早くこっちに来い。サプライズだ、さあ」ナオ子は、二本のお銚子を載せたお盆を笑顔で運んできた。「熱いから、気をつけてね」伊達刑事は、まず、お酒をナオ子と沢富刑事の杯に、最後に自分の杯に注ぎ、乾杯の音頭をとった。「ついに、我が家にも春がやってきた。億万長者になれる日は、すぐそこだ。さあ、乾杯だ。カンパ~イ」三人は、笑顔で杯を響かせた。

春日信彦
作家:春日信彦
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