思いがけない経営のヒント、コツ

本は最初から読むが、経営は最後から読む

 「本は最初から読むが、経営は最後から読む」これはかなり以前に師匠である先輩コンサルタントから教えて頂いたことである。

 経営では、まず「何を目指すのか?」「目標は?」「どうなりたいのか?」「どうしたいのか?」があって、その実現のために何をするのか という思考が求められるのである。
この「どうなりたいのか?」「どうしたいのか?」は、いわゆる経営の「目的」となる。「手段の目的化」などと揶揄されることもあるが、しっかりとした目的意識を持ち続けることは以外に難しいものである。
経営のあらゆる場面で、この目的意識をしっかり持つことが、経営実務では一番大切ではないかと思うこともある。
 経営に正解はない。また何が良いかは目指すものによって異なる。経営者はそんな中で重要な経営判断を求められる。正解がないから、しっかりとした判断基準が必要である。この判断基準となる唯一のものが「どうなりたいのか?」「どうしたいのか?」という「目的」なのである。
 新しい設備の導入、新しい組織への変更、ITシステムの導入、人事処遇制度の改訂、原価計算制度の導入、業績管理システムの改善などなど、経営コンサルタントとして社長からアドバイスを求められることが多い。その場合にまず最初に社長にその設備などを導入して「どうしたいのか?」の目的をまず伺う。その目的が分かれば、より効率的に、効果的にするためには、どんな設備が良くて、それをどう活用するのが良いかは、私の無い頭を絞ればなんとか目的に沿ったやり方がアドバイスできるものである。もし、社長がその目的が不明確であったら、まず、目的を明確にしない限りは設備投資自体を考え直すようにアドバイスする。

 「経営は逆算である」。このことは、常に頭に置いておく必要がある言葉であると思う。

成果を決める3つの力とは

■成果を決める3つの力とは

経営における「成果」は、何によって決まるのか。成果は主に以下の3つの力で決まるのではないかと考えている。
 ①何を行うか
 ②どう行うか
 ③どうレベルアップするか
 すなわち、
成果=①何をするか(戦略力)×②どうやるか(実行力)×③どうレベルアップするか(マネジメント力)
である。
「①何をするか」とは、マーケティング戦略が成果に大きく影響するということである。どのような事業エリアを選択するのか、どのような顧客市場を選択するのかということである。企業の経営資源は有限であるから、最も成果の上がる可能性の高い事業エリアを選択し、そこに経営資源を重点投入することが成果を出すために重要である。そして、その市場でどのような経営活動を行うかの事業戦略(仮説)の構築が成果に大きく影響する。
次に「②どうやるか」とは、成果は実行しないと出ないという当たり前のことである。いかに早く実行するか、いかにうまく実行するか である。戦略と言っても、特別なウルトラCがあるわけではない。やるべきことはだいたい社内で分かっているのだが、「実行できていない」、だから「成果が出ない」というケースは多いのではないか。実行できない理由は、部門ごとのセクショナリズムや人間関係に起因するケースが多い。もったいない話である。また、実行する人材、能力が不足するケースもある。実行しながら能力をつけて行くしかない。
 最後に「③どうレベルアップするか」である。戦略を立て、実行しても、ます最初からうまく成果が出るケースはない。「なんでも最初はうまく行かない」ことを肝に銘じる必要がある。いかに戦略や実行力があっても最初はうまくいかないと思って、常に改善していくこと、PDCAのマネジメント力が不可欠なのである。マネジメントは「管理」ではない。成果を出すための「事業活動そのもの」である。

事業戦略の実行にあたっての組織に特有のジレンマ

 組織による経営戦略の実行体制の問題は、本質的に非常に根深いものであり、どんな企業でも「常に」存在する問題である。世の中のすべての企業は、自社の「経営環境の変化」へ対応した事業戦略の策定と実行によりはじめて存続、成長が図られるものである。
 一方、「企業は人なり」と言われるように、事業を行うのは「組織」「人」である。実は「組織」「人」は、本質的には慣れ親しんだ環境を好む。すなわち「安定」を求め「変化」を嫌う傾向があるのである。その「経営環境変化のための経営戦略」と実行者である「安定を求め変化を嫌う組織」「人」との構造的な「ギャップ」、「ジレンマ」は多くの企業で、どんな時も見られる重要かつ深刻な「経営課題」であることが多い。
 また、機能別組織によく見られるが、いわゆる「セクショナリズム」の問題もある。組織の指揮命令系統は、上下へ「タテ」に流れるが、実際の会社の業務は、開発⇒製造⇒販売などのように部門を「ヨコ」に流れる。各部門長は、自分の担当部門への責任感があればあるほど、自部門の利益をどうしても優先してしまう傾向がある。ある意味まじめな責任感のある部門長ほど、この傾向があるかもしれない。
 全社的な利益が大切で、全部門が協力して業績向上に努力しなければならないと頭では分かっていても、まず自分のやるべきことをしっかりやろうと考えれば、人間はどうしても自部門の都合を優先してしまうことになるのである。これが、製造と販売との部門最適優先の問題、セクショナリズムの問題となってしまう傾向があるのである。これも、どこの組織にも見られる、本質的に非常に根深い、構造的な問題であると考える。
 こういったある意味避けられない構造的な組織マネジメント上の問題については、一気に解決する万能薬はなく、やはり効率重視の機能別の組織を避け、変化対応重視の事業部制とすることが大切であろう。しかし、事業部制の中でもセクショナリズムが発生する余地はある。したがって、そのようになりやすいということを強く意識して、常にそうならないように修正をかけていくしかないのではと考える。

在庫は人間関係を表わすものである

 事業を行っていると通常は、在庫を持った商売を行うことが多い。在庫は、お金が商品在庫に変わったものであるが、資金負担や陳腐化リスクなどがあり、できるだけ早めに販売して利益を加えて現金化したいものである。「在庫削減」は、ほとんどどの企業でも常に重要な課題の一つに挙げられる根の深いテーマである。
製造業の場合に、製品を作る部門(工場)と販売する部門(営業)とは異なる。
工場はできるだけ効率的に製造しようと思えば一度に同じ製品を大量に製造したいと考える。少品種大量生産が望ましい。
一方、営業は、得意先が、多品種の製品を望み、かつできるだけ在庫資金負担、在庫リスクを避けるためジャストインタイムでの納品を望むから、多品種少量ずつの販売になりやすい。
ここに、製造の効率化の考え方と販売の顧客対応の考え方のギャップが生まれる。一定の在庫はしかたないが、このギャップをうまく調整しないと「在庫過多」や「欠品」ということになる。これらはまさに事業における「ロス」であるから最小化したい。よく製販会議を行って、販売計画に合わせた生産計画を作ろうとしているが、販売計画はいつも変更されるから、工場側では、それにあわせて生産計画を見直すが、「どうせ変更される販売計画」に準じて生産計画を組むことがダンダンとその意義を感じさせなくなってしまう。その結果、販売計画と生産計画にズレが恒常的に発生して、欠品リスクをおさえるため、在庫を多めに持つようになる。原料調達から生産、販売、顧客側でも欠品リスクを考えて、少しずつ多めに在庫を持つようになる。そして、資金負担や在庫の陳腐化リスクなどの問題がいつまで経っても解決されないのである。
この問題の根源は、販売と製造の活動特性と情報コミュニケーションの問題である。効率化を求める製造部門であるが、販売あっての事業であるから、やはり販売に合わせた一定の枠内で効率化を目指すことが重要である。そして、その合わせるべき販売計画は工場の事情も考えて、一定の信頼性を確保できるものである必要がある。お互いの事情を思いやることが大切である。
製造業で、営業部長と工場長はなかなか意見がかみ合わず、陰でお互いの悪口を言いあっているケースも多い。上がそうであると中間幹部層、現場社員同士もなんとなくお互いが反目して、「営業が売ってくれないから」、「製造が売れる製品を作ってくれないから」などと不満をお互い言い続ける日々の会社も多い。
製造業以外でも、小売業では、本部バイヤーと店長、卸でも仕入れる商品部と営業部などで同様の雰囲気を持つケースが多い。
在庫は、このコミュニケーションの良否を表わすものであり、もっと分かりやすく言えば、工場長と営業部長、バイヤーと店長、商品部と営業部 の人間関係の良否を表わすものであるとも言える。在庫の問題の根っこにはこの人間関係の問題があるからなかなか根深いのである。この認識を持てば、職場での意思疎通、コミュニケーションを改善し、その具体的な成果を在庫削減という目に見えるもので図ることができるのである。
鍵谷英二
思いがけない経営のヒント、コツ
0
  • 0円
  • ダウンロード

2 / 11

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント