ホワイトレディー

ホワイトレディーは、お互いの笑顔を確認すると大声でカワイ~と叫んだ。いってきま~す、と叫ぶとパタパタと翼を響かせ大空へ舞いあがった。マッチョは、笑顔を作り、キョロキョロと周りを見回した。誰も見ていないのを確認したマッチョは、右手を左右に大きく振った。ホワイトレディーは、大村(おおむら)、嬉野(うれしの)、武雄(たけお)の緑の山々を眺めながら、南風に乗り、北東に突き進んだ。彼女たちは、ペチャクチャおしゃべりしていると、あっという間に糸島二丈の上空まで流されていた。先頭で飛んでいたミーは急ブレーキをかけて、あたりを見渡した。

 

ミーは、キョロキョロとあたりを見渡していると東の空に小さな黒い物体を発見した。小さな黒点は、次第に大きくなりカーカーと歓迎の声を発した。ホワイトレディーに近づいたカラスは、歓迎の挨拶をした。「こんにちは。長崎からのお友達でいらっしゃいますね。お待ちしていました。ご案内いたします。さあ、参りましょう」ホワイトレディーは、この黒いカラスは、白いカラスの仲間だと思い、後をついて行くことにした。

 

ミーは、どこまで行くのか尋ねた。「どこまで、行くのですか?そこに白いカラスさんがいらっしゃるのですか?」カラスは、軽やかな声で返事した。「平原歴史公園です。すぐそこです。そこで、ピース、スパイダー、ボスがお待ちしています」その言葉を聞いたホワイトレディーは、ほっとしたのか、翼が軽やかになり、疲れも一瞬にして吹っ飛んだ。カラスを先頭に、その後ろにミーとケイ、さらにその後ろにラン、スー、ミキがきれいな正三角形を形作り、青空をバックにした空飛ぶ三角形は、追い風に乗り目的地に向かった。

二丈から前原に入り、小さなため池の南側にコスモスに彩られた平原歴史公園が現れた。その公園のブルーのベンチの前でお座りしているスパイダーとベンチの座席の上でお座りしているピースが、到着はまだかまだか、と心待ちにして青空を見上げていた。ベンチの横には、威風堂々としたヤマモモの木がどっしりと構えていた。そのヤマモモの木の枝がほんの少し揺れると、白いハトを発見した風来坊が、緑の葉っぱの中から勢いよく飛び出した。風来坊は、青空に向かって急上昇すると、カラスとハトの三角形を迎えに行った。

 

ミーは、即座に白いカラスと察知し、ラン、スー、ミキに伝えた。「お友達の風来坊さんよ」三羽は、近づいてくるハトのような白いカラスをじっと目を凝らして見つめた。風来坊は、仲間のカラスにご苦労、と言い放って、ホワイトレディーに挨拶した。「お待ちしていました。遠路はるばる、お疲れでしょう。すぐそこの公園でまでどうぞ」風来坊は、ピースとスパイダーが待っている公園めがけてゆっくり降下した。

 

二羽のカラスとホワイトレディーは、ベンチの前にフワッと着陸した。スパイダーは、カラスとホワイトレディーを目の当たりにして、小さな声でワンと挨拶した。早速、風来坊は、仲間を紹介することにした。「こちらが、いつも相談に乗ってくださっているピースさん、こちらは、用心棒のスパイダー君。残念ながら、僕たちをかわいがってくれている亜紀ちゃんは、学校だ。夕方には、帰ってくるから、楽しみに待っていてくれ」

 

ピースは、小さな笑顔を作り、挨拶した。「ようこそ、糸島にいらっしゃいました。ゆっくり、糸島めぐりを楽しんでください」早朝出立したホワイトレディーは、おなかがすいていた。ミーが、風来坊に声をかけた。「私たち、朝は、少ししか食べてこなかったのです。少しでいいですから、何か、食べさせていただけませんか?」朝食のことをすっかり忘れていた風来坊は、首をかしげ、つぶやいた。「そうですか?」

 

そのことを心得ていたピースは、すでに亜紀に相談していた。「ご心配なく。亜紀ちゃんからの差し入れです」ヤマモモの木の下にポップコーンとポテトチップスが入った袋がおいてあった。それは、今朝、亜紀が学校に行く前に準備しておいたものだった。ピースは、小さな口で袋の口をくわえ、ホワイトレディーの前に運んできた。「どうぞ、少しですが、食べてください」ホワイトレディーは、大好物のポップコーンに目を丸くしてクック、クック、と歓喜の声を発した。

 

ミーは、袋の底の端をくちばしで挟み、顔を左右に振った。袋の中から勢いよくポップコーンとポテトチップスが飛び出してきた。ホワイトレディーは、いっせいに頭を前後に動かし、えさを食べ始めた。カラスたちは、勢いよく食べるホワイトレディーの姿を見て、早朝に出発したために朝食抜きでやってきたのではないかと思った。ホワイトレディーは、えさを食べ終えると、満足そうな笑顔を作り、ケイが、お礼を言った。「ありがとう。とてもおいしかったわ」

ピースは、遠路はるばる長崎からやってきたホワイトレディーのガイドをしてやりたかったが、空を飛べる二羽のカラスにガイドをお願いすることにした。「ハトさんたち、少しお疲れでしょう。ここで、少し休憩なされて、カラスさんたちのガイドで、糸島巡りをなさってください。亜紀ちゃんは、夕方には帰ってきますので、そのときに、歓迎パーティーをやりたいと思っています。楽しみにしていてください。そう、今日は、亜紀ちゃんのおうちに泊まっていかれてはどうでしょう?」

 

ホワイトレディーは、お互い顔を見合わせてうなずいた。ミーが、代表で返事した。「それは、うれしいわ。ワイワイ、ガールズトークに花を咲かせましょう。よろしくお願いします」風来坊は、どこを案内しようか考えていた。きれいな海を見せたくなり、夫婦岩(めおといわ)のある“桜井二見ヶ浦(さくらいふたみがうら)”、日本三大玄武洞の中でも最大の“芥屋の大門(けやのおおと)”、野村望東尼(のむらぼうとうに)遺跡のある“姫島(ひめしま)”を案内することに決めた。

 

風来坊は、糸島巡りの前に平原遺跡(ひらばるいせき)の説明をすることにした。「皆さん、この公園には、平原遺跡があります。この遺跡は、日本最大の銅鏡をはじめ、豪華な副葬品が出土したことから王墓といわれています。しかも、アクセサリー類の多くが副葬されていたため、被葬者は女性ではないかと推測されています。つまり、糸島は、女帝が君臨していた伊都国と言えます。現に、卑弥呼女王が、糸島の女帝なのです。そうですね、ピース様」

春日信彦
作家:春日信彦
ホワイトレディー
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