一巡せしもの―東海道・西国編

まえがき


前作「東海道・東国編」に続き、西国八州(甲斐/駿河/遠江/三河/尾張/伊勢/志摩/伊賀)を巡った「西国編」を上梓いたしました。

東京在住ゆえ東国の諸御宮は日帰りで参拝できましたが、西国ともなれば日帰りというわけにもいかず、どうしても宿泊を重ねて巡礼することになります。

まさに本書のタイトル通りの「一巡」…一之宮巡礼の旅を実現するに至りました。

今回の旅で苦労したのは、甲斐國一之宮「浅間神社」と遠江國一之宮「小国神社」でした。

共通しているのは、どちらも鉄道駅から遠く、しかもバスの便がないこと。

自家用車での参拝が常識となった昨今、それを使わないのは非常識なことかもしれません。

しかし「巡礼」とは宗教的な儀式であり、古来より洋の東西を問わず苦行が付き物。

モータリゼーションに支配された昨今のほうことそうした本来の意味での「巡礼」を行うのに相応しい…そんなパラドキシャルな時代となりました。

続刊「畿内編」も取材は終えているのですが、いつ発刊するのか?

できれば年内に発刊したいと思ってはいますが、それは神様の思し召し。

末永く、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

平成26(2014)年9月20日

経堂 薫

甲斐國[浅間神社] ( 1 / 22 )

甲斐國一之宮[浅間神社]01



早朝、御茶ノ水駅から乗り込んだ中央本線の下り各駅停車は、予想に反して結構な混み具合だった。

まだ朝の6時前にもかかわらずロングシートは埋め尽くされ、そのうえ結構な数の人が立っている。

今年も残すところ、あと10日。

年の瀬が押し迫っているのを実感する。

そのまま客足が途絶えることなく国分寺駅に到着。

そこで乗り換えた下りの特別快速も混雑している。

ようやく八王子駅で車内はガラガラになり、7時10分高尾駅に到着。

向かいのホームに停車していた1451M電車に乗り換えた1分後、すぐに発車。

車内の4人掛けクロスシートに旅情を感じる間もなく、電車は約10分ほどで相模湖駅に着いた。

相模湖は都心から気軽にアクセスできる観光地だけに、駅舎もそれっぽいデザインになっている。

とはいえ、こんな厳寒期の、しかも早朝に観光客の姿などあろうはずもなく、通勤通学客の姿がチラホラあるばかり。

ここから中央自動車道相模湖バス停まで歩く。

駅前のバスロータリーを通り抜けて線路沿いに歩き、跨線橋を北側へ渡る。

この橋、床が透けて下が丸見えなので非常に怖い。

甲斐國[浅間神社] ( 2 / 22 )

甲斐國一之宮[浅間神社]02



渡り切ると正面は斜面になっており、右前方に上へ向かう細い階段を発見。

行ってみると扉が付いていて、そこに「関係者以外立ち入り禁止」と表示されている。

左右を見渡したものの、上へ昇る道はこれしか見当たらない。

しかも扉に鍵がかかっている様子はなく、開けて鉄製の階段を昇ってみた。

階段脇には民家が二軒あり、その玄関脇をモロにすり抜ける格好。

登り切ると、またも扉。

この階段、やはり私有地だったらしい。

扉を付けたのは、駅から高速バス停へ“近道”する輩が後を絶たないからか。

だが斯く言う自分も、紛れも無く“輩”の一人。

心の中で“謝罪”と“感謝”、それと「見つかりませんように」との“願い”を呟いた。

階段を上り切ったところで、来た方角を振り返ってみると、朝陽を浴びた山並みが神々しく輝いている。

「鉄道」から「私有道」を経由して「一般道」の坂を登り、バス停へと続く階段を登って「高速道」に出た。

鉄道から高速バスへ乗り換えるだけなのに、こうして4種類もの「道」が体験できるとは有難いことだ。

7時55分、数分遅れで京王バス東の甲府行き高速バスが到着した。

甲府へ行くのなら中央本線で行けばいいものを、なぜ高速バスに乗り換える必要があったのか?
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作家:経堂 薫
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