小説の未来(21)

 不思議なことに、我々は、現実に体験していないことでも、記号化されてしまうと、未体験の過去の事実を、あたかも、体験したかのように思えるのです。まさに、そこに、”記号マジック”があるのです。

 

 

 

 つまり、人は、未体験の過去のものであっても、記号化されてしまうと、それを過去の事実だと”思い込む”のです。言い換えるならば、過去の事実であったとしても、それが記号化されなければ、過去の事実として認識されず、存在しなかったことになるのです。

 

 

 

 身近な過去についても同様に、1ヶ月前のことは、記憶に新しい経験ですから、ある程度は具体的に記号化できます。記号化されたものは、正確に言えば、事実そのものとは違うのですが、事実だと思い込み、納得します。一方、記号化されなかった事実は、その人にとっては、過去ではなくなってしまうのです。

 

 私たちは、記号やイメージを使って過去を認識します。だから、人にとっての過去とは、記号やイメージでしかないのです。当然、それらは、”脳機能の産物”でしかありません。

 

 

 

 未来においても同じようなことが言えます。自分にとっての未来は、記号化されたも、もしくは、イメージ化されたものでしょう。当然、過去と違い、未来は未経験なるものですから、記号もしくはイメージで表す以外ないのですが。

 

 

 

 つまり、私たちが認識している過去と未来は、”記号もしくはイメージでしかない”ということなのです。言い換えれば、”現実そのものではない”ということです。だから、記号やイメージで認識している”過去と未来”は、「虚構の世界」であるといっても過言ではないのです。言い方を変えれば、我々が思い描いてる”過去と未来”は実体のない「言語の世界」でしかないということなのです。

 仮に、人が、言語力と想像力を失えば、過去も未来も認識できなくなるということです。極端な言い方をすれば、その人にとって、”過去も未来も存在しない”ということです。

 

 

 

 もっと、具体的に言えば、今、私たちは、風景を見たり、音楽を聴いたり、と視聴覚を使って、現実を実感しています。でも、その人にとって”このような現実”は、その人の”脳機能でしかない”のです。つまり、脳機能を失えば、その人の現実は失われるのです。

 

 

 

 

          記号・概念が悩みをつくる

 

 

 

 ここで、”悩み”と”記号・概念”の関係について考察してみましょう。人には、感情が存在しています。感情は、記号で表せるものもあれば、表せられないものもあります。また、感情と深くかかわっている悩みがあります。悩みも、同様のことが言えます。

 

 

 

 思考や感情は、記号・概念によって生み出された産物です。また、記号化されていない概念(脳機能)は無限といっていいほどあります。そう考えると、既存の多種多様な記号・概念が、新たな概念(脳機能)を作り出していると考えられます。

 

 

 

 ところで、いったい、”悩み”はいかにして生まれてくるのでしょうか?悩みは、不安感情、憂鬱な気持ち、として現れるので、自然発生的、生理的、なものと考えられるでしょう。また、理性では理解できないもののようにも思えます。

春日信彦
作家:春日信彦
小説の未来(21)
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