今まで生きてきた中で、今が一番輝いてる時だと思います。
ひょんなことから48才でバイクの免許をとり、そこから少しずつ人生が変わっていきました。
それまでの生活は、どこにでもある、ごく普通の家庭で、夫と息子と娘の4人で暮らしていました。
バイクの免許をとる前は、家で過ごす事が好きで、読書やガーデニングを楽しむ、何処にでもいる中年のおばさんでした。
バイクをローンで購入し、さてどうやって楽しもうかな?
夫もバイクの免許をもっていて、付きあう前は750ccのバイクに乗っていたそうですが、一度もその姿を見る事は出来ませんでした。
わたしは週に4回、リサイクルショップでパートをしています。
同僚で仲の良い、佳代ちゃんに
「バイクを買ったのはいいんだけど、一緒に走ってくれる人がいないんだ」
「美英さん、mixiやってみればいいのに」
「mixiって何?わたし面倒くさい事、苦手なんだけど」
「全然、面倒くさくないよ」
「そうなの?」
「美英さん、バイク友達が欲しいのならmixiのバイクのコミュニティーに入れば友達ができると思うよ」
「そうなんだ~!じゃあ、佳代ちゃんmixiのやり方、教えて」
そして、ここからわたしの人生が少しずつ変わっていくのでした・・・
佳代ちゃんからmixiのやり方を教わり、早速バイク関係のコミュニティーに参加してみました。
自分の写真とバイクの写真もプロフィールに載せてみました。
そう、両方良く撮れている写真をね。
すぐに同じバイク乗りの男性からメッセージを貰いました。
あの時、凄くドキドキしたのを今でも覚えています。
少しずつ、少しずつ、安定した生活というレールから外れ、刺激のある不安定な生活へとレールを変えて進んで行く。
そんな感覚に似ていました。
すべてが自分が望んだ事だったのだろうと今は痛感しています。
このまま歳をとっていくのは嫌だ。
また誰かに愛されたい。
女として見てもらいたい。
夫とはただの同居人。
わたしが本当に愛したのはこの男ではない・・・
mixiを面白半分で始めたわたしは、どんどんとネットの世界に入り込んで行きました。
会った事も話をした事もない、複数の男性と始めはネットを介して会話を楽しみ、アドレスを交換してメールで会話を楽しみ、しまいには会うようになっていきました。
これが出会い系だと言う事は後からわかりました。
同僚の佳代ちゃんに
「わたしね、今日、mixiで友達になった男の人に会うんだ」
「えっ!?美英さん、mixi始めてまだ一週間だよ、大丈夫なの?」
「うん!大丈夫だよ、その人ね、バイクで会いに来るって」
ドキドキしながら待ち合わせ場所に行ったのを今でも覚えています。
確か、20才くらい年下だったかな?
真面目そうな、いかにもモテなそうな男性だった。
2人でファミレスに入り、お茶をして帰り際に、その男性からアドレスを教えてほしいと言われ、断れずに嫌々教えたっけ。
一度経験すると、あとはもうどうってことなくなり、次々と男性と会い、一緒にツーリングを楽しむようになりました。
でも、今、思うとね。
あの人に出逢うために、
あの人に見つけてもらうために、
出会いを繰り返していたのかもしれないって、今はそんな気がしてならないんです。
そして、わたしは自分のバイクコミュニティーを立ち上げました。
メンバーが70人になった時に、あの人がわたしの前に現れたのです・・・
出逢いは、時が熟した頃にわたしの前に忽然と姿を現した。
わたしが管理人を務めるコミュニティーで企画したツーリングに竜が参加してくれたのがきっかけでした。
竜の印象ですか?
そうね、何処にでもいるオジサンでした。
服装もシンプルで、目立った物と言えば手作りのシルバーのネックレスだけ。
太いチェーンの真ん中にドクロが一つ付いているシンプルだけど、
凄みのあるネックレス。
「ネックレス、カッコいいですね?」
「これですか、手作りなんですよ」
「へぇ~~、器用なんですね」
「完成するまでに一カ月かかったんですよ、手が傷だらけになりましたよ」
「そんなにですか?わたしにも作って下さいよ」
「あはは」
人が良さそうで落ち着いた雰囲気の大人の男性。
この何処にでもいるようなオジサンがわたしの大切な人になるとは・・・。
この時には夢にも思わなかったんです。
口数も少なく、だからと言って暗い感じではなく、立ち寄った道の駅で物凄く長いロールケーキをお土産に買って帰る、良いお父さん?旦那さん?なんだなと思い、竜をなんの感情もなく眺めていたわたし。
わたしは無事に家に帰ると自分の企画したツーリングの記事を書いたり、次の企画を考えたりと管理人としての自分のあり方などを色々と考えながら、心地よい疲れと満足感と共に深い眠りについていきました。
さて、今度はキャンプの企画でもしようかな・・・
ツーリングの企画は何度もしていましたが、キャンプの企画は一度もした事がありませんでした。
メンバーの中には、キャンプに詳しい人もいて、その人に力になってもらい、キャンプを企画する事になりました。
キャンプは真冬の2月に行いました。
「寒中キャンプ」と名付けて参加者を募り、竜も参加してくれました。
10人のバイカーが各々にテントを張り、協力し合って料理を作り、お酒を飲み、極寒の中楽しく過ごしました。
わたしは管理人として、竜にキャンプへの参加をお願いしたのですが、
彼は違ったとらえ方をしたようで、気がつくとわたしの隣にいました。
周りのメンバーも美英さんの彼?みたいな感じになっていました。
ぜんぜん違うんですけど・・・。
夜も遅くなり宴も盛り上がった頃に、わたしはトイレに行きたくなりました。
「ちょっとトイレに行ってくる」
すると、竜も
「俺も・・・」
2人でトイレに向かって歩いていると、竜がいきなりわたしの手を握ってきました。
(え~~~っ!?ナニナニ?)
わたしは、どうする事も出来ずに大人しく手を繋がれて、
雰囲気もクソもない(クソはあるか)トイレまでの道のりを黙って歩きました。
わたしは反省しました、竜は勘違いしてしまったんです、わたしがあやふやな態度をとるものだから。
キャンプの朝、1人も凍死せずに朝を迎える事が出来ました。
竜が眠たそうな顔をしてわたしのテントに近づいてきました。
「おはよう美英さん、よく眠れた?」
「あんまり眠れなかったよ、熟睡したら死ぬかと思ったからさ」
「あはは~、俺も。俺さ、これから仕事だから先に帰るよ」
「うん、わかった、キャンプ参加してくれてありがとね、お酒の差し入れもありがとね」
「また、メールするよ」
わたしは、竜を駐車場まで送りに行きました。
2人で肩を並べて歩く。
冬の朝の空気は澄んでいてキラキラとしていた。
「それじゃ、またね」
「うん、またね」
竜が顔を近づけてきたので、わたしはとっさに顔を背けました。
沈黙が流れました。
竜はバイクに跨ると、わたしに後ろに乗れよって合図をしました。
わたしはためらわずにバイクの後ろに乗り、竜の腰に手を回しました。
竜はバイクをゆっくりと走らせました。
少しずつ、少しずつ、竜がわたしの心の中に入ってくる。
竜の一途な愛が入ってくる。
後戻りできなくなっていく。
運命の歯車が回り出した。
ゆっくり、ゆっくりと。