小説の未来(21)

 人は、胎児のころから膨大な量の記号を無意識に記憶しているのです。だから、脳に内在する記号・概念を客観的に理解することは、かなりの時間を必要とし、苦痛を伴う作業となるのです。でも、”不可解な悩み”を理解する上において、内在する記号・概念を具現化し、理解することは、必要になります。

 

 

 

 それでは、脳に内在する記号・概念を客体化し理解するのは、どうすればいいのでしょうか?このことは、そう簡単ではありません。というのは、既存の記号・概念は、自然発生的に独自の記号・概念を無限に創造し続けるからなのです。

        ”不可解な悩み”の記号化 

 

 

 胎児のころから集積された既存の記号・概念は、新たな記号・概念を生産し続けています。だから、脳は、自覚が困難な概念が増大し続ける宇宙といってもいいでしょう。このような脳宇宙に内在する”不可解な悩み”を客体化するには、自覚が困難な概念をどうにかして、記号化しなければなりません。

 

 

 

 自覚が困難な概念を記号化する方法ですが、そう簡単に思いつくものではありません。私は、読書したり、物思いにふけったり、詩を書いたり、エッセイを書いたり、と高校時代に漠然と模索しましたが、皆目見当がつかず、糸口がつかめませんでした。結局、無意識に、やり始めたことは、小説を書くことでした。

 

 

 

 感情概念だけ記号化するのであれば、詩、俳句、短歌、などが考えられます。また、思考概念だけを記号化するのであれば、論文でいいかもしれません。両方の概念を記号化するとなれば、小説が最も効果的ではないかと思います。

 

 

 私にとっては、心の奥深くに潜む悩み、苦しみ、悲しみ、などの考察には、小説が最適だと感じています。だからといって、誰しも私のようなやり方が最適だとは言えません。その人それなりのやり方でいいのではないでしょうか。

 

 

 

 私にとって、小説を書くということは、あくまでも脳に内在する”不可解な悩み”の記号化であり具現化です。だから、その人なりに自分ができる悩みの具現化を試行錯誤すればいいのではないかと思います。もし、記号化がにがてな人であれば、絵画、音楽、スポーツでもいいと思います。

 

 

 

 生きるということは、自分を活かすことです。より有効に、自分を活かすには、脳に内在する”不可解な悩み”を具現化する必要があります。私にとって、小説は、一つの手段なのです。

 

 すでに述べたように、小説ほど自由な創作はないと思っています。難しい技術は必要ありません。自分の考え、感情を自分勝手に記号化すればいいのです。他人の評価を気にする必要はありません。

 

 

 

 自分の気持ちがよくわからない、自分の未来が見えない、人間関係がうまくいかない、何をやればいいかわからない、学校に行きたくない、仕事に行きたくない、だれとも話したくない、もう、死にたい、このような悪魔に取りつかれたような悩みを持っているいる人は、たくさんいます。

 

 

 

 でも、悩みを一瞬にして解決する方法は、ありません。だからこそ、やけくそでもいいのです。気晴らしに、自分勝手に、いい加減な、ちょっとした小説を書いてみてください。きっと、思いがけない小さな光が見えるはずです。

 

春日信彦
作家:春日信彦
小説の未来(21)
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