たどり着いた場所は貴方の胸の中

2章( 3 / 6 )

形だけの夫婦

そう、俺はあの時、離婚をし嫁を追い出す事もできた。


安奈の前で取り乱し、包丁を持ち出した女だ。


だが、安奈には母親が必要だと言う事も痛いほどわかっていた。


嫁の作った借金は俺と俺の親、女の親とで出し合いどうにか返す事が出来た。


俺は夢の実現の為に溜めていた600万円を娘の幸せの為に潔く使った、
そのことで後悔はなかった。


そして借金のあと俺たちはセックスレスになった、
裏切られたショックで嫁を抱けなくなったのだ。


親の都合で安奈を1人っ子にしてしまった。


それでも俺たちは安奈の前では普通の夫婦を演じ続けた。


そして月日は流れ、安奈は26才になった。


普通なら自立できるであろう年齢だが、生意気な事を言う割には、
傷つきやすく難しい性格の娘に成長してしまった。


ついつい夫婦仲が悪いという負い目もあるので、安奈の言う事はなんでも聞いてしまった、
夫婦関係は失敗したが、親子関係はどうにか上手くいったように思えた。


俺は、嫁を抱かない代わりに外に彼女を作った。
まだ30代前半で性欲もあった。
人を愛したかったし、愛されたかった。


正直、浮気していると言う感覚も無かった。
父親の役目は果たしたが、夫の役目は皆無だった。
嫁に対しての罪悪感も無かった。
そこまで俺達の関係は冷え切ってしまっていたのだ。


自分で言うのもなんだが、俺は真面目な人間だと思っている。


世の中の善悪もわかっているつもりだ。


一生懸命働いて家族を養ってきたし、娘の相談にも乗った。
両親が困れば助けてきたし、会社を経営し従業員の生活の為にも頑張ってきた。


これで夫婦円満だったら俺の人生は100点満点だったはずだ。


いや、今からでも遅くないのか?


嫁とはやり直しが出来ないのはわかってる、だったら探せばいいんだ、心から愛せる女を。


そしてやっと見つけ出した女は・・・美英。


どこが良いのかと聞かれると応える事ができない、だが不思議な女だった。


心から愛せる女と出逢えた俺は52歳になっていた。




2章( 4 / 6 )

存在

竜の奥さんの事なんか知りたくもなかった。


でも、ある事がきっかけで奥さんのブログを見つけてしまったのだ。


それはいとも簡単に見つける事ができた。


まるで見てくれと言わんばかりに。


ブログは4年前からの平凡な生活を綴ったものだった。


家族の事、仕事の事、趣味の事が書かれてありました。


わたしと付き合い始めたばかりの竜の様子も書かれていました。


「毎週、毎週、ダンナは楽しそうに出かけて行きます、いい気なもんです」


奥さんのブログを読んだ時、鳥肌が立ちました、ゾクゾクゾクゾク。


(あんたのダンナはね、わたしと会ってたのよ、わたしを思いっきり愛してくれてたの)


まさか自分のブログがダンナの愛人に読まれてるとはつゆ知らず・・・


奥さんの印象ですか?


良い人なんじゃないのかな?


ブロ友も沢山いるみたいだし、


でも女としては終わってる感じがしました。


ブログを読んでて気になったのは使われている画像が暗かったって事かな、
何が?って聞かれても上手く説明が出来ないんだけど、
暗い沼の底に漂ってる女が想像できてしまったのだ。


明るい記事を書いてるのに、心の奥の暗さを感じた。


「ねぇ~、竜の奥さんって性格暗くない?」


「知らね~よ、興味ね~から」


(竜が奥さんに対して冷たいから、性格暗くなっちゃったのかな?可哀想に)


この頃はまだ竜には話してなかった、わたしが奥さんのブログを読んでるという事実を。


ブログを読むようになってから心が波立って仕方がなかった。


奥さんの写真をぼんやりと眺め、


(いなくなれ、竜の傍からいなくなれ)


竜に忠告をした。


「早く奥さんと離婚した方がいいよ、じゃないと奥さんの命縮んじゃうかもよ」


「えっ!?」


「わたしね、奥さんのブログ見つけちゃってね、なかなか面白いブログだよ、
竜は読んだ事ある?」


「・・・・」


「やめろよ」


「何が?」


「ブログなんか読むな、なに考えてるんだ?信じられね~」


「だったらブログなんか辞めさせたら?可哀想で見てられないね、
サレ妻のくせに幸せそうな記事書いてさ、なにが家族仲良くしてます、ですか?
ダンナは愛人の上で腰振ってるのに?どこが家族仲良しなんですか?」


「もうブログの話はするな、俺と別れたいのか?」


「やだ、別れたくない、もうしません、ブログの話は・・・」


(竜の事は絶対に離さないんだから、返してあげないんだから)





2章( 5 / 6 )

苦悩

欲求不満は日を追うごとに速度をあげた。


竜を独り占めできないもどかしさ。


なんで妻子持ちなんか好きになってしまったんだろう?


独占欲が人一倍強いわたしなのに?


正しい判断が出来なくなっている。


わたしも妻であり、母なのに。


このまま破滅の道を歩むのだろうか?


それもまた一つの人生なのか?


冷静に考えてみたら、奥さんを嫌う理由がみつからなかったのだ。


見えない敵にパンチを繰り出してるような気になって仕方なかった。


そう、会った事も話した事もない相手を嫌いになるなんて馬鹿げてるような気がしてきて、
わたしは大胆な行動に出ました。


自分から奥さんのブログに近づいたのです。


「はじめまして、いつもブログ楽しく読ませて頂いてます」


「ありがとうございます、年齢が近い方からのコメントとても嬉しいです」


(なにが嬉しいんだか?あんたの棒姉妹なんだよ、わたしは)


少しだけ会話してみてわかった事は奥さんとわたしは同じ男を愛したと言う事だけだった。


「ねぇ、竜?もしわたしが竜の奥さんと違う形で知り合えてたら友達になれたかな?」


「友達?100%無理だね、アイツと美英は絶対に合わねえよ」


奥さんが楽しそうに記事を書いているのをみているうちに、
わたしもブログを書いてみたくなりました。


それもただ書くだけではなく、内容を見せる為にね。


奥さんがわたしのブログに訪問できるように、幾重にも伏線を張り巡らせました。


そして来た事がわかるようにアクセス解析をブログに設置したのです。


飛んで火にいる秋のブタ。


案の定、それらしい人物が現れました。


そのアクセス数は気持ちが悪くなるほどの多さで、


女の執念を酷く感じました。


ブロガーの中には、わたしの事を奥さんに知らせる暇人もいました。


人の不幸は蜜の味なんでしょうね?


わたしは竜に内緒でブログをコソコソと書きました。


世の中には別れたくても別れられない夫婦が何組いるのだろう?


憎しみ合いながらも別れられない夫婦が何組いるんだろう?


子供の為だけに別れられない夫婦が何組いるんだろう?



2章( 6 / 6 )

苛立ち

竜の奥さんがわたしのブログに訪問するようになって一週間が経ちました。


わたしと友人とでランチをしていた時に竜から電話が入りました。


珍しいなと思いました。


「もしもし?」


「美英、ブログやってるのか?」


沈んだ声で竜が訪ねてきた。


(もうバレたのか、早いな)


「うん、やってるよ」


「・・・・」


「それがどうしたの?」


平静を装い訪ね返した。


「嫁が美英のブログを見つけて騒いでるんだよ」


(ああ、知ってるよ)


「ふぅ~~ん、それで?」


「すぐにブログ辞めてくれ、なんでこんな事をわざわざするんだ?
俺たちの関係を壊したいのか?」


「今はランチ中だから退会できないけど、家に帰って退会すればいいんでしょ?」


「ああ、そうしてくれ」


友人が心配してたので事情を説明すると、


「美英さんは熱いよね~、わたしなんか情熱を燃やすものなんか何もないからさ~」


「そうだよね~、年甲斐もなく、自分でもよくやるよって思ってるよ」


ランチを終え家に帰り、早速ブログの退会手続きを済ませた。


面白くなかった。

 

記事を一つ一つ消去しながらムカムカしていた。

 

竜との思い出が消えていく。


なんでわたしだけがブログを辞めなくちゃならないの?


日陰の身だから?


大手を振って陽を浴びてる奥さんが憎くて仕方なかった。


(いなくなれ、竜のそばから)


わたしはやり場のない怒りを竜にぶつけるようになっていきました。


こんなに嫌な女にさせたのは竜のせいなんだから。


「早く家から追い出してよ、あんな女」


「早く離婚してよ、いつまでわたしを待たせる気なの?」


「・・・・・」


「もう辞めてくれ、俺を傷つけて、俺を攻撃して何が楽しいんだ?」


「アンタ約束したよね?わたしを幸せにするって、わたしに言ったよね?」


竜は黙ったまま何も言わなくなってしまった。


わたしは今まで誰にも心を開けなかった。


心を開いて傷つくのが怖かったからだ。


そんなわたしの心を開いてしまった竜。


もう竜を失う事はできない。


竜はわたしの体の一部なのだ。


そう、失えば生きてはいけない。


わたしはどうしたらいいのだろう。


もう後戻りは出来ない。


このまま進むしかない。


自分のブログは仕方なく辞めたが、奥さんのブログはコソコソと読みにいってた、だが、
ある日を境に更新さえれなくなっていた。


どうしたんだろう?


嫌いなヤツなのに気になって仕方がなかった。


竜に尋ねて怖くなった。


それって、わたしのせいなの?



yukinko
作家:yukinko
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