ホワイトレディー

ピースは、遠路はるばる長崎からやってきたホワイトレディーのガイドをしてやりたかったが、空を飛べる二羽のカラスにガイドをお願いすることにした。「ハトさんたち、少しお疲れでしょう。ここで、少し休憩なされて、カラスさんたちのガイドで、糸島巡りをなさってください。亜紀ちゃんは、夕方には帰ってきますので、そのときに、歓迎パーティーをやりたいと思っています。楽しみにしていてください。そう、今日は、亜紀ちゃんのおうちに泊まっていかれてはどうでしょう?」

 

ホワイトレディーは、お互い顔を見合わせてうなずいた。ミーが、代表で返事した。「それは、うれしいわ。ワイワイ、ガールズトークに花を咲かせましょう。よろしくお願いします」風来坊は、どこを案内しようか考えていた。きれいな海を見せたくなり、夫婦岩(めおといわ)のある“桜井二見ヶ浦(さくらいふたみがうら)”、日本三大玄武洞の中でも最大の“芥屋の大門(けやのおおと)”、野村望東尼(のむらぼうとうに)遺跡のある“姫島(ひめしま)”を案内することに決めた。

 

風来坊は、糸島巡りの前に平原遺跡(ひらばるいせき)の説明をすることにした。「皆さん、この公園には、平原遺跡があります。この遺跡は、日本最大の銅鏡をはじめ、豪華な副葬品が出土したことから王墓といわれています。しかも、アクセサリー類の多くが副葬されていたため、被葬者は女性ではないかと推測されています。つまり、糸島は、女帝が君臨していた伊都国と言えます。現に、卑弥呼女王が、糸島の女帝なのです。そうですね、ピース様」

ピースは、大きくうなずいた。「はい、伊都国は、弥生時代から女帝の国なのです。当然、女帝は、黒猫の卑弥呼女王様です。共生できない人間は、多くの争いを経て、現在の下品な社会を築き上げてきましたが、猫は、卑弥呼女王を中心に、共生の社会を築き上げてきました。今後、猫の共生文化は、次第に人間社会にも浸透していくことでしょう」ホワイトレディーは、猫の話になり、何のことやら分からなくなり、首を傾げてしまった。

 

目じりを下げ、きょとんとしているホワイトレディーを見た風来坊は、話をつなげた。「不思議に思われたでしょう。一般的に、伊都国には人間の女帝が実在したと言われています。確かに、人間が使ったものと思われる埋葬品が多く出土しています。でも、人間以上に高度な文化を築き上げてきたのは、猫様なのです。また、古代からカラスは、猫様にお使えしてまいりました。猫様の歴史と文化は、人間社会では、いまだ、研究されていません。今後、猫様の歴史が研究されたならば、日本の歴史は、大きく変わることでしょう」

 

歴史が得意でないホワイトレディーは、ますます、頭が混乱した。あまりにも難しい猫の話に困惑したミーは、ハトの立場の意見を述べた。「私たちハトは、歴史や政治経済が、苦手なのです。得意な科目は、音楽と地理です。難しい話は、猫様とカラスさんに任せます。ところで、子供の亜紀ちゃんは、学校に行かれているそうですが、そこで、何をしているのですか?」

亜紀ちゃんのことを聞かれ、ピースは耳をピンと立てた。「亜紀ちゃんは、すっごく勉強熱心なんです。どんな勉強をしているかはよくわからないのですが、とにかくみんなから、天才と言われるほど、頭がいいのです。きっと、平和な社会を作るための勉強だと思います」風来坊は、ハトの声を真似て、クック、クック、と笑った。「それは違うな~。ピースさん、人間の本性を知りませんな。戦争に勝つための勉強ですよ」

 

ピースは、初めて知らされた亜紀ちゃんの本性に、腰を抜かしてしまった。「え、亜紀ちゃんが、戦争に勝つための勉強をしているのですか?てっきり、戦争のない平和な社会を作るための勉強と思っていました。その話は、マジなのですか?」風来坊は、ドヤ顔で話しはじめた。「マジさ。人間と言うものは、戦争がすきなんだ。だから、世界中のどこかで、戦争している。人間社会では、戦争の勉強が、義務教育なんだ」

 

ホワイトレディーは、またもや、難しい話に、首を傾げてしまった。積極的なミーは、質問した。「戦争って、原爆を落とすことですか?長崎では、多くの人が原爆で亡くなりました。このような残虐なことをするための勉強ですか?いったい、何のためにそんな勉強をするのですか?殺しあって、どんな幸せが、やってくるんですか?」風来坊は、不気味な笑みを浮かべ答えた。「決まってるじゃないか。お金儲けのためさ」

ホワイトレディーは、お金のことを言われてもさっぱりわからなかった。なにがなんだかチンプンカプンで頭が混乱してしまったランが、質問した。「お金って、何ですか?人間社会では、お金があると幸せになるのですか?ハトの社会では、お金はありませんが、お互い思いやって、幸せに暮らしています」風来坊は、平和のシンボルであるホワイトレディーには、下品な人間社会のカラクリは、まったく理解できないと思った。これ以上の難しい話は、ホワイトレディーにとって、馬の耳に念仏、と判断した。

 

ピースは、ホワイトレディーのしかめっ面を見ていると気の毒になった。「皆さん、下品な人間の話は、この辺で切り上げて、糸島めぐりを楽しんでください。風来坊とケイスケが、案内しますので、ごゆっくり楽しんできてください。カラスさん、案内は、任せましたよ」ホワイトレディーは、糸島観光は、初めてで、しかも、イケメンのケイスケに案内してもらうことになり、翼をパタパタさせて喜びを表した。

 

風来坊は、自分がハトたちに好かれたと勘違いし、有頂天になってカーカーと歓声を上げた。「任せてください。ご案内するスポットは、夫婦岩、芥屋の大門、姫島です。私の後についてきてください。ケイスケは、ボディーガードだ。皆さんの後ろからついて来い。危険を察したら、即座に、知らせるんだぞ、いいな」ケイスケは、きりっと背筋を伸ばし、ドヤ顔で答えた。「ガッテンです。親分」

春日信彦
作家:春日信彦
ホワイトレディー
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