玄米の生活習慣病予防効果

栄養豊富な玄米

 玄米は古来から日本人の主食として健康的な生活を支えてきたとされています。

 玄米から糠(ぬか)と胚芽を取り除けば、白米になりますが、玄米の糠や胚芽にはビタミンEやビタミンB群(ビタミンB1、B2、ナイアシン、葉酸、パントテン酸)、ミネラル、食物繊維などが豊富に含まれています。

 ビタミンEは白米に比べるとおよそ6.5倍も含まれているとされており、ビタミンB群も、ビタミンB1が約5.1倍、ビタミンB2が約2倍、ナイアシンが約5.2倍、葉酸が約2.2倍、パントテン酸が約2倍も含まれていると言われています。

 また、玄米に含まれているミネラルは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛、銅、マンガンなどです。

 そのなかでも、特にカリウムが約2.6倍、マグネシウム約4.7倍、リン約3倍、鉄約2.6倍、マンガン約2.5倍と、白米よりも豊富に含まれていることが特筆に値します。

 さらに、玄米には不溶性食物繊維が白米の約6倍と非常に多く含まれています。それ以外にも、γ(ガンマ)‐オリザノールやフィチン酸といった有効成分が玄米に多く含まれていることが、近年注目を浴びています。

 ビタミンやミネラル、食物繊維といった栄養素はどれも、ファーストフードや加工食品がありふれた環境で生活する現代人とっては、不足しがちになっている傾向があります。

 本書では、毎日の食生活に玄米食を採り入れることが、糖尿病や肥満症をはじめとした生活習慣病を改善するきっかけになるということを、ささやかながら提案してみたいと思います。



参考サイト
玄米パワーと免疫力
玄米栄養生活

玄米と生活習慣病予防

 生活習慣病の原因の一つでもあり、また、現代社会の食生活の問題は、糖質や脂質の摂り過ぎである飽食だと思われます。糖質や脂質の摂り過ぎは糖尿病や肥満へとつながっていきます。

 また、糖尿病になるとアルツハイマー病やがんの発症率が高まるという研究報告が多くなされていますし、肥満になってもがんになるリスクが高まると言われています。

 したがって、糖尿病や肥満だけではなく、脂質異常症、高血圧などを含めた生活習慣病全般を防いでいくには、食生活を見直すことによる体質改善が大切になってきます。

 具体的には、日頃の食生活において、腹八分を目指すくらいの出来る範囲でのカロリー制限を行っていくことです。また、余分な糖質や脂質を減らし、代わりにビタミンやミネラルなどの栄養バランスを整え、低体温を改善したり腸内免疫力を高めたりしていくことも重要です。

 低体温は喫煙や飲酒、甘いものや果物の大量摂取に起因していると言われています。そのため、普段の食生活を見直し、玄米菜食を採り入れることは、生活習慣病の改善に役立つと思われます。

 玄米は、食品に含まれている炭水化物を、食後の血糖の上がり具合で評価するGI(グリセミック・インデックス)の値が、白米と比べると低く、血糖値の上がり方がゆるやかだとされています。

 また、玄米に多く含まれているビタミンB1は、糖質の代謝に必要不可欠なビタミンです。

 細胞が活動するためのエネルギー源には、主に炭水化物や脂肪が利用されていますが、炭水化物の代謝の際には、酵素が必要になります。その酵素が働くために は、補酵素が必要になるのですが、ビタミンB1は、小腸で吸収された後リン酸と結合し、補酵素であるチアミンピロリン酸 (TPP)となるのです。

 そのため、ビタミンB1が不足すると、糖質のエネルギー代謝が滞ってしまいます。

 さらに、玄米には食物繊維が多く含まれていますが、この食物繊維をうまく食生活に採り入れることは、生活習慣病の予防に効果的だと思われます。

 玄米に多く含まれているのは、水溶性ではなく、不溶性の食物繊維です。不溶性食物繊維は、水には溶けませんが、水分を含んで膨張し、それによって腸を刺激することで蠕動(ぜんどう)運動を盛んにするため、腸内に溜まった余剰物をすみやかに体外に排出するはたらきがあります。

 それと共に、食物繊維には腸内環境を整え、善玉菌を増やす作用もあるため、腸の機能が高まり、免疫力効果の向上にもつながります。

 その理由は、腸という器官には栄養素の消化・吸収、排泄の働きをするだけではなく、「腸管免疫」と呼ばれるほど免疫細胞の多くが集中しており、腸内環境を整えることは免疫機能にも大きく関わっているからです。

 特に小腸と大腸の粘膜には全身の約60%の「リンパ球」と呼ばれる免疫細胞が集まっているとされ、腸は人体で最大の免疫器官だと言われています。

 玄米には、ビフィドバクテリウム属やラクトシラバス属といった善玉菌と呼ばれる乳酸菌の増殖を促すと食物繊維が多く含まれているとされていますので、腸内細菌のバランスを整うことで、腸内の環境が正常化していけば、それだけ免疫力が高まると思われます。
 
 さらに、玄米をはじめとする不溶性食物繊維を多く含む食品は、口の中でよく噛んで食べる必要があるため、早食いによる過食を防いでくれます。やわらかくてすぐに飲み込めるような食品は、一度にたくさん食べてしまう可能性が高まるため、肥満につながりやすいと考えられますが、咀嚼回数が増える食品を口にすると、唾液の分泌量が増し、少しの量でも満腹感を得やすくなるのです。

 また、すぐに消化されず胃の中で長く滞在するため、腹持ちが良く、間食の回数が減っていくことも、肥満の防止に役立ちます。

 食物繊維は便秘の改善などにも有効ですが、摂り過ぎると下痢気味になるおそれもあります。しかし過剰摂取にさえ気をつければ、免疫力の向上や生活習慣病の予防につながってくると考えられます。

 そのほか玄米にはビタミンEやミネラルなどが豊富ですが、不足するビタミンCやビタミンA(β‐カロテン)などのビタミン類、たんぱく質、カルシウムなどは、大豆や小魚、海藻、野菜などを副食とすることで補うことが可能です。また、豆腐や野菜の味噌汁を摂るだけでも、栄養バランスをかなり整えることが出来ます。

玄米と認知症予防

 認知症の中でも、特にアルツハイマー型認知症が発症する要因には、運動不足や中年期の肥満、高血圧や脂質異常症などがあると言われています。さらに認知症が発症する20年ほど前から、アミロイドβ蛋白が蓄積し、5年ほど前から軽度認知障害の症状が現れることが分かっているようです。

 そのアミロイドβ蛋白が、アルツハイマー型認知症の患者の脳内には、増加して蓄積していることが分かっているため、アミロイドβ蛋白が脳内で固まってしまうのを防ぐ強力な作用があるとされるポリフェノール(大豆のイソフラボンやワインのアントシアニン、ウコンのクルクミンなど)を摂取することが、認知症の予防には有効だとされています。

 また、高脂肪や高コレステロールの食事は、アミロイドβ蛋白の沈着量を増やすために良くないとされています。しかしDHAやEPA、αリノレン酸などのオメガ3と呼ばれる油は、コレステロール値を下げ、認知症発症のリスクを下げると言われているので、積極的に摂ることが必要です。

 そのほか、糖尿病や糖尿病予備軍の人は、アルツハイマー病発症のリスクが高いと言われています。その理由はインスリンがアミロイドβ蛋白を分解する能力を持っているからであり、インスリンの分泌が異常状態になる糖尿病においては、アルツハイマー病の発症率が3倍になるという報告があるそうです。

 玄米に含まれているγ(ガンマ)‐オリザノールには、このインスリンの分泌能力を高める働きがあるそうです。γ(ガンマ)‐オリザノールはインスリンを分泌する膵臓のβ細胞の細胞死を抑制し、β細胞に直接作用して、インスリンの分泌能を高める作用があることを、琉球大学の益崎裕章教授らの研究チームが突き止めています(詳しくはこちらの記事)。

 そのほか、玄米に含まれるフェルラ酸には脳神経保護作用や、老化や酸化ストレスによって炎症が引き起こされる脳のβ-アミロイドペプチドを保護する作用があることが判明しており、アルツハイマー型認知症患者を対象に行った研究では、脳の認知機能の改善やアルツハイマーの進行を抑制する働きが報告されています。

 それに加え、ホモシステインという物質の血中濃度が高い人は、動脈硬化が進み、脳卒中などを起こしやすく、認知症も発症しやすいとされていますが、葉酸やビタミンB6、B12などのビタミンB群は、そのホモシステインの分解を促進し、血中濃度を低下させて動脈硬化を抑えるとされています。

 また、アルツハイマー病にかかる人の食生活には、カルシウムや鉄、亜鉛、マグネシウムなどのミネラルが不足していると言われています。

 糖質や脂質を余分に摂る食生活を続けることで生活習慣病になってしまうと、同時に認知症が併発するリスクも高まると言われていますが、ビタミンB群、ミネラル、γ(ガンマ)‐オリザノール、フェルラ酸などが含まれている玄米を食生活に採り入れることは、生活習慣病だけではなく認知症の予防にも効果的だと言えそうです。

参考文献 渡邊昌監 修 『玄米のエビデンス』 キラジェンヌ

うつの予防と玄米

 毎日の「食」と心の健康には、密接な関わりがあります。

 
近年、「うつ」の症状に悩まされる方が増えてきています。気分が落ち込む原因には、人間関係をはじめ様々な要因が考えられるため、食生活を見直すことだけで、すぐにうつの症状が改善されて心の健康につながるわけではないかもしれませんが、栄養バランスを見直すことは、「幸福感」や「やる気」のホルモンの生成とも関わってくるので、決して軽んじても良いものではありません。

  うつの症状に関連した脳内伝達物質とえいば、セロトニン、メラトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、エンドルフィンなどである言われています。これらの脳内伝達物質は、 食事から摂取したたんぱく質が分解されてできたアミノ酸によって作られています。しかし単純にアミノ酸を摂れば、そのような脳内伝達物質が作られるわけで はありません。

 例えば、フェニルアラニンというアミノ酸からドーパミンやノルアドレナリンが作られる場合には、その過程において葉酸や ナイアシン、ビタミンB6やビタミンC、鉄や銅などが必要なってきます。また、うつ病はセロトニンの不足が原因だと言われていますが、そのセロトニンの生 成にも、トリプトファンというアミノ酸に、葉酸、ナイアシン、ビタミンB6、鉄などが必要です。

 しかもそのセロトニンはもともと腸内細菌間の伝達物質であり、セロトニンの前駆体は腸で作られた後、脳に送られると言います。脳内の報酬系にも関わり、やる気を起こすはたらきがあるドーパミンも同様です。(参考 藤田紘一郎『脳はバカ、腸はかしこい』)

 そのため、そのような脳内伝達物質が生成されやすいように、腸内環境が整うような食生活を実践していくことは、うつの症状を緩和・改善するための一つの有効な手段だと考えられます。

 玄米にはセロトニンやドーパミンが作られるために必要なビタミンB群やミネラルが多く含まれているだけではなく、腸内の環境を整える食物繊維も豊富です。

  もちろん、先程述べたように、うつの症状には様々な要因が考えられるため、分泌される脳内の伝達物質量が増えれば、すぐに症状が改善したり心の悩みが解決したりするわけではありませんが、毎日の元気を少しでも取り戻すために、普段から栄養バランスが優れた玄米のような食材を食生活に採り入れてみることは大切なことだと思われます。
伊澤晴秋
作家:伊澤晴秋
玄米の生活習慣病予防効果
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