ホワイトレディー

にやけた顔をした風来坊のお願いを聞いて、なんとなく察しがついた。おそらく、長崎までナンパに出かけ、カラスをナンパしようと思ったところ、白いものだからハトに気に入られ、調子に乗ってハトをナンパしたに違いない。「ヘ~、カワイ~白いハトね。カラスが、ハトをナンパするとは、初耳だわ。ハトもハトね、見る目を疑っちゃうわ」

 

風来坊は、顔をブルブルと左右に激しく振り、弁解した。「ナンパだなんて、とんでもない、単なるお友達さ。彼女たちは、ピースさん、スパイダー、亜紀ちゃんとお友達になりたいそうなんだ。明日の9時ごろには、糸島に到着すると思う。よろしく頼むよ」ピースは、疑いの眼差しで風来坊をチラッと見て、返事した。「ま、いいけど。そう、でも、明日は、水曜日でしょ。亜紀ちゃんは、学校よ。帰ってくるのは、夕方かな」

 

風来坊は、面食らってしまった。当てにしていたご馳走がふいになり、彼女たちになんと言って弁解すればいいか戸惑ってしまった。泣きそうな顔になった風来坊が気の毒になったのか、ピースが話を続けた。「そんなに、がっかりすることはないわ。亜紀ちゃんには、ハトのえさをご馳走してもらえるようにお願いするから。風来坊が好きなポップコーンとパンもお願いしてあげるから。そう、亜紀ちゃんが帰ってくるまで、糸島を案内してあげればいいじゃない」

突然げんきんになった風来坊は、ぴょんぴょんと跳ねて、お礼を言った。「ありがとう。やっぱ、ピースさんは、猫の中の猫ですね。恩にきります。亜紀ちゃんが、学校から帰ってくるまで、糸島の観光スポットを案内しますよ」ピースは、夕方、亜紀ちゃんが学校から帰ってきたら、明日、長崎からやってくる風来坊の友達のことを話すことにした。「遠路はるばる糸島まで遊びにやってくるんだもの。しっかり、おもてなし、しなくっちゃね。亜紀ちゃんも、きっと、風来坊の気持、分かってくれるわよ」

 

風来坊は、その言葉を聞いて、人生バラ色になったようで、翼を大きく広げ、パタパタとピースに感謝の思いを伝えた。「ピースさん、本当にありがとう。一生、恩にきるよ。そいじゃ」瞳を輝かせた風来坊は、ジャンプしながら舞い上がると、南の空に消えた。ピースは、早速、スパイダーに明日のことを話すことにした。スパイダーは、朝ごはんを食べて、アンナの大きなお尻について回っていた。

 

リビングに戻ったピースは、スパイダーに声をかけるタイミングを計っていた。アンナがトイレに入りドアをバタンと閉じると、スパイダーは、リビングのピースのもとにやってきた。ピースは、アンナがトイレから出てこない間に、スパイダーに明日の件を話すことにした。ワイパーのように尻尾を振りながらソファーに両手を伸ばして寝転んだスパイダーにそっと話しかけた。「スパイダー、ちょっと話があるの。ベランダに来てくれない」

スパイダーは、ピースのやさしい口調に首をかしげ、小さくうなずいた。ピースの後に続きスパイダーがベランダに下りると、ピースはお座りして話しはじめた。「さっきね、風来坊がやってきたのよ。何かと思ったら、明日、風来坊のお友達が長崎からやってくるんだって。そんでもって、私たちと亜紀ちゃんを紹介したいらしいのよ。だから、ちょっとだけ、付き合ってほしいの。いいかしら」

 

亜紀ちゃんのことだと思っていたスパイダーは、拍子抜けの話に、小さくうなずいた。「そんなことか。別に、いいけど。友達って、黒いカラスか?」ピースは、即座に答えた。「それが、びっくりしないでよ。なんと、カワイ~白いハトなのよ。どんな手を使って、ナンパしたのか知らないけれど、長崎からはるばるやってくるんだって。よろしくね。亜紀ちゃんには、学校から帰ってきたら、話すつもりだけど」

 

スパイダーは、生意気な風来坊のことを親友とは思っていなかったが、友達がやってきたときぐらいは、愛想よくしてやることにした。「あ~、カワイ~ハトが遠路はるばる長崎からやってくるんだろ。愛想よく、振舞うさ。何時ごろ来るんだ?」ピースは、分かってくれたスパイダーに笑顔を作り答えた。「朝、9時ごろにやってくるみたい。亜紀ちゃんは、いないから、夕方まで、糸島めぐりをするんだって」

スパイダーにとっては、ハトとカラスがなにをしようと関係ないと思ったが、亜紀ちゃんが、遠路はるばるやってきたハトたちにご馳走を振舞うのではないかとふと思った。この際、犬へのご馳走をねだることにした。「亜紀ちゃんは、太っ腹だから、ハトやカラスにご馳走をふるまうだろうな~、できれば、僕たちにもご馳走してほしいよな~。ピースもそう思うだろ」

 

ピースは、ご馳走をねだるのは、猫としてはしたないと思えたが、スパイダーの機嫌を取るためにうなずいた。「そうね、亜紀ちゃんにお願いしてみようかな。期待して、待ってなさい」スパイダーの頭に、おいしそうな佐賀牛がふんわり浮かびあがると、うっかりよだれを流してしまった。あきれたピースは、ひげをピクピクさせていやみを言った。「スパイダー、勘違いしないでよ。あくまでも、長崎のお友達をもてなすんだからね。調子にのって、がっつくんじゃないわよ」

 

長い舌で黒い鼻をなめると、ちょっとうなずき返事した。「分かってるさ。そんなことぐらい。明日が、待ちどうしいな~」食い意地の張ったスパイダーにあきれたピースは、そっと立ち上がり、ゆっくりとやわらかい足取りで、お尻をフリフリしながら、リビングに戻った。スパイダーは、アンナを思い出したのか、ガシ、ガシ、と大きな足音を立てキッチンにかけて行った。

春日信彦
作家:春日信彦
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