たどり着いた場所は貴方の胸の中

2章( 1 / 6 )

狂気

竜と付き合いだしてから、奥さんの存在を意識した事がありませんでした。

竜とは好きな時にメールも出来たし、好きな時に電話も出来た、
デートも週2回、外泊も月1回出来きました。

とにかく奥さんの事で、わたしが我慢をすることは何一つありませんでした。

竜と一緒に暮らしている女性は竜の子供を産んだだけの人。

でも、竜の子供を産んだという決定的な事実は、わたしを落胆させた。
若ければ竜の子供も産めたであろう。
50を過ぎた女には逆立ちしたって産めやしない・・・それが現実だった。

子は鎹(かすがい)まさしくその通りの夫婦。

「子供がいなかったら、とっくに嫁とは別れてたよ、俺は子供のために離婚しなかった、子供には母親が必要だから」

竜の奥さんは子供が私学の幼稚園に通うようになると見栄を張る為にブランドの子供服や自分の服、バッグや靴を買い漁るようになっていった、竜から生活費しか貰っていなかったのに。

奥さんは竜に内緒でサラ金からお金を借りることになる。

少しでも裕福に見られたい
少しでもセレブに見られたい

そしてお金を返せなくなると、また次のサラ金でお金を借りる、
雪だるま式に借金が増えていく。

竜は奥さんが借金していることなど、つゆ知らず、父親の会社に就職し社長から指導を受け、次期社長になる為に仕事を覚えている大切な時期でした。

そう、妻子を養うために。

奥さんが借金を繰り返していることが、竜の耳に入ったのは竜の会社にサラ金会社から連絡が入ってからでした。

「サラ金会社から連絡がきた時、金額を聞いて目の前が真っ暗になった、嫁の作った借金は1000万円近くだったから」

竜は家に帰り、借金のことで奥さんを問い正しました。

借金の取り立ての電話などで、精神状態が不安定になっていた奥さんは逆ギレし、キッチンから包丁を持ち出し、
今にも竜を刺そうとする勢いでした、娘の安奈も近くにいたので、
とにかく奥さんを落ち着かせなければいけない。

そこで竜のとった行動とは・・・




2章( 2 / 6 )

崩壊

嫁は包丁を握りしめ、目は何処を見ているのかわからなかった。
体は小刻みに震えている。
泣きはらした顔が哀れだった。

女と知り合ったのは、俺の通っていた大学と女の通っていた短大が近くで、
学園祭の時に俺が女をナンパしたんだった。
俺はサークルでロックバンドをやっていた。
女もロックが好きだった、目をキラキラと輝かせて俺たちの演奏を聴いていた。

女とはいつの間にか付き合っていた。

告白をした覚えはない・・・

大学生の俺はバンド活動に燃えていた。
プロになろうと思っていた。
そう、女よりバンド命だった。

女は先に短大を卒業し社会人になった。

貧乏学生の俺は女にタバコやライブのチケットを買ってもらい、
ディープパープルやホワイトスネークを女の金で観に行った。
当時は女に金を出してもらうのが当たり前だった。

そうこうしているうちに、プロを目指したバンド活動も、
メンバーの1人が辞める事になり、泣く泣く解散となってしまった。

そして俺のプロになりたいと言う夢はあっけなく終わった。

バンドの夢が無くなった時、俺に残ったモノは女だけだった。

バンドを解散し、夢を諦めた俺は親父の会社で働くようになった。

周りの同級生達が次々と結婚して行く。

俺もそろそろ結婚するかな・・・

3年間付き合ってきた、この女と。

当時、女は個性的だった、だが今思うとそれはただの変わり者だった。



目の前で包丁を握りしめ、震えているこの女は?

本当に俺の愛した女なのか?

とにかくこの場は娘の安奈を守らなければ・・・



俺は嫁に対し、両手を大きく広げた。

「刺したいのなら刺せ、それでお前の気が済むのなら、
その代わり安奈には手出しするな、この子を道連れにしないでくれ、
お前の事も・・・俺が守る・・・」

嫁はその場に泣き崩れた。



俺はしっかりと握られている包丁を女の手から外した。


俺の心から、女の存在が消えた。


俺の愛した女は、もういない。


娘の為だけにこの女と暮らしていこう。


俺には必要のないこの女と。





2章( 3 / 6 )

形だけの夫婦

そう、俺はあの時、離婚をし嫁を追い出す事もできた。


安奈の前で取り乱し、包丁を持ち出した女だ。


だが、安奈には母親が必要だと言う事も痛いほどわかっていた。


嫁の作った借金は俺と俺の親、女の親とで出し合いどうにか返す事が出来た。


俺は夢の実現の為に溜めていた600万円を娘の幸せの為に潔く使った、
そのことで後悔はなかった。


そして借金のあと俺たちはセックスレスになった、
裏切られたショックで嫁を抱けなくなったのだ。


親の都合で安奈を1人っ子にしてしまった。


それでも俺たちは安奈の前では普通の夫婦を演じ続けた。


そして月日は流れ、安奈は26才になった。


普通なら自立できるであろう年齢だが、生意気な事を言う割には、
傷つきやすく難しい性格の娘に成長してしまった。


ついつい夫婦仲が悪いという負い目もあるので、安奈の言う事はなんでも聞いてしまった、
夫婦関係は失敗したが、親子関係はどうにか上手くいったように思えた。


俺は、嫁を抱かない代わりに外に彼女を作った。
まだ30代前半で性欲もあった。
人を愛したかったし、愛されたかった。


正直、浮気していると言う感覚も無かった。
父親の役目は果たしたが、夫の役目は皆無だった。
嫁に対しての罪悪感も無かった。
そこまで俺達の関係は冷え切ってしまっていたのだ。


自分で言うのもなんだが、俺は真面目な人間だと思っている。


世の中の善悪もわかっているつもりだ。


一生懸命働いて家族を養ってきたし、娘の相談にも乗った。
両親が困れば助けてきたし、会社を経営し従業員の生活の為にも頑張ってきた。


これで夫婦円満だったら俺の人生は100点満点だったはずだ。


いや、今からでも遅くないのか?


嫁とはやり直しが出来ないのはわかってる、だったら探せばいいんだ、心から愛せる女を。


そしてやっと見つけ出した女は・・・美英。


どこが良いのかと聞かれると応える事ができない、だが不思議な女だった。


心から愛せる女と出逢えた俺は52歳になっていた。




2章( 4 / 6 )

存在

竜の奥さんの事なんか知りたくもなかった。


でも、ある事がきっかけで奥さんのブログを見つけてしまったのだ。


それはいとも簡単に見つける事ができた。


まるで見てくれと言わんばかりに。


ブログは4年前からの平凡な生活を綴ったものだった。


家族の事、仕事の事、趣味の事が書かれてありました。


わたしと付き合い始めたばかりの竜の様子も書かれていました。


「毎週、毎週、ダンナは楽しそうに出かけて行きます、いい気なもんです」


奥さんのブログを読んだ時、鳥肌が立ちました、ゾクゾクゾクゾク。


(あんたのダンナはね、わたしと会ってたのよ、わたしを思いっきり愛してくれてたの)


まさか自分のブログがダンナの愛人に読まれてるとはつゆ知らず・・・


奥さんの印象ですか?


良い人なんじゃないのかな?


ブロ友も沢山いるみたいだし、


でも女としては終わってる感じがしました。


ブログを読んでて気になったのは使われている画像が暗かったって事かな、
何が?って聞かれても上手く説明が出来ないんだけど、
暗い沼の底に漂ってる女が想像できてしまったのだ。


明るい記事を書いてるのに、心の奥の暗さを感じた。


「ねぇ~、竜の奥さんって性格暗くない?」


「知らね~よ、興味ね~から」


(竜が奥さんに対して冷たいから、性格暗くなっちゃったのかな?可哀想に)


この頃はまだ竜には話してなかった、わたしが奥さんのブログを読んでるという事実を。


ブログを読むようになってから心が波立って仕方がなかった。


奥さんの写真をぼんやりと眺め、


(いなくなれ、竜の傍からいなくなれ)


竜に忠告をした。


「早く奥さんと離婚した方がいいよ、じゃないと奥さんの命縮んじゃうかもよ」


「えっ!?」


「わたしね、奥さんのブログ見つけちゃってね、なかなか面白いブログだよ、
竜は読んだ事ある?」


「・・・・」


「やめろよ」


「何が?」


「ブログなんか読むな、なに考えてるんだ?信じられね~」


「だったらブログなんか辞めさせたら?可哀想で見てられないね、
サレ妻のくせに幸せそうな記事書いてさ、なにが家族仲良くしてます、ですか?
ダンナは愛人の上で腰振ってるのに?どこが家族仲良しなんですか?」


「もうブログの話はするな、俺と別れたいのか?」


「やだ、別れたくない、もうしません、ブログの話は・・・」


(竜の事は絶対に離さないんだから、返してあげないんだから)





yukinko
作家:yukinko
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