ホワイトレディー

今まで素直なことを言ったことがなかった風来坊の異変に、何か魂胆があるなと感じ取ったピースは、早速、風来坊の本音を探ることにした。「あら、今日は、しおらしいことを言うじゃない。私に、何かお願いでもあるの?」風来坊は、鋭いピースの直感に一瞬ひるんだが、にっこりと笑顔を作り、明日のことを話すことにした。「ピースさん、ちょっと、お話いいですか?」

 

ピースは、改まった口調の風来坊に面食らってしまった。こんなに丁重な態度を見たのは、初めてであった。「そんなに、かしこまらなくってもいいわよ。なによ、話って?」風来坊は、もう一度大きく深呼吸して話しはじめた。「いや、かしこまるほどのことではないんですが、長崎のお友達が、明日、糸島にやってくるんですよ。そのとき、ピースさん、スパイダー、亜紀ちゃんを紹介したいと思っているんだけど、ちょっと、時間をとってもらえないかな~」

 

長崎のお友達と聞いて、首をかしげた。お友達というのは、当然、カラスだと思ったが、念のために聞いてみた。「お友達って、カラスなの?」風来坊は、首を左右に振り、苦笑いをしながら答えた。「それが、カラスじゃなくて、とってもカワイ~白いハトなんだ。5羽でやってくるんだ。できれば、亜紀ちゃんが、ご馳走をしてくれるとうれしいんだけど。ピースさんから、亜紀ちゃんにお願いしてくれないだろうか?」

にやけた顔をした風来坊のお願いを聞いて、なんとなく察しがついた。おそらく、長崎までナンパに出かけ、カラスをナンパしようと思ったところ、白いものだからハトに気に入られ、調子に乗ってハトをナンパしたに違いない。「ヘ~、カワイ~白いハトね。カラスが、ハトをナンパするとは、初耳だわ。ハトもハトね、見る目を疑っちゃうわ」

 

風来坊は、顔をブルブルと左右に激しく振り、弁解した。「ナンパだなんて、とんでもない、単なるお友達さ。彼女たちは、ピースさん、スパイダー、亜紀ちゃんとお友達になりたいそうなんだ。明日の9時ごろには、糸島に到着すると思う。よろしく頼むよ」ピースは、疑いの眼差しで風来坊をチラッと見て、返事した。「ま、いいけど。そう、でも、明日は、水曜日でしょ。亜紀ちゃんは、学校よ。帰ってくるのは、夕方かな」

 

風来坊は、面食らってしまった。当てにしていたご馳走がふいになり、彼女たちになんと言って弁解すればいいか戸惑ってしまった。泣きそうな顔になった風来坊が気の毒になったのか、ピースが話を続けた。「そんなに、がっかりすることはないわ。亜紀ちゃんには、ハトのえさをご馳走してもらえるようにお願いするから。風来坊が好きなポップコーンとパンもお願いしてあげるから。そう、亜紀ちゃんが帰ってくるまで、糸島を案内してあげればいいじゃない」

突然げんきんになった風来坊は、ぴょんぴょんと跳ねて、お礼を言った。「ありがとう。やっぱ、ピースさんは、猫の中の猫ですね。恩にきります。亜紀ちゃんが、学校から帰ってくるまで、糸島の観光スポットを案内しますよ」ピースは、夕方、亜紀ちゃんが学校から帰ってきたら、明日、長崎からやってくる風来坊の友達のことを話すことにした。「遠路はるばる糸島まで遊びにやってくるんだもの。しっかり、おもてなし、しなくっちゃね。亜紀ちゃんも、きっと、風来坊の気持、分かってくれるわよ」

 

風来坊は、その言葉を聞いて、人生バラ色になったようで、翼を大きく広げ、パタパタとピースに感謝の思いを伝えた。「ピースさん、本当にありがとう。一生、恩にきるよ。そいじゃ」瞳を輝かせた風来坊は、ジャンプしながら舞い上がると、南の空に消えた。ピースは、早速、スパイダーに明日のことを話すことにした。スパイダーは、朝ごはんを食べて、アンナの大きなお尻について回っていた。

 

リビングに戻ったピースは、スパイダーに声をかけるタイミングを計っていた。アンナがトイレに入りドアをバタンと閉じると、スパイダーは、リビングのピースのもとにやってきた。ピースは、アンナがトイレから出てこない間に、スパイダーに明日の件を話すことにした。ワイパーのように尻尾を振りながらソファーに両手を伸ばして寝転んだスパイダーにそっと話しかけた。「スパイダー、ちょっと話があるの。ベランダに来てくれない」

スパイダーは、ピースのやさしい口調に首をかしげ、小さくうなずいた。ピースの後に続きスパイダーがベランダに下りると、ピースはお座りして話しはじめた。「さっきね、風来坊がやってきたのよ。何かと思ったら、明日、風来坊のお友達が長崎からやってくるんだって。そんでもって、私たちと亜紀ちゃんを紹介したいらしいのよ。だから、ちょっとだけ、付き合ってほしいの。いいかしら」

 

亜紀ちゃんのことだと思っていたスパイダーは、拍子抜けの話に、小さくうなずいた。「そんなことか。別に、いいけど。友達って、黒いカラスか?」ピースは、即座に答えた。「それが、びっくりしないでよ。なんと、カワイ~白いハトなのよ。どんな手を使って、ナンパしたのか知らないけれど、長崎からはるばるやってくるんだって。よろしくね。亜紀ちゃんには、学校から帰ってきたら、話すつもりだけど」

 

スパイダーは、生意気な風来坊のことを親友とは思っていなかったが、友達がやってきたときぐらいは、愛想よくしてやることにした。「あ~、カワイ~ハトが遠路はるばる長崎からやってくるんだろ。愛想よく、振舞うさ。何時ごろ来るんだ?」ピースは、分かってくれたスパイダーに笑顔を作り答えた。「朝、9時ごろにやってくるみたい。亜紀ちゃんは、いないから、夕方まで、糸島めぐりをするんだって」

春日信彦
作家:春日信彦
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