玄米と生活習慣病予防
生活習慣病の原因の一つでもあり、また、現代社会の食生活の問題は、糖質や脂質の摂り過ぎである飽食だと思われます。糖質や脂質の摂り過ぎは糖尿病や肥満へとつながっていきます。
また、糖尿病になるとアルツハイマー病やがんの発症率が高まるという研究報告が多くなされていますし、肥満になってもがんになるリスクが高まると言われています。
したがって、糖尿病や肥満だけではなく、脂質異常症、高血圧などを含めた生活習慣病全般を防いでいくには、食生活を見直すことによる体質改善が大切になってきます。
具体的には、日頃の食生活において、腹八分を目指すくらいの出来る範囲でのカロリー制限を行っていくことです。また、余分な糖質や脂質を減らし、代わりにビタミンやミネラルなどの栄養バランスを整え、低体温を改善したり腸内免疫力を高めたりしていくことも重要です。
低体温は喫煙や飲酒、甘いものや果物の大量摂取に起因していると言われています。そのため、普段の食生活を見直し、玄米菜食を採り入れることは、生活習慣病の改善に役立つと思われます。
玄米は、食品に含まれている炭水化物を、食後の血糖の上がり具合で評価するGI(グリセミック・インデックス)の値が、白米と比べると低く、血糖値の上がり方がゆるやかだとされています。
また、玄米に多く含まれているビタミンB1は、糖質の代謝に必要不可欠なビタミンです。
細胞が活動するためのエネルギー源には、主に炭水化物や脂肪が利用されていますが、炭水化物の代謝の際には、酵素が必要になります。その酵素が働くために
は、補酵素が必要になるのですが、ビタミンB1は、小腸で吸収された後リン酸と結合し、補酵素であるチアミンピロリン酸 (TPP)となるのです。
そのため、ビタミンB1が不足すると、糖質のエネルギー代謝が滞ってしまいます。
さらに、玄米には食物繊維が多く含まれていますが、この食物繊維をうまく食生活に採り入れることは、生活習慣病の予防に効果的だと思われます。
玄米に多く含まれているのは、水溶性ではなく、不溶性の食物繊維です。不溶性食物繊維は、水には溶けませんが、水分を含んで膨張し、それによって腸を刺激することで蠕動(ぜんどう)運動を盛んにするため、腸内に溜まった余剰物をすみやかに体外に排出するはたらきがあります。
それと共に、食物繊維には腸内環境を整え、善玉菌を増やす作用もあるため、腸の機能が高まり、免疫力効果の向上にもつながります。
その理由は、腸という器官には栄養素の消化・吸収、排泄の働きをするだけではなく、「腸管免疫」と呼ばれるほど免疫細胞の多くが集中しており、腸内環境を整えることは免疫機能にも大きく関わっているからです。
特に小腸と大腸の粘膜には全身の約60%の「リンパ球」と呼ばれる免疫細胞が集まっているとされ、腸は人体で最大の免疫器官だと言われています。
玄米には、ビフィドバクテリウム属やラクトシラバス属といった善玉菌と呼ばれる乳酸菌の増殖を促すと食物繊維が多く含まれているとされていますので、腸内細菌のバランスを整うことで、腸内の環境が正常化していけば、それだけ免疫力が高まると思われます。
さらに、玄米をはじめとする不溶性食物繊維を多く含む食品は、口の中でよく噛んで食べる必要があるため、早食いによる過食を防いでくれます。やわらかくてすぐに飲み込めるような食品は、一度にたくさん食べてしまう可能性が高まるため、肥満につながりやすいと考えられますが、咀嚼回数が増える食品を口にすると、唾液の分泌量が増し、少しの量でも満腹感を得やすくなるのです。
また、すぐに消化されず胃の中で長く滞在するため、腹持ちが良く、間食の回数が減っていくことも、肥満の防止に役立ちます。
食物繊維は便秘の改善などにも有効ですが、摂り過ぎると下痢気味になるおそれもあります。しかし過剰摂取にさえ気をつければ、免疫力の向上や生活習慣病の予防につながってくると考えられます。
そのほか玄米にはビタミンEやミネラルなどが豊富ですが、不足するビタミンCやビタミンA(β‐カロテン)などのビタミン類、たんぱく質、カルシウムなどは、大豆や小魚、海藻、野菜などを副食とすることで補うことが可能です。また、豆腐や野菜の味噌汁を摂るだけでも、栄養バランスをかなり整えることが出来ます。
うつの予防と玄米
毎日の「食」と心の健康には、密接な関わりがあります。
近年、「うつ」の症状に悩まされる方が増えてきています。気分が落ち込む原因には、人間関係をはじめ様々な要因が考えられるため、食生活を見直すことだけで、すぐにうつの症状が改善されて心の健康につながるわけではないかもしれませんが、栄養バランスを見直すことは、「幸福感」や「やる気」のホルモンの生成とも関わってくるので、決して軽んじても良いものではありません。
うつの症状に関連した脳内伝達物質とえいば、セロトニン、メラトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、エンドルフィンなどである言われています。これらの脳内伝達物質は、
食事から摂取したたんぱく質が分解されてできたアミノ酸によって作られています。しかし単純にアミノ酸を摂れば、そのような脳内伝達物質が作られるわけで
はありません。
例えば、フェニルアラニンというアミノ酸からドーパミンやノルアドレナリンが作られる場合には、その過程において葉酸や
ナイアシン、ビタミンB6やビタミンC、鉄や銅などが必要なってきます。また、うつ病はセロトニンの不足が原因だと言われていますが、そのセロトニンの生
成にも、トリプトファンというアミノ酸に、葉酸、ナイアシン、ビタミンB6、鉄などが必要です。
しかもそのセロトニンはもともと腸内細菌間の伝達物質であり、セロトニンの前駆体は腸で作られた後、脳に送られると言います。脳内の報酬系にも関わり、やる気を起こすはたらきがあるドーパミンも同様です。(参考 藤田紘一郎『脳はバカ、腸はかしこい』)
そのため、そのような脳内伝達物質が生成されやすいように、腸内環境が整うような食生活を実践していくことは、うつの症状を緩和・改善するための一つの有効な手段だと考えられます。
玄米にはセロトニンやドーパミンが作られるために必要なビタミンB群やミネラルが多く含まれているだけではなく、腸内の環境を整える食物繊維も豊富です。
もちろん、先程述べたように、うつの症状には様々な要因が考えられるため、分泌される脳内の伝達物質量が増えれば、すぐに症状が改善したり心の悩みが解決したりするわけではありませんが、毎日の元気を少しでも取り戻すために、普段から栄養バランスが優れた玄米のような食材を食生活に採り入れてみることは大切なことだと思われます。
γ(ガンマ)‐オリザノールと生活習慣病予防
糖尿病や肥満症といった生活習慣病を改善したり、発症するリスクを下げたりするために、単にカロリーを減らしたり、1つの栄養素を過剰に摂取したり制限したりすることは、逆に栄養バランスを崩してしまうことも考えられるため、得策だとは言えません。
生活習慣病を改善するには、余分なカロリーや糖質・脂質を減らし、それと共に、現代人に不足しがちなビタミンやミネラル、食物繊維などをうまく補って栄養バランスをうまく整えてあげる必要があるように思います。
玄米にはビタミンやミネラル、食物繊維といった不足しがちな栄養素が豊富に含まれているため、栄養バランスを整えるのに最適だと思われますが、それらの栄養素以外にも、玄米に含まれる有効成分γ(ガンマ)‐オリザノールが生活習慣病の改善に役立ってくれそうです。
益崎裕章氏ら研究チームは、マウスや細胞を用いた基礎研究により、玄米に含まれる成分の、特にγ(ガンマ)‐オリザノールが、高脂肪食に対する嗜好性を軽減させ、抗肥満、抗糖尿病効果を発揮することに深く関与していることを明らかにしたそうです。
益崎氏によると、マウスも人間も高脂肪食に高い依存性を示すことが知られているそうで、さらにその依存性の強さはタバコやアルコール、麻薬類などよりも上回ることが分かってきているそうです。
また、高脂肪食の嗜好性については、脳の視床下部における小胞体ストレスの上昇が深く関与しており、高脂肪食の摂取によって小胞体ストレスが亢進すると、より高脂肪食への依存が強化されてしまうと言います。
しかし益崎氏は玄米に含まれる有効成分のγ(ガンマ)‐オリザノールが、視床下部における小胞体ストレスを軽減する「分子シャペロン」として機能して、高脂肪依存食の悪循環を断ち切る作用があることを見出したとしています。
それ以外にもγ(ガンマ)‐オリザノールには、視床下部におけるカテコールアミン代謝に作用して、自律神経機能を調節することに関わっていることが知られ
ており、そのため自律神経失調症や更年期障害、過敏性腸症候群や脂質異常症などに対して、臨床応用されていきたと益崎氏は述べています。
高脂肪食をいくら食べても脳の報酬系がなかなか満足せず、それどころか高脂肪食への嗜好がど
んどん強くなっていくことは、肥満や糖尿病への発症リスクを非常に高めてしまうように思いますが、そういった依存性を抑制するとされる玄米のγ(ガンマ)‐オリザノールの効果・効能については、これからますます期待が高まります。
参考文献 渡邊昌監
修 『玄米のエビデンス』 キラジェンヌ