ホワイトレディー

目を丸くしたケイスケを見て、スーは、改めて尋ねた。「深刻に考えなくていいのよ。率直に、白いハトが好きか、嫌いか、答えてくれればいいの」ケイスケは、嫌いじゃなかったので、素直に答えた。「好きです。白いハトは、平和のシンボルじゃないですか。だから、白いハトは、大好きです」ケイスケは、笑顔でうなずいた。スーは、ホワイトレディーの中で誰が一番好きか聞くことにした。「それじゃ、私たちの中で、一番好きなハトは?」

 

ケイスケは、ぽっちゃり系のスーが好きだったので、別に問題はないと思い、即座に答えた。「ちょっと、恥ずかしいな~。思い切って言います。スーさんです」スーは、どぎまぎしてしまった。自分が好きだと言われては、ランになんと言って返事すればいいのか、頭が混乱してしまった。目を丸くしているスーを見て、ケイスケは話を続けた。「スーさんが、一番好きですが、ほかのハトも大好きです。白いハトにあこがれているんです。生まれ変わったら、白いハトになりたいと思っています」

 

スーは、白いハトが好きなのであって、ただそれだけのことだと分かった。「要は、白いハトは、平和のシンボルだから好きってことね」ケイスケは、大きくうなずいた。「はい、平和のシンボルにあこがれているんです。黒いカラスは、人間に嫌われていますからね。白に、あこがれているんですよ」ケイスケは、ホワイトレディーが好きだと言っているわけだから、ランも好かれていることになる。それかといって、ケイスケに好かれていると言ったならば、ますます、のぼせ上がってしまうように思えた。

ランの左隣に戻ったスーは、気持を傷つけないように言葉に気を使いながら話した。「聞いてきたわよ。ケイスケ君、白いハトが好きだって」ランは、その言葉を聞いて目を輝かせた。「と言うことは、脈ありってことね。あ~、夢が膨らむわ。ゴールイン目指して、頑張らなくっちゃ」スーは、予想していた通り、ランは、勘違いしていると思った。「ね~、ラン、ケイスケ君は、特別、誰かを好きって言うのじゃなくて、平和のシンボルの白いハトが好きって言ってるの。恋愛感情じゃないのよ」

 

ランは、なにを言っているの、と言う顔でスーをにらみつけた。「そんなことぐらい、分かっているわよ。最初から、恋愛感情なんか生まれないわよ。小さな思いやりが、次第に、愛に変わっていくんじゃない。ランは、ケイスケ君に尽くすわ。きっと、ケイスケ君も私のことを好きになってくれると思う」このままでは、ランが禁断の恋に陥ってしまうようで、スーは不安になった。

 

「恋愛は、自由だと思う。でも、私たちは、ハトなのよ。しかも、平和のシンボルの白いハトよ。黒いカラスのケイスケ君とめでたく結婚できて、子供が生まれたとき、黒いハトが生まれたら、どうするつもり?黒い子供は、平和のシンボルにはなれないわよ」黒いハトと聞いたランは、一瞬、固まってしまった。黒いハトを頭に浮かべたとき、翼が動かなくなった。「大丈夫、ラン、しっかりして」スーは、落下しそうになったランを背中に乗せた。

 

突然、風来坊の大きな声が響き渡った。「さ~、ついたぞ。芥屋の大門だ。お、遊覧船が走っているぞ。芥屋の大門は、日本三大玄武洞の中でも最大なんだ。実に壮大だ。あの、洞窟は、高さ64メートル、開口10メートル、奥行き90メートルもあるんだ。洞窟の中も見てみるかい?」突然、ミキの悲鳴が響いた。「キャ~、怖いわ。真っ暗なんでしょ。閉所恐怖症なの。私は、遠慮するわ」

 

ランの声が後に続いた。「私も、怖いわ。コウモリがいたらどうするの。嫌だわ。私も遠慮するわ」そのおびえた声を聞いた風来坊は、洞窟内の見学は、取りやめにすることにした。「分かりました。それでは、姫島に向かいます。そこで、しばらく休憩しましょう。後、もう少しです。あ、東風が強くなった。この風に乗って、一気に前進だ」ホワイトレディーは、安心し、笑顔を取り戻した。

 

 ケイスケは、遊覧船の観光客が手を振っているのを発見した。「皆さん、あの小さな遊覧船を見てください。ほら、窓から手を振っています。きっと、白いハトに手を振っているんですよ」みんなは、眼下の遊覧船に目をやった。ケイが、うれしそうに叫んだ。「やっぱ、私たちって、人気者なのね。みんな、大きな円を描いて、観光客に挨拶しましょうよ。風来坊さん、大きな円を描いてちょうだい」

 数学が得意な風来坊は、瞬時に円をイメージした。風来坊は、大きな声でケイスケに叫んだ。「そこにじっとしていろ。ケイスケを中心に半径50メートルの円を描く」ケイスケがうなずき、その場で羽ばたくと、風来坊は、スピードを上げて、大きな円を描き始めた。ホワイトレディーも一列になって、風来坊の後について大きな円を描いた。眼下の遊覧船の観光客は、拍手とともに、いっせいに歓声を上げた。

 

グルッと円を二周描き、ケイスケが、カーカーとさようならと言うと、ハトたちもクック、クック、とかわいい声を上げた。しばらく風に流されると、眼下に白い線を引きながら走る小型渡航船が、目に飛び込んできた。その渡航船は、岐志漁港を出発し、姫島漁港に向かう船だった。真っ白い線を引く高速船に負けまいと風来坊は、スピードを上げた。ホワイトレディーも、気持ちよくスピードを上げた。渡航船と同時に到着すると姫島の西側の堤防に着陸した。

 

少し疲れたホワイトレディーだったが、パシャ~ン、パシャ~ンと打ち寄せる静かな波音に耳を傾け、心を和らげた。目を閉じて、堤防で翼を休めていると、ニャ~~ン、ニャ~ンと言うかわいい声が響いてきた。ミーが、声を発した。「ほら、見て、あんなところに子猫。ここにも、あそこにも、猫がいるわ。この島って、猫島なのかしら?」カラスもハトたちも、いっせいに、大きく目を見開き、堤防の下を覗き込んだ。そこには、20匹以上の猫が、楽しそうに戯れていた。

春日信彦
作家:春日信彦
ホワイトレディー
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