思いがけない経営のヒント、コツ

経営は「科学」か 「アート」か

経営は「科学」か「アート」か と言われることがある。これについて考えてみたい。
私は経営コンサルタントである。経営コンサルタントは企業ドクターと呼ばれるケースもある。そのような場合に同じような専門職としてよく連想されるのは、医者と弁護士である。医者や弁護士の世界もいろいろ個人差があるであろうが、科学や論理で説明の付く部分が大部分ではないかと感じている。ただし、すべてが科学や論理で説明が付くというわけではないであろう。
経営は科学かアートかと言われる意味は何であろうか?。それは、論理で説明がつく「科学」の部分と、説明のつかない「アート」の部分があり、医療や法律の世界と比べると、この「アート」の部分がやや大きいと言われているのであろう。
さて、それはそれとして、実際の経営の現場では、この「科学」と「アート」の部分をどう折り合いを付けてやっていくかということが大事になる。
経営には絶対的な正解はない。なぜなら変化の激しい世の中で将来の成功を事前に正しい正解を導くことは神でないので、どんな優れた経営者でもできない。これが経営を「アート」と言わせる大きな理由である。
但し、論理的にやるべきこと(=事業戦略)を考えないと将来の事業での成功確率を上げることはできない。外部経営環境を分析し論理的に考えて、いかにチャンスを活かして成功確率を高めるか、自社の能力を分析し論理的に考えて、いかに強みを生かして成功確率を高めるか、そのことが重要である。これが経営における「科学」の部分である。
しかし、何でも新しいこと(=新しい事業戦略)をすれば、初めはうまく行かないことが多いのも事実である。うまくいかないからまた、やはり経営は「アート」と言われることになる。
そこで、最初からうまく行かないことは当たり前であると考えることが大切である。最初はうまく行かないから、PDCAを回しながら少しづつ改善し、成功につなげていくことで成功確率を高めて行くことが何より大切である。戦略が成果を出していくには一定の時間が必要であり、通常1~3年程度はかかることが多いのはこのためである。これは経営の「科学」の部分である。
上記のように、実際の経営では「アート」の部分と「科学」の部分の両方が混在しながら動いているというのが実態である。経営としては、確実にできることは、「科学」の部分であり、戦略立案に当たり分析フレームや基本戦略論などをうまく使って論理的に経営を行うことである。「アート」の部分は、なかなかコントロールすることができない。しかし、論理だけで成功と失敗が決まらない以上それを軽視することもできない。いわゆる直感で判断するとか、感性で判断するとか、カンが冴える、やってみないと分からない、運が大事だとかということも軽視できないのである。
 しかし、経営現場では、大きく独り勝ちすることより、確実に経営改善、業績改善、企業成長することが最も重要である。そこで、まず「科学」的に成功確率を高めることを徹底して、その上で「アート」の世界の力も許容するという姿勢で経営するしかないというのが、現時点での私の考えである。

本は最初から読むが、経営は最後から読む

 「本は最初から読むが、経営は最後から読む」これはかなり以前に師匠である先輩コンサルタントから教えて頂いたことである。

 経営では、まず「何を目指すのか?」「目標は?」「どうなりたいのか?」「どうしたいのか?」があって、その実現のために何をするのか という思考が求められるのである。
この「どうなりたいのか?」「どうしたいのか?」は、いわゆる経営の「目的」となる。「手段の目的化」などと揶揄されることもあるが、しっかりとした目的意識を持ち続けることは以外に難しいものである。
経営のあらゆる場面で、この目的意識をしっかり持つことが、経営実務では一番大切ではないかと思うこともある。
 経営に正解はない。また何が良いかは目指すものによって異なる。経営者はそんな中で重要な経営判断を求められる。正解がないから、しっかりとした判断基準が必要である。この判断基準となる唯一のものが「どうなりたいのか?」「どうしたいのか?」という「目的」なのである。
 新しい設備の導入、新しい組織への変更、ITシステムの導入、人事処遇制度の改訂、原価計算制度の導入、業績管理システムの改善などなど、経営コンサルタントとして社長からアドバイスを求められることが多い。その場合にまず最初に社長にその設備などを導入して「どうしたいのか?」の目的をまず伺う。その目的が分かれば、より効率的に、効果的にするためには、どんな設備が良くて、それをどう活用するのが良いかは、私の無い頭を絞ればなんとか目的に沿ったやり方がアドバイスできるものである。もし、社長がその目的が不明確であったら、まず、目的を明確にしない限りは設備投資自体を考え直すようにアドバイスする。

 「経営は逆算である」。このことは、常に頭に置いておく必要がある言葉であると思う。

成果を決める3つの力とは

■成果を決める3つの力とは

経営における「成果」は、何によって決まるのか。成果は主に以下の3つの力で決まるのではないかと考えている。
 ①何を行うか
 ②どう行うか
 ③どうレベルアップするか
 すなわち、
成果=①何をするか(戦略力)×②どうやるか(実行力)×③どうレベルアップするか(マネジメント力)
である。
「①何をするか」とは、マーケティング戦略が成果に大きく影響するということである。どのような事業エリアを選択するのか、どのような顧客市場を選択するのかということである。企業の経営資源は有限であるから、最も成果の上がる可能性の高い事業エリアを選択し、そこに経営資源を重点投入することが成果を出すために重要である。そして、その市場でどのような経営活動を行うかの事業戦略(仮説)の構築が成果に大きく影響する。
次に「②どうやるか」とは、成果は実行しないと出ないという当たり前のことである。いかに早く実行するか、いかにうまく実行するか である。戦略と言っても、特別なウルトラCがあるわけではない。やるべきことはだいたい社内で分かっているのだが、「実行できていない」、だから「成果が出ない」というケースは多いのではないか。実行できない理由は、部門ごとのセクショナリズムや人間関係に起因するケースが多い。もったいない話である。また、実行する人材、能力が不足するケースもある。実行しながら能力をつけて行くしかない。
 最後に「③どうレベルアップするか」である。戦略を立て、実行しても、ます最初からうまく成果が出るケースはない。「なんでも最初はうまく行かない」ことを肝に銘じる必要がある。いかに戦略や実行力があっても最初はうまくいかないと思って、常に改善していくこと、PDCAのマネジメント力が不可欠なのである。マネジメントは「管理」ではない。成果を出すための「事業活動そのもの」である。

事業戦略の実行にあたっての組織に特有のジレンマ

 組織による経営戦略の実行体制の問題は、本質的に非常に根深いものであり、どんな企業でも「常に」存在する問題である。世の中のすべての企業は、自社の「経営環境の変化」へ対応した事業戦略の策定と実行によりはじめて存続、成長が図られるものである。
 一方、「企業は人なり」と言われるように、事業を行うのは「組織」「人」である。実は「組織」「人」は、本質的には慣れ親しんだ環境を好む。すなわち「安定」を求め「変化」を嫌う傾向があるのである。その「経営環境変化のための経営戦略」と実行者である「安定を求め変化を嫌う組織」「人」との構造的な「ギャップ」、「ジレンマ」は多くの企業で、どんな時も見られる重要かつ深刻な「経営課題」であることが多い。
 また、機能別組織によく見られるが、いわゆる「セクショナリズム」の問題もある。組織の指揮命令系統は、上下へ「タテ」に流れるが、実際の会社の業務は、開発⇒製造⇒販売などのように部門を「ヨコ」に流れる。各部門長は、自分の担当部門への責任感があればあるほど、自部門の利益をどうしても優先してしまう傾向がある。ある意味まじめな責任感のある部門長ほど、この傾向があるかもしれない。
 全社的な利益が大切で、全部門が協力して業績向上に努力しなければならないと頭では分かっていても、まず自分のやるべきことをしっかりやろうと考えれば、人間はどうしても自部門の都合を優先してしまうことになるのである。これが、製造と販売との部門最適優先の問題、セクショナリズムの問題となってしまう傾向があるのである。これも、どこの組織にも見られる、本質的に非常に根深い、構造的な問題であると考える。
 こういったある意味避けられない構造的な組織マネジメント上の問題については、一気に解決する万能薬はなく、やはり効率重視の機能別の組織を避け、変化対応重視の事業部制とすることが大切であろう。しかし、事業部制の中でもセクショナリズムが発生する余地はある。したがって、そのようになりやすいということを強く意識して、常にそうならないように修正をかけていくしかないのではと考える。

鍵谷英二
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