小説の未来(21)

 仮に、人が、言語力と想像力を失えば、過去も未来も認識できなくなるということです。極端な言い方をすれば、その人にとって、”過去も未来も存在しない”ということです。

 

 

 

 もっと、具体的に言えば、今、私たちは、風景を見たり、音楽を聴いたり、と視聴覚を使って、現実を実感しています。でも、その人にとって”このような現実”は、その人の”脳機能でしかない”のです。つまり、脳機能を失えば、その人の現実は失われるのです。

 

 

 

 

          記号・概念が悩みをつくる

 

 

 

 ここで、”悩み”と”記号・概念”の関係について考察してみましょう。人には、感情が存在しています。感情は、記号で表せるものもあれば、表せられないものもあります。また、感情と深くかかわっている悩みがあります。悩みも、同様のことが言えます。

 

 

 

 思考や感情は、記号・概念によって生み出された産物です。また、記号化されていない概念(脳機能)は無限といっていいほどあります。そう考えると、既存の多種多様な記号・概念が、新たな概念(脳機能)を作り出していると考えられます。

 

 

 

 ところで、いったい、”悩み”はいかにして生まれてくるのでしょうか?悩みは、不安感情、憂鬱な気持ち、として現れるので、自然発生的、生理的、なものと考えられるでしょう。また、理性では理解できないもののようにも思えます。

 ところが、意外に思われるでしょうが、悩みを作り出しているのは、”記号・概念”といえるのです。ただ、それに気づいていないということなのです。”悩み”をすべて記号化できれば、悩みの実態がつかめるのでしょうが、やろうとすれば、気が遠くなるような作業となります。

 

 

 

 胎児の脳は、母胎にいるころからいろんな記号を受信し、それらの記号が作り出す概念によって形成されていきます。ところが、ほとんどの人は、どんな記号を受信して、どのように脳細胞が形成されていったかの自覚はありません。

 

 

 

 いったい、どこからやってきたのか?全く見当がつかない”不可解な悩み”は、記号で自覚することが、とても困難なのです。もし、心の奥に潜んだ悩みをすべて記号化し、そのための具体的な対策を考えられたならば、どれほど、気が楽になることか。

 

 ”なんとなく憂鬱”、”気分がすっきりしない”、”イライラする”とか、現象的な感情であれば、ある程度は、記号化できるかもしれませんが、悩みの根源的な部分を記号化することは、至難の業です。

 

 

 

 悩みを作り出しているのは、すべて記号だとは言えませんが、やはり、多くの場合、記号が作り出しています。赤ちゃんの頃から受信した親からの記号。学校の先生や友達から入手した記号。教科書、TV、新聞から入手した記号。ネットから入手した記号。このような多種多様な記号が、悩みを作り出しているのです。

 

 

 

 ”不可解な悩み”を知るには、何らかの方法で、悩みを具体的に記号化しなければなりません。でも、できないからこそ、ますます悩みは深刻化し、最悪の場合、自暴自棄になって自殺する場合も出てきます。

 

春日信彦
作家:春日信彦
小説の未来(21)
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