まずは必要な動物病院だが、移送できる範囲では規模の小さいものばかりであったので、ある程度の大きさの建物をそばに確保する必要があった。ジューンは小さな平べったい箱の画面に向かい、両手を細かく動かして作業をしている。英子が見ていると、ときどきこちらを向いて歯を見せた。
「英子ちゃん、ちょっと待っててね。あなたたち夫婦の住まいを見つけてあげるから。条件は、と、まず広いこと、頑丈なこと、日当たりがよくしかも樹木に囲まれていること、外から観察できること、もちろん必要なときによ。やっぱり、この保護区のこんな施設かな。元気になったら動物園という手もあるけど」
英子は、グフと声を出した。あなたの気持ちを認識したという合図である。
「やっぱり森に帰るのが一番に決まってるわよね。でもあそこの人たち、少しの違いを気にして戦ってばかりいるし、両方に武器を売って儲けることしか考えない死の商人がいる。こいつらが最低なのよ。ほんとに殺してやりたいわ」
ジューンはまた人間の本性丸出しの言葉を使った。
英子はジューンの敵意を感じて、唸った。
しばらく忙しいやりとりのあと、英子は何かが解決したことを理解した。
「検索したらね、もうこれが唯一の可能性なのよ。この施設以外はありえないの。ここにいく運命だったかのように。隆、聞いてる?これ以外ないってものを私確保したからね」
「わかってる。ああ、なるほど、ちょうど文句なしだね。で、いつにするか、だ。次の決定は」
「それにどういう手段で、よね、重要な問題は」
時期はできるだけ早く、であり、手段はといえば、飛行機は速いが無理という最初の関門があった。飛行機に乗ることは気圧の変化のせいで心臓発作の危険性があり、なによりも入り口が狭すぎて檻を入れることができない。トラックではストレスがかかりすぎる。首都までの列車で運ぶには線路が今いる地域まで伸びていなかった。
「民主主義もいい加減だけど、つまり悪を完全に排除できないけど、確かに民主的な政府は必要だね。あの小さな部族間抗争をやるかわりに全員で鉄道を敷く仕事をしたらよさそうにと僕は思うね」
「そうだけど、まずは水や穀物、学校、そして協力を理解していくのでしょ。文明国からの偏りのない無償の援助が少なすぎるわ」
「そうだけどさ、余り援助すると彼らから自分たちのやる力を忘れさせてしまうから、それも考えないとね」
英子はシルバーバックを見た。少しグルーミングしてやろうかと寄っていくが、余りの機嫌の悪さに恐れをなす。瞳がぎらぎらして、低く不満げに呻いていた。どこか苦しいらしかった。折の中の動きを観察していた隆は、あわてたように声を高くしていった。
「よし、もうこれしかない。あさって。僕らも準備して駅のある町までトラック、そこから列車という順番でちょうど手はずが決まりそうだ。もう一度ネットで確認して確定だ。手術はその二日後でとれるかな。弾の摘出は問題ないんだが」