片想い

 渡辺はこの結果に落ち込んだ。生徒会長は三島で、副会長が自分と予想していた。渡辺はこの結果を期待し、教頭に突然薦められた立候補を承諾した。予想外の結果に全生徒は騒然としたが、篠田教頭は満面の笑みを浮かべていた。渡辺は学年トップの成績で教頭のお気に入りであった。三島はエリートクラスを追放された異端児だった。三島は授業中に多くの質問をし、授業の進行妨害になるということでAクラスにクラス替えされていた。また、三島は教師に対して反抗的だった。

 

 三島が副会長を辞退したため、佐藤に副会長を依頼したが、彼も今回の選挙に不信を抱き辞退した。結局、副会長不在の生徒会となってしまった。さらに、生徒会長就任一週間後から渡辺は学校を休み始め、会長まで不在となってしまった。理由は病欠であったが、病名ははっきりしなかった。会長不在のため、やむなく、教頭は渡辺が登校するまでということで生徒会長を三島に依頼した。三島は渡辺のことを思い登校するまでの間会長を引き受けることにした。

 

 渡辺が病欠し始めてから、早1週間がたっていた。学年成績トップでエリートクラスのリーダーが病欠したことによって、父母からのエリートクラスへの批判が起きるのではないかと教頭は懸念していた。教頭は早期の登校を促すため、病欠して3日後には自ら渡辺の見舞いに行き、彼女の心情を聞き出そうとしたが、渡辺は本心を話そうとしなかった。渡辺の親友、柏木と峰岸も見舞いに行き、不登校の原因を探ろうとしたが、頭が重い、体がだるいとあいまいな病状の返事をするのみで、渡辺の心を知ることができなかった。だが、柏木には不登校の原因に心当たりがあった。

 

 このまま不登校が続けば来年の高校入試に不利と考えた教頭は、一刻も早く登校するように、と渡辺の親友柏木に登校の説得を依頼した。教頭は渡辺を公立では偏差値トップのS高校か、私立の名門K高校に合格させたかった。昨年は、エリートクラスの横山を名門K高校に合格させたことによって、教頭は父母から絶大な支持を受けていた。この人気を維持するには渡辺が必要であった。

 

 柏木は教頭の依頼を断ることができず、悩んでいた。柏木は渡辺を登校させるための方法を峰岸に相談することにした。3月10日(日)午前11時に柏木は峰岸とマックで待ち合わせをした。柏木はどのように話を進めていいのか悩んだが、まずは、峰岸の意見を参考にすることにした。柏木が窓際の席でぼんやり外を眺めているとトレーニング姿の陽気な峰岸が飛び込んできた。

 

 ジーンズ姿の柏木は峰岸の笑顔を見つけると入口に駆けて行った。二人はジュースとバーガーを買うと元の窓際の席に着いた。柏木はオレンジジュースをストローで少し飲むと早速話を切り出した。「峰岸、渡辺、どうしたんだろうね、うつ病になったのかな~、まったく元気がないよね」柏木は峰岸の反応をうかがった。「病気だから、しょうがないんじゃない、もうしばらくすれば元気になるんじゃない」峰岸には渡辺のことを心配している様子がなかった。

 柏木は教頭の依頼を考えると、とにかく早く渡辺を登校させなければとあせっていた。「まあ~ここだけの話だけど、渡辺は病気じゃないと思うのよね。三島君が原因だと思うのよ。なんとなく」柏木は言い終えるとバーガーを少しかじった。怪訝な顔をした峰岸は意味がわからず、問い返した。「それって、どういうこと?三島君、落選したもんで、渡辺にいやみを言ったとか?」峰岸もチキンバーガーにかぶりついた。

 

 ちょっとうつむいた柏木は憶測を話すことにした。「あくまでも、憶測なんだけど、渡辺は三島君のことが好きなんじゃないかな~。ほら、去年の10月に三島君がエリートクラスから追放されたじゃない。あの時、渡辺はとても悲しそうな顔をしていたのよ。三島君がいなくなって元気がなくなったようにも思えるし。気のせいかも知んないけど」柏木は三島が追放されてからの渡辺を思い出していた。

 

 峰岸はBクラスでエリートクラスのことが分からず、キョトンとして聞いていた。「エリートクラスのことを言われても困るんだけど、渡辺は三島君のことが好きだったのか?でも、不登校と三島君とどんな関係があるのよ?」峰岸は柏木が言わんとすることが良く飲み込めなかった。「思うんだけど、渡辺は副会長になりたかったんじゃないかな~。三島君が会長ならば、時々、生徒会のことで話ができるでしょう。きっと、そういう関係になりたかったんじゃないかと思うの」柏木は渡辺の気持ちをずっと考えていた。

 峰岸は、少しは飲み込めたが、不登校になる気持ちが理解できなかった。「でも、恋の悩みだったら、いったい、自分たちはどうすりゃいいのさ?」峰岸は恋についてはまったく苦手だった。「今は、三島君が会長をやっているけど、渡辺が登校するようになれば三島君は会長を辞めることになるじゃない。クラスが別になったことで悲しい思いをして、今度は、三島君が副会長を辞退したことで、かなりのショックを受けたと思うのよ。なぜか、運命的に渡辺と三島君は引き裂かれているのよ。ロミオとジュリエットみたいじゃない」柏木は渡辺の気持ちを峰岸に伝えたかった。

 

 峰岸は渡辺の片想いは飲み込めたが、三島との離別は偶然の出来事で、三島が渡辺を嫌って、彼女を避けているのではないと考えた。「こんな不運に悩むより、勇気を出してコクればいいじゃない。もしかしたら、副会長、やってくれるかもよ」峰岸は一気にジュースを飲み干した。「でもね~、渡辺にそんな勇気はないと思うよ。峰岸みたいにストレートじゃないから。もし、三島君が副会長をやってくれれば、渡辺も会長をやる気になるだろうけど、三島君は副会長になってくれそうもないしね。三島君の気が変わって、副会長をやってくれないかな~」柏木はじっと峰岸を見つめた。

 

 峰岸はティッシュで口元を拭くと冷たい口調で言った。「無理ね、三島君は頑固だから。まあ、かっこよく言えば、男の中の男って感じだけど、いったん、決めたことは他の部員がなんと言っても聞かないしね。筋金入りって感じ」峰岸は三島の頑固な性格をあきれた顔で話した。柏木はゆっくりジュースをほんの少し飲むと、話したい内容を頭の中でまとめていた。「やっぱりね、男の中の男か。お願いしても無理と言うことね。と言うことは、やっぱり、あれしかないか」柏木は大きなため息をついた。

春日信彦
作家:春日信彦
片想い
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