ホワイトレディー

風来坊は、ドヤ顔になると胸を張って話し始めた。「猫も犬もカワイ~ものさ。誰しも、先入観を持ちがちだが、じっくり話し合えば、友達になれるものさ。君たち白いハトは、平和のシンボルだから、すぐに友達になれるさ。彼らは、すっごく、気持のいいやつばかりだ。いつでも、来るがいい。君たちのようなカワイ~友達は、大歓迎だ」平和のシンボルと言われたミーとケイは、パッと笑顔になり、カッチ、カッチとカワイ~音色を響かせながら、得意のタップダンスを踊った。

 

ケイは、友達を連れて、糸島に行ってみたくなった。「ね~、ミー、浦上天主堂の彼女たちも連れて、糸島に行ってみようか。風来坊の友達って、どんな方たちかしらね。興味津々ね」ミーは、笑顔でうなずいた。ケイは、ミーの同意を得たことで、気持が楽になり、さわやかな美声で風来坊に声をかけた。「ね~、さっきの糸島のことだけど。私たちの友達を連れて、行っていいかしら」

 

風来坊は、即座に笑顔で答えた。「いいとも、何羽でもいいさ。日帰りでも、泊まりでも、どんとこい。亜紀ちゃんは、とっても、友達思いなんだ。君たちがやってくるとわかれば、ご馳走してくれるはずだ。いつ、遊びに来る?」ミーとケイは、お互い見詰め合った。ミーは、早速、友達の都合を聞いて返事することにした。「急な話だから、友達と相談してみる。明日の朝には、返事できると思うから、明日、午前7時にここでまたお会いしましょう。風来坊さんは、今日は、泊まりでしょ」

長崎の友達のところに泊まることにしていた風来坊は、元気よく返事した。「そうさ、今夜は、大村湾を仕切っているキヨシって言う友達のところで厄介になることになっている。明朝、7時、この平和祈念像だな。分かった」ミーとケイは、ちょっとした糸島への小旅行を思い浮かべ、笑顔を作り、青空にパタパタと飛び立った。風来坊も二羽を見送ると、大村に向かってバサバサと飛び立った。

 

心遣い

 

 午前6時に大村を出発し、のんびりと風に揺られやってきた風来坊は、7時前には、平和祈念像の頭上に着陸した。首を大きく回転させ、両足のストレッチ運動をしていると、二羽の白いハトが青空をバックに南側から現れた。フワッと祈念像の左手の甲に舞い降りると、ケイは、黄色い声で風来坊に話しかけた。「おはよ~~、待った?」

 

 風来坊は、早速、糸島観光の返事を聞くことにした。「いや、今来たところさ、そう、糸島のことだけど、お友達はどうだった?」ミーとケイは、見詰め合って、同時に返事した。「OKよ、明日だったら、都合がいいんだって」風来坊は、笑顔で答えた。「そうか、明日だな。何時ごろ、糸島に到着しそうかな?」ミーは、即座に答えた。「長崎を8時ごろ出発するから、9時ごろには、到着すると思う。でも、糸島のどこに行けばいいの?」

 風来坊は、大きな声で返事した。「糸島の仲間に連絡しておくから、心配ない。君たちを見つけたら、仲間が案内するさ。気兼ねなく、来るといい。何羽でくるんだい?」ミーは、透き通る声で返事した。「5羽よ。全員、白いハトだから、ちゃんと見つけてね」風来坊は、うれしくなって、脳のてっぺんから甲高い裏声で答えた。「もちろんさ。すぐに見つけて、案内するから、安心するがいい」

 

 ミーとケイは、そろってうなずくと返事をした。「それじゃ、明日は、お願いね。糸島の友達にもよろしく言っておいてちょうだい。早速、天主堂の友達に伝えにいくわね。きっと喜ぶわ。そいじゃ、明日お会いしましょう」二羽は、パタパタパタパタと飛び立つと南の空に消えた。うれしくて心が弾んだ風来坊もブワッブワッと翼を力強く動かして、北の空に消えた。南風に乗った風来坊は、一時間もしないうちに糸島に到着した。

 

 風来坊は、平原歴史公園の上空をグルッと旋回し、ピースの姿を探したが、庭にも公園にもいなかった。家の中でテレビでも見ているのではないかと思い、しばらく、屋根の上で待つことにした。9時を過ぎたころピースがベランダに現れた。すぐさま、リビングから流れてくる軽快なリズムに合わせて、なにやら奇妙な全身運動をはじめた。風来坊は、世にも不思議なネコ・ダンスが終わるのを待って、明日、長崎から友達が来ることを伝えようと思ったが、いてもたってもいられなくなり、ベランダに向かって舞い降りた。

 庭のピンクのテーブルの横に舞い降りると、ハイテンポな音楽に負けないように大きな声でピースに話しかけた。「おはよ~、ピース。楽しそうじゃないか。ストレス発散に、阿波踊りでもやってるのか?」ピースは、音楽が終わるまで風来坊の声が聞こえていないふりをしてシェイプアップ・ダンスを踊り続けた。風来坊は、ピースを怒らせては、友達のことを話しづらくなると思い、しばらく、首を回したり、背筋を反らしたり丸めたり、足を震えさせたり、尻尾をぐるぐると振り回したり、とへんてこりんなネコ・ダンスをテーブルの下でじっと眺めた。

 

音楽が止まるとピースのダンスも即座に止まった。ダンスに満喫したようなピースは、最後に、大きく背筋をそらし、大きなあくびをすると、風来坊をギョロッとにらみつけた。「ちょっと、阿波踊りだなんて、失礼しちゃうわ。シェイプアップ・ダンスをやってるんじゃないの。猫は、日々、美容には気を配ってるのよ。あんた達とは、生まれながらに、美意識が違うの。あんたも、もう少しは、美に関心を持ちなさい。食っちゃね、食っちゃね、していると、そのうち、ブタカラスになるわよ」

 

ブタカラスと言われた風来坊は、痛いところを突かれ、グサっときたが、ここで、喧嘩を売っては、今までの友好関係が台無しになると思い、ぐっとこらえた。そして、大きく深呼吸し、冷静さを装い、ピースにやさしく話しはじめた。「ごもっとも、ピースさんのおっしゃ通り。最近、ちょっと太り気味だとは、思っていたところです。ピースさんを見習って、シャイプアップ・ダンスとやらをやってみますか」

春日信彦
作家:春日信彦
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