一巡せしもの―東海道・西国編

甲斐國[浅間神社] ( 1 / 22 )

甲斐國一之宮[浅間神社]01



早朝、御茶ノ水駅から乗り込んだ中央本線の下り各駅停車は、予想に反して結構な混み具合だった。

まだ朝の6時前にもかかわらずロングシートは埋め尽くされ、そのうえ結構な数の人が立っている。

今年も残すところ、あと10日。

年の瀬が押し迫っているのを実感する。

そのまま客足が途絶えることなく国分寺駅に到着。

そこで乗り換えた下りの特別快速も混雑している。

ようやく八王子駅で車内はガラガラになり、7時10分高尾駅に到着。

向かいのホームに停車していた1451M電車に乗り換えた1分後、すぐに発車。

車内の4人掛けクロスシートに旅情を感じる間もなく、電車は約10分ほどで相模湖駅に着いた。

相模湖は都心から気軽にアクセスできる観光地だけに、駅舎もそれっぽいデザインになっている。

とはいえ、こんな厳寒期の、しかも早朝に観光客の姿などあろうはずもなく、通勤通学客の姿がチラホラあるばかり。

ここから中央自動車道相模湖バス停まで歩く。

駅前のバスロータリーを通り抜けて線路沿いに歩き、跨線橋を北側へ渡る。

この橋、床が透けて下が丸見えなので非常に怖い。

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甲斐國一之宮[浅間神社]02



渡り切ると正面は斜面になっており、右前方に上へ向かう細い階段を発見。

行ってみると扉が付いていて、そこに「関係者以外立ち入り禁止」と表示されている。

左右を見渡したものの、上へ昇る道はこれしか見当たらない。

しかも扉に鍵がかかっている様子はなく、開けて鉄製の階段を昇ってみた。

階段脇には民家が二軒あり、その玄関脇をモロにすり抜ける格好。

登り切ると、またも扉。

この階段、やはり私有地だったらしい。

扉を付けたのは、駅から高速バス停へ“近道”する輩が後を絶たないからか。

だが斯く言う自分も、紛れも無く“輩”の一人。

心の中で“謝罪”と“感謝”、それと「見つかりませんように」との“願い”を呟いた。

階段を上り切ったところで、来た方角を振り返ってみると、朝陽を浴びた山並みが神々しく輝いている。

「鉄道」から「私有道」を経由して「一般道」の坂を登り、バス停へと続く階段を登って「高速道」に出た。

鉄道から高速バスへ乗り換えるだけなのに、こうして4種類もの「道」が体験できるとは有難いことだ。

7時55分、数分遅れで京王バス東の甲府行き高速バスが到着した。

甲府へ行くのなら中央本線で行けばいいものを、なぜ高速バスに乗り換える必要があったのか?

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甲斐國一之宮[浅間神社]03



実は甲斐国一之宮の浅間神社は、鉄道を利用すると非常に行きにくい場所に存在しているのだ。

乗車して運賃を支払う際に「甲斐一宮まで」と言うと、運転手から「通りません」という返答。

あれ? と首を傾げたら、追って「一宮バス停には止まります」との注釈。

それそれ! と納得し、相模湖→一宮の運賃850円を支払う。

ここで逆に「高速バスを利用するのなら始発の新宿から乗車すればよかったのでは?」という疑問も湧こうというもの。

実は今回の巡礼には「青春18きっぷ」を利用したので、高速バスと最も効率的に併用するため、相模湖までJRを利用した次第だ。

師走という時期と早朝という時間帯の割に、バスの車内は閑散としている。

というより、この時期にしては高速道を走るクルマの通行量そのものが著しく少ない。

乗客を疎らに積んだバスは、スカスカの中央道を西へ向かって順調に走っている。

しかし、バスは大月インターで中央道を降り、一般道の国道20号線に入った。

その理由も、車内が閑散としていた訳も、クルマの通行量が少なかった原因も、すべてここにある。

平成24(2012)年12月2日、笹子トンネル内で発生した天井板落下事故。

トンネル内に吊り下げられていたコンクリート製の天井板が、突如100メートル以上に亘って崩落。

走行中の車両が巻き込まれ、9名もの犠牲者が出た史上最悪のトンネル事故である。

まだ事故の発生から日も浅く、復旧工事は緒についたばかり。

このため全ての車両が大月インターで降ろされ、一般道の走行を強いられているのだ。
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作家:経堂 薫
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