ホワイトレディー

スパイダーは、ピースのやさしい口調に首をかしげ、小さくうなずいた。ピースの後に続きスパイダーがベランダに下りると、ピースはお座りして話しはじめた。「さっきね、風来坊がやってきたのよ。何かと思ったら、明日、風来坊のお友達が長崎からやってくるんだって。そんでもって、私たちと亜紀ちゃんを紹介したいらしいのよ。だから、ちょっとだけ、付き合ってほしいの。いいかしら」

 

亜紀ちゃんのことだと思っていたスパイダーは、拍子抜けの話に、小さくうなずいた。「そんなことか。別に、いいけど。友達って、黒いカラスか?」ピースは、即座に答えた。「それが、びっくりしないでよ。なんと、カワイ~白いハトなのよ。どんな手を使って、ナンパしたのか知らないけれど、長崎からはるばるやってくるんだって。よろしくね。亜紀ちゃんには、学校から帰ってきたら、話すつもりだけど」

 

スパイダーは、生意気な風来坊のことを親友とは思っていなかったが、友達がやってきたときぐらいは、愛想よくしてやることにした。「あ~、カワイ~ハトが遠路はるばる長崎からやってくるんだろ。愛想よく、振舞うさ。何時ごろ来るんだ?」ピースは、分かってくれたスパイダーに笑顔を作り答えた。「朝、9時ごろにやってくるみたい。亜紀ちゃんは、いないから、夕方まで、糸島めぐりをするんだって」

スパイダーにとっては、ハトとカラスがなにをしようと関係ないと思ったが、亜紀ちゃんが、遠路はるばるやってきたハトたちにご馳走を振舞うのではないかとふと思った。この際、犬へのご馳走をねだることにした。「亜紀ちゃんは、太っ腹だから、ハトやカラスにご馳走をふるまうだろうな~、できれば、僕たちにもご馳走してほしいよな~。ピースもそう思うだろ」

 

ピースは、ご馳走をねだるのは、猫としてはしたないと思えたが、スパイダーの機嫌を取るためにうなずいた。「そうね、亜紀ちゃんにお願いしてみようかな。期待して、待ってなさい」スパイダーの頭に、おいしそうな佐賀牛がふんわり浮かびあがると、うっかりよだれを流してしまった。あきれたピースは、ひげをピクピクさせていやみを言った。「スパイダー、勘違いしないでよ。あくまでも、長崎のお友達をもてなすんだからね。調子にのって、がっつくんじゃないわよ」

 

長い舌で黒い鼻をなめると、ちょっとうなずき返事した。「分かってるさ。そんなことぐらい。明日が、待ちどうしいな~」食い意地の張ったスパイダーにあきれたピースは、そっと立ち上がり、ゆっくりとやわらかい足取りで、お尻をフリフリしながら、リビングに戻った。スパイダーは、アンナを思い出したのか、ガシ、ガシ、と大きな足音を立てキッチンにかけて行った。

ウェルカム糸島

 

翌朝、5羽のホワイトレディーは、平和祈念像の左手甲の上に集合した。全員、平和祈念像にオハヨ~~、と挨拶した。ホワイトレディーとカラスが話していたのを盗み聞きしていた祈念像のマッチョは治安がますます悪くなっている人間社会のことを考え、ちょっとだけ忠告した。「気をつけて行ってらっしゃい。君たちに怪我でもされたら、祈念像の人気が落ちるんだから。ちょっとでも、危ないと思ったら、一目散に逃げるんだよ。最近、平和を嫌うテロリストが、白いハトを撃ち殺しているそうだから。人間を甘く見ちゃだめだ。人を見たら盗人と思え、って言うだろ。油断大敵だよ、分かったね」

 

ホワイトレディーは、大きな声で、ありがとう、と返事した。ミーは、祈念像に今回の糸島旅行について話した。「今度の旅は、白いカラスさんの招待で、糸島なの。地元のカラスさんたちが道案内してくれるそうだから、安心だわ。カワイ~猫や陽気な犬のお友達が、歓迎してくれるんだって。マッチョさんには、旅先での楽しかった出来事の話を手土産に持って帰ってくるから、キリンさんのように、首をなが~くして、待っててね」

 

マッチョもホワイトレディーたちと一緒に旅行したい気持でいっぱいだったが、カラ元気を出して返事した。「君たちが無事に帰ってくることを祈っているさ。僕は動けなくとも、ここからじっと君たちを見守っているから、安心して、遊んでくるがいい。風に乗れば、糸島なんて、あっという間に着くんじゃないか。グッドラック」ホワイトレディーのリーダーのミーは、いつものカワイ~チェックを始めた。「ケイ、ラン、スー、ミキ、みんなカワイ~かな?」

ホワイトレディーは、お互いの笑顔を確認すると大声でカワイ~と叫んだ。いってきま~す、と叫ぶとパタパタと翼を響かせ大空へ舞いあがった。マッチョは、笑顔を作り、キョロキョロと周りを見回した。誰も見ていないのを確認したマッチョは、右手を左右に大きく振った。ホワイトレディーは、大村(おおむら)、嬉野(うれしの)、武雄(たけお)の緑の山々を眺めながら、南風に乗り、北東に突き進んだ。彼女たちは、ペチャクチャおしゃべりしていると、あっという間に糸島二丈の上空まで流されていた。先頭で飛んでいたミーは急ブレーキをかけて、あたりを見渡した。

 

ミーは、キョロキョロとあたりを見渡していると東の空に小さな黒い物体を発見した。小さな黒点は、次第に大きくなりカーカーと歓迎の声を発した。ホワイトレディーに近づいたカラスは、歓迎の挨拶をした。「こんにちは。長崎からのお友達でいらっしゃいますね。お待ちしていました。ご案内いたします。さあ、参りましょう」ホワイトレディーは、この黒いカラスは、白いカラスの仲間だと思い、後をついて行くことにした。

 

ミーは、どこまで行くのか尋ねた。「どこまで、行くのですか?そこに白いカラスさんがいらっしゃるのですか?」カラスは、軽やかな声で返事した。「平原歴史公園です。すぐそこです。そこで、ピース、スパイダー、ボスがお待ちしています」その言葉を聞いたホワイトレディーは、ほっとしたのか、翼が軽やかになり、疲れも一瞬にして吹っ飛んだ。カラスを先頭に、その後ろにミーとケイ、さらにその後ろにラン、スー、ミキがきれいな正三角形を形作り、青空をバックにした空飛ぶ三角形は、追い風に乗り目的地に向かった。

春日信彦
作家:春日信彦
ホワイトレディー
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