カフェオレ・ライターのforkN出張エッセイ

その3( 13 / 16 )

【6月3日】

イケメンと同じセリフをネットでつぶやいてみたら、それは地雷だった


たまに佳境に入ったかのような気配を放ちつつも、一向に終わりを迎えないイケメンバンク、タキCとの同棲生活、さすがにそろそろタキCの過去とかそこらへんに触れてほしいところです。

ということで今回は前回の続きから。


センタクものが乾くのを待つ間、

すこし遅くなっちゃったお昼ゴハンの時間。

「タキCのスキなお赤飯を炊くね」

「覚えてたのか?」

「覚えてるよ♪」

「だって、好きなものを作ってもらったら、うれしいでしょ。喜んでもらえるなら、あたしも作っていて楽しいもん」

「ありがとう、昼ゴハンが楽しみだ」

「う、うんっ」

なんだか、照れちゃってまともにタキCの顔が見れないよ。

「じゃあ、すぐに作るから待っててね!」

あたしは慌ててキッチンへと逃げこんだ。

もう完全にノロケです。

……何が「照れちゃってまともにタキCの顔が見れないよ」だ! よく考えるんだ、タキCが本当はどういうやつなのかを。パソコンを教えるとかいう詐欺くさい理由をつけて見ず知らずの主人公の自宅へ不法侵入し、そのまま不法占拠、おまけに半強制的に主人公を監禁し、自分はビタ一文生活費を払うことなく、あまつさえ漫画を買う小銭すらたかる始末! 罪状いくつあるんだよ!

さらにはこいつ、たまに500円入れると調子に乗って、「なあ、新しいパソコンが欲しいよ」とか言い出すんですよ!? そのまま3分放置するとキレるので仕方なく500円入れてやると、「ありがとう、おかげで新しいパソコンが買えたよ」とかぬかしやがる。500円でパソコンが買えますか!? EeePCだってその100倍のお金がかかるわ!


――すみません、あまりの事態にちょっと取り乱してしまいましたが、なんとこの回はこのノロケだけで終わりです。

あまりにも進展がなさすぎですし、なんかちょっと勝手に貯金箱の中でいちゃついているのを見せられるのが腹立たしいので、もう一話見ていきましょう。一話進めるのにだいたい1500円ぐらいかかるのが何ともアレな感じですけども。

炊きたてのお赤飯をタキCは嬉しそうにほおばった。

「おいしいな」

あ、はじめてゴハンの感想を言ってくれた。

「じつは、お赤飯は得意なんだよ。お母さんがよく作ってくれてたから覚えてるの」

「家庭の味…か…」

「そうだね♪」

「この赤飯には、お前の心がこもってるんだな。相手のことを考えてるお前の心が…。いままで、そんなことをかんがえて、カイシャを経営してきたことはなかった…。チチから引き継いだカイシャを、数字だけしか見ていなかった。カイシャも、リョウリも同じだ。キモチのこもっていないものは誰の心もゆさぶらない…だから、なのか…?

ヒトリごとをもらすタキC。

なにか、悩んでることがあるみたいだけど…

お赤飯をまえに、考えこんでしまった、タキCを、あたしはそっと見守るしかなかった。

タキC……なんで急に熱く語り出したの……?

個人的に、“相手を無視して自分の話を熱く語る男は100%女性に嫌われる”という持論を有する僕ですが、これまでクール、というかもはやネクラの域に達していると思われたタキCが突然人が変わったようにぶつぶつ言いだしたのにはびっくりです。いや、あくまで独り言だから、ネクラという性格自体は何も変わっていないのか。

それにしてもこいつのつぶやきの内容が酷い。

ここだけもう一度引用すると、

「この赤飯には、お前の心がこもってるんだな。相手のことを考えてるお前の心が…。いままで、そんなことをかんがえて、カイシャを経営してきたことはなかった…。チチから引き継いだカイシャを、数字だけしか見ていなかった。カイシャも、リョウリも同じだ。キモチのこもっていないものは誰の心もゆさぶらない…だから、なのか…?

まず会社を経営するにあたって相手のことを考えたことがない、というのはいくらボンクラ2代目としてもアウトですし、それに気づいたならそろそろお前会社に戻れよ、と思いますし、むしろ今までそれでよく人生渡ってこられたな、とも思います。

ちなみにこの発言を僕がするとどうなるのかちょっと興味があったので、140文字制限で自分の気持ちをリアルタイムにつぶやけるウェブツール「Twitter」(よかったらフォローしてね!)を使って、この記事を書く前にまったく同じ文章を投稿してみたんですけど、数時間放置していたにも関わらず誰からもリアクションはありませんでした

たぶん、「何このめんどくさいやつ……」と思われたに違いありません。なんかほんと、ごめんなさい……。


ということで、これまでにないほどの長文で急にキャラを変えてきたタキC、さすがにそろそろ佳境か!? と淡い期待を抱きつつ、次回へ続きます。

その3( 14 / 16 )

【6月23日】

骨肉の争いで急にドロドロしてきたイケメンとの同棲生活



さて、なんか「もう終わるもう終わる」と言いながらさっぱり終わらないイケメンとの同棲生活ですが、

そろそろ主人公とタキCのノロケを見るのも苦痛になってきたな……と思っていたところで、どうやら急展開を迎えたようです。

←そろそろ皆さんタキCの顔を忘れた頃じゃないかと思うので参考までに。

洗ったシャツを着て、タキCが出かけていってから、数時間。あたしは、トモダチからもらった犬のユキチを留守番相手に、タキCの帰りを待つ。

――ダン、ダン…ダンッ!

あれ…タキCの足音?

なんだかいらいらした足音が表から聞こえる。

ピンポーン♪

「タキC?」

「ああ、ワタシだ」

――カチャ!

ドアを開けるとそこには眉間にしわをよせたタキCが立っていた。

「おかえり、タキC」

「…ただいま」

機嫌の悪そうな様子で、タキCが部屋に入ってくる。

どうしよう。そっとしておいた方がいいのかな?

「タキC、どうかしたの?」

「…なんでも…ない。…べつに、キミが心配することじゃない」

最後の「…なんでも…ない」でなぜかちょっとキバヤシを思い出してニヤニヤしてしまったのですが、それはともかく何だか面白そうな展開になってきましたよ! これまでさんざんタキCの傍若無人な振る舞いにいい加減腹が立っていた僕としてはそろそろやつにきついお灸を据えてやらなければと思っていたところですのでこの鬱展開は望むところ! さあ、何があったんだ? ん? 言ってみな?


「そんな様子のタキCを見てるのに、心配するなっていう方がムリだよ!」

そしてタキCは重い口を開いて、自分のことを話してくれた。

タキCは、あたしでも知ってるくらい有名なIT企業のシャチョウだった。

それは亡くなったお父さんから継いだもので業績もよく、何も問題なく、経営をしていた。

それなのに、社員の引き抜きが始まり、株の買い占めなんかもされちゃったらしい。

その相手はタキCのおニイさん。

要約:ダメな二代目が女性の家に入り浸って会社のことを放置した結果、社員が愛想を尽かし始めた。

……という解釈で合ってますよね?

パソコンに疎い主人公が知っているレベルのIT会社というと、たとえばマイクロソフトとかYahoo! Japanとかでしょうか。あるいは楽天とかmixiとか。……いずれにせよタキCが社長という時点で会社の先行きは見えたような気がしますけど。

沈む運命にある泥舟から逃げ出すのは当然のことなので、引き抜きに応じた社員はまったくもって正しい判断をしているとしか言いようがないのですが、タキCにはそれが理解できない様子。

「アニは、自分がカイシャを譲られなかったことを恨んでいるんだろう」

「そうなんだ…」

「業績も伸びているんだ、カイシャに不満があるはずもない。それなのに…どうして社員たちはアニのカイシャに引き抜かれるんだ! あげくに、恋人までもアニに奪われてしまった。いったい、ワタシのどこが悪いんだ! どうしてなんだっ! そこまで、ワタシはダメなやつなのかっ!

……ええと、いちいちツッコむのも面倒なので、太字にしたところについては各自自由にツッコんでいただければと思うのですが、それにしても話が進めば進むほどタキCのダメっぷりが浮き彫りになる一方ですね。

今のところこいつの長所が「金持ちである」というその一点しかないわけですが、それってつまり有名な恋愛カウンセラーがこの物語を「女性の理想の恋愛」に認定していることから考えて、「恋愛=金」と結論づけられるということでしょうか。そんな厳しい現実を突きつけられるために僕はこの数ヶ月間イケメンと生活してきたというのでしょうか……。


「タキC!」

あたしは、とっさにタキCの背中に抱きついた。

「タキC、そんなふうに焦っちゃダメだよっ! 大丈夫、タキCは少しヒトづきあいがヘタなだけなんだから。そのままのタキCでも、大丈夫だからね」

あたしはタキCの大きな背中にしがみつくようにして、強く強く抱きしめた。

最初は真人間だった主人公ですが、タキCと生活するようになってから確実に人としてのランクが下がってきているようです。不法侵入された上、監禁状態にされたことをもう忘れたのでしょうか。

もしあれがタキCにとっての“恋愛のかけひき”なのだとしたら、それって“少し人付き合いがヘタなだけ”というレベルの問題ではないと思うのですけど。どう考えても“そのままのタキC”では兄貴に会社を乗っ取られて終わりです。

……ただ、むしろその方がタキCにとっても会社の従業員にとってもハッピーエンドであるという可能性は否定できませんが。


ということで次回はタキCがどんな醜態をさらしてくれるのか今から楽しみですね!


そうそう、読者の方からこんなメールをいただいていたのでご紹介。

イケメンバンクにはアラーム機能が付いていますけど、使ってないんですか?

えっ……?


アラーム機能……?



次回へ続く。

その3( 15 / 16 )

【2009年8月8日】

イケメンとの同棲生活が、思わぬ形でラスボス戦へと突入した!



はい、どーも!

かなりご無沙汰しておりましたイケメンバンクレビュー、人格破綻イケメンことタキCとの同棲生活は、まだまだ続いております。


最近「佳境に入った」みたいなことを何度も書きつつ、一向に終わる気配がないのが気になったので、ちょっと調べてみました。

……すると、今回の更新で合計77枚の500円玉を貯金していることが判明しましたので、つまりゴールとなる5万円(100枚分)が貯まるまでにはあと23枚の500円玉が必要であり、一話あたりだいたい500円玉3枚を消費することを考えると、残り4話ぐらいでタキCとの同棲生活も終了するのかな……という感じです。

いい加減この連載にも飽きたわ……という方も多いかと思うのですが、もうちょっとなので良かったらお付き合いくださいませ。


―― さて、だいぶ間が空いてしまいましたので、これまでのあらすじはまとめページで思い出していただくとして、今回はタキCが経営している会社を実の兄に乗っ取られそうになっているという告白をしたところから続きを見ていこうと思います。


背中を抱きしめていると、タキCがぽつりと漏らした。

「いや…本当は、どうして見捨てられていったのか、もうわかっているんだ」

「え?」

タキCあたしの手にそっと触れる。

今度はタキCから、あたしを抱きしめてきた

「タキC?」

「それがわかったのは、お前のおかげだ」

「あたし? あたしは何もしてないよ?」

「ワタシが一方的に押しかけても、お前は追い払うどころか、ワタシを思いやってさえくれた

「あたしじゃなくても、誰でもそれくらいのことは、してくれるんじゃないの?」

「いいや。お前がとても優しいオンナだからだ。ワタシはヒトを思いやる心を持ってなかった。お前との生活で、それに気づかされた。受け継いだカイシャを、ただ数字でしか見ていなかった。カイシャを支えてくれた社員や顧客をないがしろにしたことが、今回の原因だ」

「タキC…」

「ワタシがチチから受け継いだのはカイシャというハコではなく、社員や顧客という中身だったんだ。みながワタシを見限ってアニに流れたわけがようやくわかったよ」


今さら何を言う! とツッコミたくてしょうがない台詞のオンパレードですが、それでもずいぶん成長したなタキC……と思うぐらいに初期のコイツは酷かったので、なんかちょっと感慨深いものがあります。いや、それでもまだまだ人としてはやっとスタートラインに立ったレベルなんですけどね……。

世界名作劇場の悪役ばりの改心っぷりを見せたところで、タキCはようやく自分を奮い立たせ、兄貴と戦う決意を固めます。

「…だ、大丈夫だよ、タキC!」

悲しそうなタキCをあたしは必死になって励ます。

「悪いところがわかったならこれから直せばいいの。それから挽回して、おニイさんのもとにいっちゃったヒトたちを引き戻すように努力しよう!」

「ありがとう…これもキミがパソコンを間違えて持っていってくれたおかげだな。最初はアニが仕向けたスパイかと心配したがさすがに、あんなにうまい赤飯を炊いてくれるスパイはいないだろうな。パソコンのカバンを取り間違えるなんて物語の中だけのハナシかと思っていたがな」

「そのことは、もう忘れてよー!」

「ああ、わかった。ありがとう」

タキCの手があたしの髪をくしゃっとしながら、アタマを撫でていった。


はい、もうこの部分は単なるノロケなのでさっさと飛ばして次に行きたいところなのですが、いちおう誰も覚えていないと思われる「スパイ」の伏線を拾っているのは注目したいところ。とはいえ、ぜんぜんたいした伏線ではなかったので拍子抜けですけど。

なお、最後の「髪をくしゃっ」というのは、女性がされると嬉しいスキンシップ第1位(僕調べ)である鉄板の愛情表現なわけですが、当然誰がやってもいいわけではないので注意が必要です。

ヒトとのつながりの大事さを知ったタキCは、それからよく出かけるようになった。社員との交流を大事にし始めたみたい。

「じゃあ、出かけてくる」

「うん、行ってらっしゃい!」

「わんっ!」

「ユキチもタキCに、がんばれ! だって!」

「ああ、がんばるよ」

タキCは一生懸命がんばったけど、やっぱりおニイさんの方へと流れるヒトはまだ多いみたい。

「…ふう…」

「タキC、疲れてるの?」

「もうすぐケッカが出てしまうからな」

「どういう…こと?」


こんな頑張るタキCはタキCじゃない! と言いたいところですが、逆に考えれば今まで知り合ったばかりの女性の部屋に転がり込み、出社もせずにすべての業務をPCで済ませていたことが社長としてありえないわけで、決して現在のタキCが立派なわけではありません。そこを勘違いしてはいけないのです。

そして気になるのはタキCの「結果」という言葉ですが……。


「五日後に、株主総会があるんだ。ワタシのカイシャの株は、もうかなりの割合をアニに所有されてしまっている。アニが大株主となってしまえばワタシを退陣させられる

「ええっ!」

「ワタシの味方をしてくれる株主もいるが…」

「タキC…」

「心配しなくても、大丈夫だ。最後まであがいてみせる」

「大丈夫だよ、タキCはこんなにがんばってるもの! みんながタキCを助けてくれるって信じるから!」

「ああ、ワタシもそう願うことにする」

生まれ変わったタキCに、みんな、力を貸してあげて…。

あたしは心の底から、そう祈った。


何だかRPGのラスボス戦みたいな空気が漂ってきましたが、どうやら話の流れ的にもこの株主総会が最後のエピソードとなりそうな予感がします。

そしてもう主人公とタキCの二人はこの時点で完全に出来上がってしまっているので、二人の仲については今後崩れるようなことはなさそうですね。とてもつまんないです。

もっとこう、株主総会で退陣させられたタキCを見限った主人公がタキCの兄貴に乗り換えるとかしたら、これまでの歯がゆい展開をすべて吹き飛ばす神シナリオになるんじゃないかと思うのですけど。


そんなこんなで何度も同じこと書いてますけど、今度こそ本当の本当に佳境です。

その3( 16 / 16 )

【2009年10月25日】

男だけど、イケメンと結婚することになった



おう! ご無沙汰!

……。

えー……。

大変長らくお待たせしてすみません。

去年の誕生日にもらったイケメンバンク。

何だかんだでダラダラやっているうちにいつの間にか1年が経ってしまっていましたが、タキCとの同棲生活もいよいよラストが近づいてきました。

500円を貢ぐのを何日か忘れたことで、幾度となく繰り返した悲しい別れ……そして、忘れた頃に突然やってくるイケメンバンク本体の電池切れ

……などに見舞われて若干やる気を失ったりしたこともありましたが(というか何で電池切れたら全部リセットなんだよ!)、とうとうここまでやってきました。

この記事からご覧になった方はわけがわからないと思いますので、お時間あればまとめページからこれまでの流れをどうぞ。

お時間ない方のためにサクッとご説明しておくと、こんな感じです。

突然始まったイケメン・タキC(命名:僕)との同棲生活……という名の監禁生活。仕事に行くことも外出も禁止され、自宅から出られないという恐怖の日々を過ごす主人公だったが、だんだんとそんな異常生活にも慣れ、あろうことか自分を監禁したタキCに惚れ込んでしまう。どう考えてもストックホルム症候群じゃねーか! というツッコミもむなしく、深い絆で結ばれていく主人公とタキC。

そんな折、タキCが経営している会社が実の兄に乗っ取られようとしていることが発覚。主人公のおかげでやっと人としての最低限の常識を身に付け始めたタキCではあったが、時すでに遅し。彼の進退を決める最後の戦い「株主総会」が幕を開けた――。

……とまあ、やや僕のフィルタがかかった解説になってしまいましたけど、ここまでご覧の皆さんならおわかりの通り、別に間違ってはいないはずです。

さて、そしてとうとう今回で長かったイケメンとの同棲生活も最終回。

最後は一挙4話掲載となります。


タキCは一生懸命がんばった。

その後、3日でタキCのもとにもどってきてくれた、社員や顧客もたくさんいた。

でも結局現時点での大株主はおニイさんとなってしまった。

「さてこれから総会までカイシャに泊まり込む」

株主総会は明後日のお昼。

残りはあと1日しかない。

「がんばってねタキC…!」

「だいじょうぶ…だ」

「たとえ、負けるのがほとんど決まっていてもオトコは、戦わないといけないときもあるんだ。負け戦におびえて、尻尾を巻いて逃げるようなオトコは…、愛する女性の前に立つ資格などないと、ワタシは思っている」

タキCは、あたしをじっと見つめた。

「さあ…! いってくる」

「あっ…待ってタキC!」

「株主総会が終わったら、またここに戻ってくる」

…タキCはそのまま…でかけていってしまった…。


……何やら途中でものすごくかっこいいセリフをタキCが吐いているようですが、これまでの経過を知っている僕たちにはまったく響いてきません。感動しているのは主人公だけです。

というかこいつは一度徹底的に挫折した方がいいと思うので、株主総会で退任が決まるのも良い薬になるんじゃないかと思うんですよね!

タキCを見送って、あたしはユキチと部屋の中で待つ。

もしかしたら、残りの1日で、タキCのもとに戻ってくれるヒトがいるかもしれない。

「今、おニイさんが30%の株を持っているんだよね。タキCは25%。おニイさんを超えるように、誰かがタキCの味方になってくれたらいいのに!」

でも、そんなヒト、どこにいるんだろう?

もう、できるだけのヒトたちにタキCはお願いをしている。

あたしが、ものすごくお金持ちだったら、カイシャの株をたくさん集められたかもしれないよ。

あたしは、悲しい気分になって、ユキチの首元に顔をうずめる。

「わうーわうっわうわうっ!」

あれ…? なんだか、ユキチの様子が変だよ。

「首輪がかゆいの?」

首輪を外すと何だかベルトの一部に妙なふくらみが。

「???」

何だろう、何かが中に入ってる?

「なに、これ?」

出てきたのは小さく折りたたまれた手紙。

「えっと…『ユキチの面倒をみてくれている方へ。わたしは、フクザワ財閥の…』うそ、そんなことが…!?」

驚いて、ユキチを見る。

「ありがとう…ユキチ!」

もしかしたら…タキCが助かるかも!

あたしはユキチの首輪の中にあった手紙を握りしめた。

そして、急いで部屋を飛び出したのだった。


このままタキCが落ち込んだ顔で帰ってきて主人公が励ましてハッピーエンド……かと思っていたら、ここでまさかの急展開。そういえば今まで説明してなかったかもしれませんが、ユキチというのは二人が飼っていた犬の名前です。……犬にまで金にまつわる名前を付けなくても……。

それはともかく、実はユキチの首輪に手紙が仕込まれていたことに気づいた主人公。もし現実にそんなことがあったとしても、「だから?」という感じですが、しかしどうやら今回はこの手紙が物語の最後のキーになりそうです。

「ユキチ、急ごう!」

「ワンっ!」

あたしはユキチと一緒に、タキCのカイシャの、株主総会会場へと向かう。

……

その頃、株主総会の会場ではタキCの退任を迫るケツギに入っていた。

「タキC、おまえにはカイシャを導く力が足りない」

「ワタシはそうは思わない」

タキCの前には、血を分けた実のアニ。

けれど二人の間には、未だ深い溝がある。

「このカイシャの筆頭株主はオレだ。そのオレが、お前に退任を要求する!」

「……っ」

ざわめく会場。

そのとき、会場の入り口で、警備員の騒ぐ声が聞こえた。

「カンケイシャ以外立ち入り禁止です!」

「だからーっ、あたしはカンケイシャなんだってば!

あたしは警備員の手を振り払う。

「タキC!」

「あっ……!」

いや、アンタは関係者じゃないよね!?

「タキCの退任はあたしが許さない!」

「キミはタキCの知り合いか? ここはオンナのコが遊ぶ場所ではない。さっさと立ち去りなさい!」

「タキCは変わったの。ヒトを思いやる心を知ったってこと。あなたはまだ知らないだけ」

「その話は後日、聞こう。今は、株主総会で重要なケツギをしている最中だ」

タキCの兄貴も誰に似たのかかなり嫌なヤツみたいですが、しかし主人公の屁理屈もむちゃくちゃです。

「タキCの退任はあたしが許さない!」という根拠が、「タキCは変わったの。ヒトを思いやる心を知ったってこと」って……そんな話を株主総会で持ち出されても……そりゃ兄貴も「その話は後日」って言いますよね。

しかし、言いたいだけ言った主人公はここで切り札を放ちます。

「おニイさん、あなたの所有するカイシャの株は、何パーセントですか?」

「32%だが?」

「タキCは?」

「ワタシは30%まで取り戻したが何の話をしてるんだ?」

「ユキチの首輪には、もとの買い主のテガミが入っていたの。ユキチの世話をしてくれた人には、何でも好きな希望を叶える…。その人のところへ行ったら、あるカイシャの株券の委任状を預かったの。きっと必要だから。そう言って渡されたの。タキC、5%分の株券の委任状だよ」

ええー!? あ……さっきの「関係者」ってそういうことかよ!

「バカな…」

驚いた顔のおニイさん。

そりゃこんなことになったら、「バカな……」としかリアクションできませんよね!


「ありがとう! タキCは壇上から駆け下りてくると、みんなの前であたしを抱きしめた。

「…タキC!?」

「ありがとう、ぜんぶキミのおかげだ」

タキCはヒトの目なんか気にしていない様子で、あたしを強く抱きしめ続ける。

シーンとした会場の中、突然ひとつのハクシュが響いた。

「はははっ!」

それは明るい笑い声をあげた、タキCのおニイさん。

「タキC! おまえ…いつからそんなに、人間くさくなってたんだ? 愛想がなくてヒトの心がわかっていないオトコだと思っていたが、どうやら本当に変わったらしいな」

おニイさんのハクシュに続いて他のヒトからもハクシュが響き始める。

「本当にありがとう」

「よかったね、タキC!」

あたしもタキCの背中に手を回し、強く抱きしめ返した♪


……いやちょっと待って!?

何か良い話みたいにまとめようとしていますけど、もうちょっと冷静に考えてみよう?

そもそもユキチが何で主人公のところにきたか、というエピソードを僕はぜんぜん覚えてないんですけど、何かそれっぽい話ありましたっけ? それとももしかして僕が気づかず飛ばしてしまっていたのでしょうか……。

いずれにしても、おそらく捨てられていたユキチを拾って主人公が飼うことにしたということなのだと思いますが、その元の飼い主がたまたまタキCの経営する会社の株券5%分を持っていた、ってそれどんだけ天文学的な確率だよ!

いやまあ、イケメンバンクに今さらリアリティを求めても詮無きことではありますが……。あとこの主人公はそもそも第一話でタキCのパソコンのパスワードを偶然探り当てたというミラクルな運の持ち主だし……まあ、ありっちゃありか……。



――と、ここで僕がこれまでに貯金した枚数を確認すると、ジャスト100枚!

ということは……。

そしてついに!

エンディングきたー!

タキCとケッコンして、いま、あたしはニューヨークに住んでいる

あたしは優雅に…

え? おいおい、いきなり話が飛んだな! しかもニューヨークて!

ゴォォォ…!

これが終わったらおセンタクだよね!

タキCはハウスキーパーを雇えばいいっていうけど、これくらいできるもん。

「あれ…?」

部屋の隅まで掃除機をかけてる途中に、壁との間に不思議な隙間を見つける。これなんだろ?

「きゃっ!」

なに? 壁が動いた!?

あたしはびっくりしながらも、そっとの壁の向こうの空間に足を踏み入れる。

忍者屋敷かよ!

……というかこれってエンディングのはずなんですが、まだ何か一波乱あるのでしょうか。

すると、そこには一面の本棚!

「何これ?」

よく見れば、本棚には大量の少年マンガが綺麗に並べられている。

「何これー?」

「…見つけてしまったか…」

「タキC!?」

背後からしたタキCのコエ。いつの間に、帰ってたんだろう!?

「隠していたのに…」

そういえば、タキCって少年マンガがスキだった!

「キミはよくよく、ワタシのヒミツを知る運命にあるらしいな」

「んもぅ、こんなところに隠してなくてもいいじゃない」

「さすがにちょっと恥ずかしかったんだ」


ここへきて新事実! タキCはマンガオタ!

……あれっ、でもそういえば結構前にタキCが主人公にマンガを買ってほしいってねだるエピソードがあったような……。なんか微妙な伏線回収だなオイ!

「別に、少年マンガを集めてるくらいで、タキCをキライにならないよ」

「当たり前だ、ワタシほど、キミを愛してる人間はいないからな。だからワタシ以上に、キミを幸せにできるオトコもいない。しかるに、嫌われるわけがない。…嫌わせないから、な」

最後の最後までわけのわからないことをのたまうタキC。

「…嫌わせないから、な」

↑ここで鳥肌が立ったのは僕だけではないと信じたいです。


――そして……。

「わかった」

タキCはうなずいてから仲直りのキスをくれる。

――ちゅ(ハート)

タキCと一緒の、幸せな日々。


……お……。


終わったーーー!


やっと終わったーーー!


長かった……実に長かった……正直、こんなに続けるつもりじゃなかった……。


うーん……色んなことがあったなあ……。


ええと、例えば……。



……。



……。



ぜんっぜん、思い出せない……。


ヤバイ、一年もやってたのに、ストーリーが薄すぎて何も覚えていない……。

唯一、タキCがとんでもなく嫌なヤツだったということだけは記憶しているのですが、それ以外の諸々が脳内から綺麗に消え去ってしまっています。

自分で書いたログを読み直すのも面倒なので、もうこのまま感想も何もなしにフェードアウトしようと思いますが、とりあえずイケメンとの同棲生活を通して女性の理想の男性像を学び、自分の恋愛に役立てようという企ては、この一年間を振り返る限り、ものの見事に失敗したと言わざるを得ません。

無理だったんや! 最初からイケメンバンクを参考にするってこと自体に無理があったんや!


……とまあ、そんなわけでここまでお付き合いいただいた皆さん、ありがとうございました。

タキCとはこれでお別れですが、もし皆さんが再びタキCと会いたくなったら……そのときはぜひ、デパートのオモチャ売り場に行っていただければと思います。



マルコ
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