サンタの伝言

ついに、政府はさじを投げ、世界各国にカラス除去の依頼を発信した。その内容は、速やかにカラスを除去したものには、100万ドルの報奨金を支払うと言うものだった。日本円にして、約1億2千万円と言う大金だった。その大金を目当てに多くの鳥類学者は、われこそはと名乗りを上げて、カラスが嫌う超音波、音、光、匂い、で除去しようと試みたが、そのような既存の方法では、大群のカラスたちはびくともしなかった。

 

 集団的自衛権をもとにアメリカ政府は、日本にカラスの除去支援を求めた。日本政府は、自衛隊をホワイトハウスに派遣し、米軍と協力してカラスの捕獲に乗り出したが、賢いカラスは、軍隊がやってくるとヒラ~リ、ヒラーリと舞い上がり、オバカ~、オバカ~と軍隊をあざ笑い、捕獲作戦は大失敗に終わった。このままだとカラスにアメリカが乗っ取られると恐れた政府は、カラスを食肉とする立法に乗り出した。だが、この法案は、最終手段であって、あくまでも、穏便にカラスを立ち退かせることを最優先した。

 

 軍隊によるカラス捕獲の失敗により民主党の支持率は急降下した。民主党が、次期大統領選を勝ち抜くためには是が非でもカラスの除去に成功しなければならなかった。日本政府においても、カラステロが国会議事堂で起こされるのではないかと警戒し、沢富警察庁長官を議長にテロ対策委員会を立ち上げた。また、全国の警察署にテロ対策プロジェクトを設置させた。

 福岡県警テロ対策プロジェクトメンバーに指名された伊達刑事と沢富刑事は、いつもの春吉橋近くの屋台でぼやき漫才をやっていた。「寒いときの熱燗は、最高だな~。でもな~、俺たちは、どうして、こんなについてないんだ。テロ対策に追いやられるとは。お前と組まされて、俺の出世が遠のいていくような気がする。貧乏神に取り付かれたというのか・・・」沢富刑事は、いつものぼやきが始まったと思い、うつむいてお湯割のグラスに口をつけた。

 

 伊達刑事は、いつものぼやきをつぶやいてしまったとほんの少し反省したのか、ポンと手をたたいてカラスの話題を持ち出した。「そう、ホワイトハウスのカラス、今では、世界的スターじゃないか。テロにカラスを使うとは、恐れ入った」沢富刑事もカラスの異常行動がまったく分からなかった。もし、テロだとすれば、何者かが電磁波を使ってカラスを呼び寄せているのではないかと思った。沢富刑事は、コンニャクを一口かじって、口をモグモグさせながら返事した。

 

 「まったく、不思議なカラスです。いったい、どうして、ホワイトハウスに群がったのですかね。いたずらにしては、大事件ですよ」テロと思っている伊達刑事は、グイッと熱燗の日本酒をのどに流し込み、叫んだ。「おい、あれを単なるいたずらと言うのか。あれは、間違いなくテロだ。きっと、民主党攻撃のテロに決まってる。戦争大好きの共和党の仕業だと俺はにらんでいる」

いつもの妄想が始まったと沢富刑事は思い、つぶやいた。「先輩、テロと決めつけるのは、勇み足になりませんかね。アメリカも日本も何か事件が起きるとテロだ、テロだ、と騒ぎますけど、偶然の出来事だってこともありますよ。あれだって、カラスの気まぐれかもしれませんよ。カラスのちょっとしたいたずらと考えてもいいんじゃないですか。ホワイトハウスがカラスのフンで臭くなったら、笑えるじゃないですか」

 

 あまりにも能天気な沢富刑事の話にゆで卵の黄身がのどにつかえ、ゴホ~、ゴホ~と大きなせきをした。「先輩、大丈夫ですか。ちょっと、冷えますからね」伊達刑事は、口に含んだお酒を喉にグイッと流し込み、卵の黄身を胃の中に流し込んだ。窒息死するかと冷や汗をかいた伊達刑事は、大きく深呼吸してあきれた顔で話しはじめた。「おい、お前は、どうしてそんなに気楽なんだ。今、アメリカは、テロ攻撃を食らってるんだぞ」

 

 沢富刑事は、タイショー、と声をかけてとグラスを差し出し、憮然とした顔で答えた。「あれがテロって言う証拠でもあるんですか?どんな方法でカラスを呼び寄せているって言うんですか?何かあるとテロって言いますが、ほとんどの場合、確かな証拠はないんですよ。マスコミは、事件を大きくして、金儲けしているだけじゃないですか。あんなのは、マスコミが仕組んだいたずらですよ。でも、カラスを呼び寄せる方法を知っている者がいるってことですよね」

 

 伊達刑事は、グラスを置くと大きくうなずいた。「そこなんだ。カラスは、気まぐれでホワイトハウスに群がっているんじゃない。誰かが、何らかの方法でカラスを呼び寄せているに違いない。いったいどうやって、呼び寄せているんだ。いたずらだとしても、カラスを呼び寄せるなんて、天才じゃないか?カラスと会話できるやつでもいるのか?」沢富刑事は、とぼけた顔でチクワを一口かじり、ムシャムシャと口を動かし、お湯割を一口含んだ。

 

 ほんの少し顔をしかめた沢富刑事は、伊達刑事の横顔に向かって返事した。「ちょっと思いついたことなんですが、カラスは電磁波に反応して集まっているんじゃないでしょうか?誰かが、遠隔操作で電磁波をホワイトハウスから発信しているんじゃないかと思うんです」伊達刑事は、さすが秀才は考えることが違う、と言う顔でうなずいた。ムウ~~~、と大きな唸り声を上げ、質問した。

 

 「おい、それは、本当か?カラスは、電磁波で誘導できるのか?どんな電磁波だ?」ちょっと困った顔をした沢富刑事は答えた。「いや、渡り鳥をヒントに、ちょっと思いついた方法です。鳥類学者じゃないので、カラスと電磁波の関係はまったく分かりませんよ」伊達刑事の頭の中に大金持ちになった自分が現れた。「なになに、そう言うことか。もし、電磁波でカラスを誘導できるならば、カラスを除去できると言うことだ。つまり、俺たちは、億万長者になれるってことじゃないか」

 

春日信彦
作家:春日信彦
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