合コン殺人事件

伊達刑事は、国体道路に出るとタクシーを拾い、沢富刑事を押し込んだ。「おい、どういうことだ。さっきのアリバイだ」沢富刑事は、一体何が起きたのかとキョトンとしていたが、アリバイのことで疑問に思ったことを話し始めた。「思うんですが、他の女性3人は、特にアリバイがなくて、Hだけがあるわけです。つまり、最も疑われないように、アリバイを作ったのではないかと思うんです。と言うことは、あえて、アリバイを作った人物が最も怪しいと言うことじゃないですか」

 

伊達刑事は、沢富刑事の話に耳を傾けながら、何度もうなずいた。「でもな~、首の痕跡は、男のものだし」伊達刑事は、ドライバーの後姿を見つめた。ドライバーは女性であった。「大濠公園の入り口まで、頼む」伊達刑事が行き先を告げると、明るく、かわいい声の返事が返ってきた。「ハイ」ドライバーは、ルームミラー越しに笑顔を見せた。ドライバーの声を聞いた沢富刑事は、上体を起こし、ドライバーに声をかけた。「もしかして、口森さん」即座に明るい声が返ってきた。「ハイ」ドライバーは、ルームミラーを見つめ、笑顔で挨拶した。

 

 伊達刑事は、右横を振り向き、声をかけた。「おい、知り合いか?」沢富刑事は、右頬をかきながら答えた。「まあ、ちょっと」伊達刑事は、右ひじで沢富刑事の左腕をちょこんとつつくと、大きな声で話し始めた。「え~~、おい、水臭いじゃないか。いるならい,いるって言えよ。このやろ~」沢富刑事は、誤解されたと思い、即座に返事した。「違いますって、ちょっとした、お友達です。そうですよね、口森さん」沢富刑事が、同意を求めると、意外な返事が返ってきた。「恋人未満って、とこですよね、沢ちゃん」ドライバーは、ルームミラーにウインクした。

「やっぱ、そうじゃないか。こいつ。僕は、こいつの上司で、伊達といいます。よろしく」ドライバーは、ルームミラーを見つめ、返事した。「こちらこそ。何かあったら、いつでも呼んで下さい。飛んでまいります」赤信号を見たドライバーは、ブレーキをゆっくり踏んだ。沢富刑事は、バツが悪くなり、どのように話を持っていけばいいか戸惑ってしまった。「こいつ、彼女募集中って、言ってたんですよ。こんなにかわいい方が、いるとは」伊達刑事は、ドライバーの後姿に返事した。

 

 「あら、刑事さんって、お上手なんですね」伊達刑事は、自分たちが刑事であることを知っていることにハッとしたが、沢富刑事の彼女であれば当然のことだと頷いた。「いや、こいつ、刑事のわりには、刑事らしくないんですよ。いつも、ボケ~として、のんきなやつなんです。出世欲がなくて、結婚する気もないです。困ったものです」伊達刑事は、沢富刑事を横目にぼやいた。ドライバーは、ルームミラーをちらっと見つめ、即座に返事した。「あら、いいじゃないですか、ボケ~っとしてて。沢ちゃんは、とっても、優しい方ですわ。私、そういう沢ちゃん、大好きなんです」

 

 沢富刑事は、彼女の話を聞いていると、かなり付き合っているように聞こえて、ドギマギし始めた。「そうですか。こいつには、こいつのよさがあります。よかったな~、おい」伊達刑事は、沢富刑事の顔を覗き込んだ。「は~~、まあ、もう~、そろそろじゃないですか?」すでに、荒戸を過ぎていた。「ハイ、もうすぐです」ドライバーは、明るい声を響かせた。伊達刑事は、即座に告げた。「チャイナガーデンのところでいいです」ドライバーは、頷き、チャイナガーデンの少し手前で車を止めた。

 二人は、しばらく南に向かって歩くと、15階建てのマンションの前にたどり着いた。「え、マンション買ったんですか?」沢富刑事は、伊達刑事がマンションを買ったことを知らず、てっきり、行きつけの焼き鳥屋にでも連れて行かれるものと思っていた。「ア、そうだな。まだ、言ってなかったか。先月、買ったばかりだ。まあ~、カミさんに買ってもらったんだがな」伊達刑事は、頭をかきながらつぶやいた。「へ~~、奥さんのヘソクリって、すごいんですね」沢富刑事は、冗談を言った。

 

 「そう、冷やかすなよ。分かるだろ。カミさんのオヤジさんからのプレゼントだ。俺は、稼ぎが少ないから、同情されたってわけだ」沢富刑事は、さっしがついていたが、皮肉っぽかったので、ちょっと気まずくなり、苦笑いした。伊達刑事は、彼女のことを話したくて、マンションの505のドアを開くと、大きな声で細君を呼んだ。「お~い、帰ったぞ。ビッグニュースだ。驚くな」飛んでやって来た妻、ナオ子は、目をパチクリさせて、尋ねた。「あら、沢富さん。いらっしゃい。そんな、大きな声で。宝くじでも当たったの?」

 

 キッチンの椅子に腰掛けるとマジになって答えた。「おどろくな。重大発表がある。なんと、なんと、沢富刑事に、彼女ができました~」それを聞いたナオ子は、ジャンプして驚き、部屋中に響き渡る拍手をした。「おめでとう、沢富さん。どんな方?何をなされている方?どこのお嬢様?福岡の方?」ナオ子は、沢富刑事の顔をのぞき見て、返事をせきたてた。伊達刑事は、ドヤ顔で、ナオ子を制した。「おい、そう、あせるな。俺が話してやる。ビール。さあ」伊達刑事は、天下を取ったように、ナオ子に命令した。

 ナオ子は、一刻も早く、話を聞きたくて、フレッジに一目散に駆けて行った。「ハイ、どうぞ。さあ、話してちょうだい。さあ、早く」ナオ子は、夫の肩を激しくゆすった。「待て、待て、まずは、一杯。借りてきたネコみたいじゃないか、おい」伊達刑事は、沢富刑事にグラスを差し出し、ビールを注いだ。ナオ子は、沢富刑事の斜め前に腰掛け、じっと沢富刑事を見つめた。沢富刑事は、ビールを一口含み、喉にゆっくり流し込むと、小さな声で話し始めた。「早合点しないでください。彼女は、単なる友達です。恋人じゃありません」沢富刑事は、俯いてしまった。

 

 伊達刑事は、大きく頷き、ドヤ顔で話し始めた。「まあ、彼女には変わりない。そう、隠さなくていいじゃないか。悪いことをしてるわけじゃなし。どうどうと、付き合えばいい。なあ、ナオ子」ナオ子は、頷き、声をかけた。「そうですとも。その方って、どんな方?どこのご令嬢なの。一度会いたいわ。あなたは、お会いになったの?」伊達刑事は、胸を張って、答えた。「もちろんさ。今しがたまで、話をしていたんだ。とっても、明るくて、かわいい方だ。沢富には、もったいないくらいだ」

 

 ナオ子は、是非会いたくて、うずうずし始めていた。「あら、どこでお会いになってたの。とにかく、仲人は、私たちに任せてくださいよ。約束でしょ」ナオ子は、沢富刑事の顔を覗きこみ同意を求めた。ナオ子は、仲人をすれば、主人の出世は間違いない、と心のそこで、つぶやいた。「奥さん、ちょっと待ってください。もし、結婚するようなことがあれば、お願いします。でも、本当に、お友達なんです。恋人じゃありません」沢富刑事は、話がとんでもないところに向かい、どのように説明していいか、わからなくなった。

春日信彦
作家:春日信彦
合コン殺人事件
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