その時、マットたちが何かを企んでいるとはノミの耳垢ほども知らずにいた。
先生は不屈の精神力で立ち直ったらしく、今度は全員に向かって話し始めた。
「さて、これで今学年の終業となり春の休暇に入りますが、各自自主訓練を怠らないようにしてください。特に成績の伸びなかった生徒は更なる努力をして、来学年度に備えてください。また、ギルドでのアルバイトなどをして経験を積むのも良いでしょう。ただし、怪我や病気にはくれぐれも注意してください。それからご父兄の方々にはもう既に成績表の写しが届けられています。成績を誤魔化して伝えても無駄ですよ。ウィズ!」
僕は笑いの天才か?なんて思いながら教室中の笑いを独り占めにしていた。
「では皆さんごきげんよう」と言い、先生は教室を出て行かれた。
僕も鞄を持ち、人の波に習って教室を後にし、校門まで出てきた。
「ウィズ!」の呼び声と共に、一人の片方の目だけメガネをかけた紅いローブの女の子が僕に近づいてきた。そう、彼女こそはもう一人の幼馴染みアリシア・ベーカーだ。魔法が使えない幼年期まではよくアリシアとマットと僕と三人で昆虫採集をして遊んだりしていたっけ。
「ウィズ、成績表を見せなよ。これ私の。」と唐突に言ってアリシアは成績表を僕の鞄の中から取り出し、自分のを僕に押し付けた。
「うひょ~っ、しかし見事な成績だわ。0をコレクションしているみたいだね。」
と言ってアリシアは僕の駄洒落でも聞いたみたいに笑った。そう、僕の駄洒落は面白い?じゃなかったね。
そう、これが僕の成績表さ。
【魔法力】
「攻撃系」 九
「防御系」 十五
「回復系」 八
【魔法使用回数】
「攻撃系」
ファイアボール 0
ファイアアロー 0
アイスカッター 0
アイスシャワー 0
サンダーボルト 一
サンダーレイン 0
ウインドランス 0
ウインドブレード 0
ポイズンショット 0
ポイズンダスト 0
「防御系」
ファイアウォール 0
アイスウォール 0
ウインドウォール 0
ムーブエレメント 三
「回復系」
ヒール 三
ヒールオール 0
キュア 一
キュアオール 0
見事でしょ?なぜだか理由は解らないけど良家の血を受け継がなかったみたいなんだ。
「もう既に弟に越されているんじゃないの?」と言ってアリシアは僕をからかった。
「そうかもね。あいつは良家の父をたま~に飲んでいるからね。」
「そりゃ乳違いのダサい駄洒落のつもり?」とアリシアらしい心地よいツッコミが返って来る。
「血だよ血。親父の血をたまに飲ませてもらっているらしいのさ。ドラキュラの家庭だからね。」と言うとアリシアは恋愛ドラマの男女関係より複雑な顔をした。そして少し悪戯っぽく、
「じゃあ、ウィズは誰かの血を飲みたくなったときはどんな風に処理しているのかな?」と言うので、
「勿論、極上のトマトジュースを飲んでいるよ。だからこの通りさ。」と言って成績表を振って見せた。
その時何かが手をかすめ、僕の成績表をさらって行った。
「そうだろうな。お前の血はトマトジュースだろうさ。でなきゃここまで悪い成績のはずがないからな。そうだろ、ドラクル伯爵さんよ。」と言ってマットが取り巻きと共に現れた。その手には僕の成績表が握られている。