ホワイトレディー

二丈から前原に入り、小さなため池の南側にコスモスに彩られた平原歴史公園が現れた。その公園のブルーのベンチの前でお座りしているスパイダーとベンチの座席の上でお座りしているピースが、到着はまだかまだか、と心待ちにして青空を見上げていた。ベンチの横には、威風堂々としたヤマモモの木がどっしりと構えていた。そのヤマモモの木の枝がほんの少し揺れると、白いハトを発見した風来坊が、緑の葉っぱの中から勢いよく飛び出した。風来坊は、青空に向かって急上昇すると、カラスとハトの三角形を迎えに行った。

 

ミーは、即座に白いカラスと察知し、ラン、スー、ミキに伝えた。「お友達の風来坊さんよ」三羽は、近づいてくるハトのような白いカラスをじっと目を凝らして見つめた。風来坊は、仲間のカラスにご苦労、と言い放って、ホワイトレディーに挨拶した。「お待ちしていました。遠路はるばる、お疲れでしょう。すぐそこの公園でまでどうぞ」風来坊は、ピースとスパイダーが待っている公園めがけてゆっくり降下した。

 

二羽のカラスとホワイトレディーは、ベンチの前にフワッと着陸した。スパイダーは、カラスとホワイトレディーを目の当たりにして、小さな声でワンと挨拶した。早速、風来坊は、仲間を紹介することにした。「こちらが、いつも相談に乗ってくださっているピースさん、こちらは、用心棒のスパイダー君。残念ながら、僕たちをかわいがってくれている亜紀ちゃんは、学校だ。夕方には、帰ってくるから、楽しみに待っていてくれ」

 

ピースは、小さな笑顔を作り、挨拶した。「ようこそ、糸島にいらっしゃいました。ゆっくり、糸島めぐりを楽しんでください」早朝出立したホワイトレディーは、おなかがすいていた。ミーが、風来坊に声をかけた。「私たち、朝は、少ししか食べてこなかったのです。少しでいいですから、何か、食べさせていただけませんか?」朝食のことをすっかり忘れていた風来坊は、首をかしげ、つぶやいた。「そうですか?」

 

そのことを心得ていたピースは、すでに亜紀に相談していた。「ご心配なく。亜紀ちゃんからの差し入れです」ヤマモモの木の下にポップコーンとポテトチップスが入った袋がおいてあった。それは、今朝、亜紀が学校に行く前に準備しておいたものだった。ピースは、小さな口で袋の口をくわえ、ホワイトレディーの前に運んできた。「どうぞ、少しですが、食べてください」ホワイトレディーは、大好物のポップコーンに目を丸くしてクック、クック、と歓喜の声を発した。

 

ミーは、袋の底の端をくちばしで挟み、顔を左右に振った。袋の中から勢いよくポップコーンとポテトチップスが飛び出してきた。ホワイトレディーは、いっせいに頭を前後に動かし、えさを食べ始めた。カラスたちは、勢いよく食べるホワイトレディーの姿を見て、早朝に出発したために朝食抜きでやってきたのではないかと思った。ホワイトレディーは、えさを食べ終えると、満足そうな笑顔を作り、ケイが、お礼を言った。「ありがとう。とてもおいしかったわ」

ピースは、遠路はるばる長崎からやってきたホワイトレディーのガイドをしてやりたかったが、空を飛べる二羽のカラスにガイドをお願いすることにした。「ハトさんたち、少しお疲れでしょう。ここで、少し休憩なされて、カラスさんたちのガイドで、糸島巡りをなさってください。亜紀ちゃんは、夕方には帰ってきますので、そのときに、歓迎パーティーをやりたいと思っています。楽しみにしていてください。そう、今日は、亜紀ちゃんのおうちに泊まっていかれてはどうでしょう?」

 

ホワイトレディーは、お互い顔を見合わせてうなずいた。ミーが、代表で返事した。「それは、うれしいわ。ワイワイ、ガールズトークに花を咲かせましょう。よろしくお願いします」風来坊は、どこを案内しようか考えていた。きれいな海を見せたくなり、夫婦岩(めおといわ)のある“桜井二見ヶ浦(さくらいふたみがうら)”、日本三大玄武洞の中でも最大の“芥屋の大門(けやのおおと)”、野村望東尼(のむらぼうとうに)遺跡のある“姫島(ひめしま)”を案内することに決めた。

 

風来坊は、糸島巡りの前に平原遺跡(ひらばるいせき)の説明をすることにした。「皆さん、この公園には、平原遺跡があります。この遺跡は、日本最大の銅鏡をはじめ、豪華な副葬品が出土したことから王墓といわれています。しかも、アクセサリー類の多くが副葬されていたため、被葬者は女性ではないかと推測されています。つまり、糸島は、女帝が君臨していた伊都国と言えます。現に、卑弥呼女王が、糸島の女帝なのです。そうですね、ピース様」

ピースは、大きくうなずいた。「はい、伊都国は、弥生時代から女帝の国なのです。当然、女帝は、黒猫の卑弥呼女王様です。共生できない人間は、多くの争いを経て、現在の下品な社会を築き上げてきましたが、猫は、卑弥呼女王を中心に、共生の社会を築き上げてきました。今後、猫の共生文化は、次第に人間社会にも浸透していくことでしょう」ホワイトレディーは、猫の話になり、何のことやら分からなくなり、首を傾げてしまった。

 

目じりを下げ、きょとんとしているホワイトレディーを見た風来坊は、話をつなげた。「不思議に思われたでしょう。一般的に、伊都国には人間の女帝が実在したと言われています。確かに、人間が使ったものと思われる埋葬品が多く出土しています。でも、人間以上に高度な文化を築き上げてきたのは、猫様なのです。また、古代からカラスは、猫様にお使えしてまいりました。猫様の歴史と文化は、人間社会では、いまだ、研究されていません。今後、猫様の歴史が研究されたならば、日本の歴史は、大きく変わることでしょう」

 

歴史が得意でないホワイトレディーは、ますます、頭が混乱した。あまりにも難しい猫の話に困惑したミーは、ハトの立場の意見を述べた。「私たちハトは、歴史や政治経済が、苦手なのです。得意な科目は、音楽と地理です。難しい話は、猫様とカラスさんに任せます。ところで、子供の亜紀ちゃんは、学校に行かれているそうですが、そこで、何をしているのですか?」

春日信彦
作家:春日信彦
ホワイトレディー
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