ホワイトレディー

風来坊は、ホワイトレディーの顔色を確認し、出発の号令をかけた。「それでは、参りましょう。レッツ・ゴー」いっせいに、二羽のカラスとホワイトレディーが飛び立つと、スパイダーとピースは、行ってらっしゃい、と大きな声で見送った。風来坊は、真北に向かって、みんなを引率した。九州大学伊都キャンパスを越えると二つの岩が仲良く並んだ夫婦岩に到着した。スーが、何かを発見したときの歓喜の声を発した。「見て、大きな綱が岩と岩をつないでいるわ」

 

風来坊は、スピードを落とし、みんなに説明した。「あの大きな綱は、長さ30メートル、重さ1トンもある大注連縄(おおしめなわ)です。ここで見られる夕日は、“日本の夕日100選“に選ばれています。今は、夕日は見られんが、きれいな海に夕日が映り、涙が出るほどの絶景だ」ホワイトレディーは、目をキョロキョロさせ、透き通ったエメラルドグリーンの海に見入っていた。

 

カラスとホワイトレディーは、低空飛行でサンセットロードを駆け抜けると、東風に乗って、芥屋の大門に向かった。ランは、ケイスケが気になっていた。ケイスケは、ラン好みのイケメンだった。「スー、ケイスケって、イケメンじゃない。彼女いるのかしら?」スーは、あきれた顔で返事した。「ケイスケは、カラスじゃないの。ハトの恋愛相手じゃないでしょ。ランたら、なに考えてるのよ」

その会話を聞いていたミキが口を挟んだ。「まったく、ランったら、いつもの一目ぼれね。カラスとの恋は、禁断の恋なのよ。いい加減にしなさいよ」ランは、いったん好きになると誰の忠告も耳に入らなかった。「なによ、いいたいほうだい言って、恋愛に、ハトもカラスもないわよ。ケイスケは、私のことどう思っているかしら?」スーは、この際、ケイスケの気持を聞いてみることにした。

 

「スーが、ケイスケの気持を確かめてあげる。もし、ケイスケにその気がなければあきらめるのよ」ランは、しぶしぶ、スーに確かめてもらうことにした。「それじゃ、ぶしつけに聞かないでよ。今日始めて会ったんだから。ケイスケも返事しにくいと思うから。やさしく聞いてね」スーは、最後尾のケイスケのもとに飛んでいった。

 

突然やってきたハトにびっくりしたケイスケは、誰か具合でも悪くなったのではないかと心配して、声をかけた。「どうかなされました?」スーは、気まずそうに返事した。「いや、たいしたことじゃないの。ちょっと、ケイスケ君に聞きたいことがあって。素直に答えてね。私たち、白いハトって、好き、それとも嫌い」ケイスケは、突然の思いもかけない質問に言葉が出なかった。

目を丸くしたケイスケを見て、スーは、改めて尋ねた。「深刻に考えなくていいのよ。率直に、白いハトが好きか、嫌いか、答えてくれればいいの」ケイスケは、嫌いじゃなかったので、素直に答えた。「好きです。白いハトは、平和のシンボルじゃないですか。だから、白いハトは、大好きです」ケイスケは、笑顔でうなずいた。スーは、ホワイトレディーの中で誰が一番好きか聞くことにした。「それじゃ、私たちの中で、一番好きなハトは?」

 

ケイスケは、ぽっちゃり系のスーが好きだったので、別に問題はないと思い、即座に答えた。「ちょっと、恥ずかしいな~。思い切って言います。スーさんです」スーは、どぎまぎしてしまった。自分が好きだと言われては、ランになんと言って返事すればいいのか、頭が混乱してしまった。目を丸くしているスーを見て、ケイスケは話を続けた。「スーさんが、一番好きですが、ほかのハトも大好きです。白いハトにあこがれているんです。生まれ変わったら、白いハトになりたいと思っています」

 

スーは、白いハトが好きなのであって、ただそれだけのことだと分かった。「要は、白いハトは、平和のシンボルだから好きってことね」ケイスケは、大きくうなずいた。「はい、平和のシンボルにあこがれているんです。黒いカラスは、人間に嫌われていますからね。白に、あこがれているんですよ」ケイスケは、ホワイトレディーが好きだと言っているわけだから、ランも好かれていることになる。それかといって、ケイスケに好かれていると言ったならば、ますます、のぼせ上がってしまうように思えた。

ランの左隣に戻ったスーは、気持を傷つけないように言葉に気を使いながら話した。「聞いてきたわよ。ケイスケ君、白いハトが好きだって」ランは、その言葉を聞いて目を輝かせた。「と言うことは、脈ありってことね。あ~、夢が膨らむわ。ゴールイン目指して、頑張らなくっちゃ」スーは、予想していた通り、ランは、勘違いしていると思った。「ね~、ラン、ケイスケ君は、特別、誰かを好きって言うのじゃなくて、平和のシンボルの白いハトが好きって言ってるの。恋愛感情じゃないのよ」

 

ランは、なにを言っているの、と言う顔でスーをにらみつけた。「そんなことぐらい、分かっているわよ。最初から、恋愛感情なんか生まれないわよ。小さな思いやりが、次第に、愛に変わっていくんじゃない。ランは、ケイスケ君に尽くすわ。きっと、ケイスケ君も私のことを好きになってくれると思う」このままでは、ランが禁断の恋に陥ってしまうようで、スーは不安になった。

 

「恋愛は、自由だと思う。でも、私たちは、ハトなのよ。しかも、平和のシンボルの白いハトよ。黒いカラスのケイスケ君とめでたく結婚できて、子供が生まれたとき、黒いハトが生まれたら、どうするつもり?黒い子供は、平和のシンボルにはなれないわよ」黒いハトと聞いたランは、一瞬、固まってしまった。黒いハトを頭に浮かべたとき、翼が動かなくなった。「大丈夫、ラン、しっかりして」スーは、落下しそうになったランを背中に乗せた。

 

春日信彦
作家:春日信彦
ホワイトレディー
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