ホワイトレディー

ピースは、大きくうなずいた。「はい、伊都国は、弥生時代から女帝の国なのです。当然、女帝は、黒猫の卑弥呼女王様です。共生できない人間は、多くの争いを経て、現在の下品な社会を築き上げてきましたが、猫は、卑弥呼女王を中心に、共生の社会を築き上げてきました。今後、猫の共生文化は、次第に人間社会にも浸透していくことでしょう」ホワイトレディーは、猫の話になり、何のことやら分からなくなり、首を傾げてしまった。

 

目じりを下げ、きょとんとしているホワイトレディーを見た風来坊は、話をつなげた。「不思議に思われたでしょう。一般的に、伊都国には人間の女帝が実在したと言われています。確かに、人間が使ったものと思われる埋葬品が多く出土しています。でも、人間以上に高度な文化を築き上げてきたのは、猫様なのです。また、古代からカラスは、猫様にお使えしてまいりました。猫様の歴史と文化は、人間社会では、いまだ、研究されていません。今後、猫様の歴史が研究されたならば、日本の歴史は、大きく変わることでしょう」

 

歴史が得意でないホワイトレディーは、ますます、頭が混乱した。あまりにも難しい猫の話に困惑したミーは、ハトの立場の意見を述べた。「私たちハトは、歴史や政治経済が、苦手なのです。得意な科目は、音楽と地理です。難しい話は、猫様とカラスさんに任せます。ところで、子供の亜紀ちゃんは、学校に行かれているそうですが、そこで、何をしているのですか?」

亜紀ちゃんのことを聞かれ、ピースは耳をピンと立てた。「亜紀ちゃんは、すっごく勉強熱心なんです。どんな勉強をしているかはよくわからないのですが、とにかくみんなから、天才と言われるほど、頭がいいのです。きっと、平和な社会を作るための勉強だと思います」風来坊は、ハトの声を真似て、クック、クック、と笑った。「それは違うな~。ピースさん、人間の本性を知りませんな。戦争に勝つための勉強ですよ」

 

ピースは、初めて知らされた亜紀ちゃんの本性に、腰を抜かしてしまった。「え、亜紀ちゃんが、戦争に勝つための勉強をしているのですか?てっきり、戦争のない平和な社会を作るための勉強と思っていました。その話は、マジなのですか?」風来坊は、ドヤ顔で話しはじめた。「マジさ。人間と言うものは、戦争がすきなんだ。だから、世界中のどこかで、戦争している。人間社会では、戦争の勉強が、義務教育なんだ」

 

ホワイトレディーは、またもや、難しい話に、首を傾げてしまった。積極的なミーは、質問した。「戦争って、原爆を落とすことですか?長崎では、多くの人が原爆で亡くなりました。このような残虐なことをするための勉強ですか?いったい、何のためにそんな勉強をするのですか?殺しあって、どんな幸せが、やってくるんですか?」風来坊は、不気味な笑みを浮かべ答えた。「決まってるじゃないか。お金儲けのためさ」

ホワイトレディーは、お金のことを言われてもさっぱりわからなかった。なにがなんだかチンプンカプンで頭が混乱してしまったランが、質問した。「お金って、何ですか?人間社会では、お金があると幸せになるのですか?ハトの社会では、お金はありませんが、お互い思いやって、幸せに暮らしています」風来坊は、平和のシンボルであるホワイトレディーには、下品な人間社会のカラクリは、まったく理解できないと思った。これ以上の難しい話は、ホワイトレディーにとって、馬の耳に念仏、と判断した。

 

ピースは、ホワイトレディーのしかめっ面を見ていると気の毒になった。「皆さん、下品な人間の話は、この辺で切り上げて、糸島めぐりを楽しんでください。風来坊とケイスケが、案内しますので、ごゆっくり楽しんできてください。カラスさん、案内は、任せましたよ」ホワイトレディーは、糸島観光は、初めてで、しかも、イケメンのケイスケに案内してもらうことになり、翼をパタパタさせて喜びを表した。

 

風来坊は、自分がハトたちに好かれたと勘違いし、有頂天になってカーカーと歓声を上げた。「任せてください。ご案内するスポットは、夫婦岩、芥屋の大門、姫島です。私の後についてきてください。ケイスケは、ボディーガードだ。皆さんの後ろからついて来い。危険を察したら、即座に、知らせるんだぞ、いいな」ケイスケは、きりっと背筋を伸ばし、ドヤ顔で答えた。「ガッテンです。親分」

風来坊は、ホワイトレディーの顔色を確認し、出発の号令をかけた。「それでは、参りましょう。レッツ・ゴー」いっせいに、二羽のカラスとホワイトレディーが飛び立つと、スパイダーとピースは、行ってらっしゃい、と大きな声で見送った。風来坊は、真北に向かって、みんなを引率した。九州大学伊都キャンパスを越えると二つの岩が仲良く並んだ夫婦岩に到着した。スーが、何かを発見したときの歓喜の声を発した。「見て、大きな綱が岩と岩をつないでいるわ」

 

風来坊は、スピードを落とし、みんなに説明した。「あの大きな綱は、長さ30メートル、重さ1トンもある大注連縄(おおしめなわ)です。ここで見られる夕日は、“日本の夕日100選“に選ばれています。今は、夕日は見られんが、きれいな海に夕日が映り、涙が出るほどの絶景だ」ホワイトレディーは、目をキョロキョロさせ、透き通ったエメラルドグリーンの海に見入っていた。

 

カラスとホワイトレディーは、低空飛行でサンセットロードを駆け抜けると、東風に乗って、芥屋の大門に向かった。ランは、ケイスケが気になっていた。ケイスケは、ラン好みのイケメンだった。「スー、ケイスケって、イケメンじゃない。彼女いるのかしら?」スーは、あきれた顔で返事した。「ケイスケは、カラスじゃないの。ハトの恋愛相手じゃないでしょ。ランたら、なに考えてるのよ」

春日信彦
作家:春日信彦
ホワイトレディー
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